第87話/超最高っ!!
第87話
「そ。あたしはこの大会でアレを発効するつもり毛頭ないし、アレなしでもあんたに勝てる自信がある。ここ半年弱であんたより強くなったつもりなわけ」
……ま、マジかよ。これは完全に予定外だ。
発効しないんだったらあの怪物を倒すのは別の機会になってしまう……(困惑)。
「は? 何でそんな残念そうな顔付きするわけ? 異能力者として病み上がりのあんたにはラッキーでしょうよ?」
「…………か、かもな」
仕方ない、気持ち切り替えていこう。
そもそもあの怪物を攻略するための策なんてなかったんだ。
グロキモだった外見の情報以外は何も知らないわけだし。
熾兎が退屈そうに首根を回した。
「さぁ、いいかげん試合を始めるわよ? 決勝はこの闘技グラウンドの中だったらどこを走っても負けにならないわ。安心してあたしから逃げ回って頂戴」
「逃げ回るつもりなんてない。何度も言ってるだろ、優勝してみせるってよ!」
「! あたしも言ってんでしょ!? 優勝は不可能だってッ!!」
だったら不可能を可能にしてみせるぞアリス!
まずはピコハンだ!
「…………。そんなの当たらなければ怖くないわよ」
「当たれば怖いってことだろ?」
俺はピコハンを手にして右肩をぐるぐる回すと、
「よし、ストレッチ完了と。早速だがこれを食らえ……!」
「!」
妹だろうと関係ない。
俺が熾兎に対して発効したのは、パンチラの風だった。
彼女のスカートが謎の強風によって捲れ上がる。
……が、その丸見えになった中身は彼女の下着ではなく。
「なっ!? た、たたたたた短パン、だとぅー!?」
「はあ? 何驚いてんのよ? 当たり前のことじゃないの」
熾兎はその場で仁王立ちしていた。
「短パン履かなきゃ見え見えになっちゃうじゃない。履いてないで試合出てる痛い子なんていんの?」
いやいたよな!?
じゃあやっぱりそのお姫様、心から注目されたかったのか!?
どうりでTバックだったのか!?
「ってか、実の妹のパンツを全国に晒そうと企てる兄とか……前代未聞ね。ネットで叩かれまくるわよ?」
「そ、そんなことない」
逆だろう。ネット住民からは『アイツは俺達の兄貴だ』って称賛されまくるに違いない。……妹ちゃん達からは『死んで詫びろ』って罵倒されまくるだろうけど。
「まぁでも? 今のあたしは昔と違って、パンツくらい晒しても平気なんだけどね? 別に減るもんでもないんだしさ」
「じゃあパンツ脱げよ!」
「短パンでしょ!? い、言い間違えてんじゃないわよこのタワシ……ッ!!」
やば、素で間違えた。
熾兎ちゃんに怒られてしまった(・ω<)。
「……! ああもう、何なのよ、あんたは何なのよ!?」
なぜか熾兎は苦しそうに額を押さえ始め、
「やっぱワケ分かんない!! どうなってんの!? 似てるけど、ほとんど同じだけど、あたしの知ってるあんたとは何かが決定的に違う!!」
「……い、いきなりどうした?」
熾兎の突然の異変にたじろぎ一歩下がる俺。
こ、これは……。ひ、ヒスった、のだろうか……?
「記憶喪失になったから!? 違う! そんなじゃない! じ、人格!? 人格がおかしいっての!?」
おおう、妹に人格疑われるとか悲しい。
……まぁ当たってはいるが。
(……確かに俺はこの世界での憑々谷子童本人だ。だが熾兎の知っている憑々谷子童じゃない)
だから俺は過去の憑々谷子童と人格だけはすり替わっていて―――。
「お前は……この俺が偽者だって言いたいのか?」
「だったり、するんじゃないの……!?」
「…………」
トピアほどではないが……鋭い。記憶喪失からグッと近づいてきたのは自明だ。
まぁきっと俺の思考を読んだのだろう。無論アリスほど正確ではないのだろうが……それでようやく俺の人格を疑うまでに至ったと(納得)。
とはいえ始めに俺を『憑々谷子童の偽者』と疑ったのは奇姫だ。
熾兎は二番目。この期に及んでまた疑われても、俺には驚きに値しなかった。
と、
「……………………あは、」
不意にがくりと顔を俯かせ、だらりと両腕を下げた熾兎。
「そっかー、そっかそっかー♪ これは神様から与えられた試練……。ううん、ご褒美ってわけね? そうじゃなきゃこんな奇跡、起こるはずないでしょ……?」
「!? お、お前は何を……!?」
俺は衝撃的な光景を見せられていた。
というのも辛うじて見える熾兎の口元が……彼女の口角が……不気味なほどに激しく打ち震えていた。
次の瞬間、彼女は蒼天を勢いよく仰いで、
「あは、あはははははははは!! もうっ、超最高っ!! ねぇ、どっかで眺めてる神様!? こんな奇跡を起こしてくれたんだから、あたしは本当に、あたしの好きにしてしまってもいいってことでしょ!? そうなのよね……!?」
「……………………、何だよ」
何だよ。
何だ何だ何だ何だ何だ何なんだよ―――ッッ!?
(熾兎がこんなに狂喜してるのが理解不能だ!! 奇姫みたいに俺を偽者と疑い出しただけじゃないか!!)
それなのにこれは神様からのご褒美って!?
どうしたらそんな突飛な解釈になるんだ!?
「はは♪ ビビりまくって汗ダラダラじゃん?」
喜色満面の熾兎は歌うように、
「いいわ、あたしは今これ以上ないってくらい気分が高揚してるから、特別に教えてあげる♪」
「!」
言いながら熾兎が右手に発効してみせたのは漆黒の大鎌だった。
ただし以前は大鎌の刃部分だけだったが今回は違う。
彼女の身長と同じくらいの長柄に、あの時見たのより何倍と巨大な刃。
まさに死神が持っていそうな武器だった。
彼女は大鎌を背中に回し、それを地面に突き立てると。
「まずあたしはね? あんたのことは本物の憑々谷子童と期待してんのよ」
「き、期待……?」
「うん、希望的観測ってことね。……そもそも、あんたが偽者だってんなら目的は何? あたしにバレないようこんだけ上手く変装してるんだし、よっぽどの目的でしょ?」
「…………、それは」
かもしれない。
変装した人物の身内を騙すのは骨が折れることだろう。
まして今回は実の妹だ、騙すなんてできないと思う。
「目的が壮大なものになってしまうから結局のとこはありえない。あんたが本物である可能性の方が高いのよ」
「俺は……偽者じゃない」
「ええ。であるからこそ俄然あたしも期待せずにはいられないのよ。あんたが本物でありますように、ってね?」
「な、何でだよ? 俺が本物だったらお前が得でもするのかよ……?」
「イエスね。だってあたしはこれから、あんたが本物か偽者か、それを判明させるために―――」
そこで。熾兎は背中から引き抜くかのように大鎌を振り上げ、その黒光りしている刃を俺に突きつけてきた。
身を強張らせた俺に対し、彼女はこのように口を紡いだ。
「あんたを殺してみなきゃならないんだし」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。