第84話/見えてしまう
第84話
「! しまっ!?」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず―――君の置かれた状況はまさしくそれだったのだ。気づかなかったとは学園最強らしくないな、子童君?」
ピコハンを当てたい一心で追いかけてしまったが故の致命的ミス。
俺は時間的に深入りしすぎたのだ。
俺の眼前で瞬く間に彼の残像が生まれいずる。
そして五つ目が誕生した刹那、
「「「俺の勝ちだ、子童君」」」
勝利宣言と共に。
逃げ出そうにも手遅れな俺に、生徒会長は容赦なく襲いかかってきた。
「くそっ!」
「こっちだ」
俺のピコハンが虚しく生徒会長の残像を叩く。
その隙に残像移動した彼は、強烈な足払いを俺に見舞ってきた。
さらにバランスを崩した俺の右腕を、別の残像からがっちりホールド。
ピコハンを封じ込め、掌底が俺のこめかみに放たれた。
「うぐ! がぁ!?」
横に大きく傾ぐ俺の体。しかし生徒会長はやはり容赦がなかった。
顎をハイキックしてきたのだ。これには立っていられず俺は後ろに倒れていく。
さらに追撃とばかりに顔を鷲掴みにされて、押し倒されていく。
(……アリ、ス! お前もキツいだろうがやってくれ……!)
地面に背中がついたら負けなのだ、これも秘匿するしかない。
混濁する意識の中、確かに視界の両端には地面の水平線が見えていた。
「……ぐ! またこの煙か!」
ボン! という爆発音が似合いそうな真っピンクの煙。
だがしかし生徒会長は俺の
「二度も同じ手が通用すると思ったのか!?」
拡散しつつある煙から這い出した俺。
その右腕を強引に掴むや否や、引き倒そうとしてきたのだ。
それはどうにか倒れまいと堪えた俺だったが、次の瞬間、
「これでトドメだッ!!」
助走をつけてからの跳び蹴りが、俺の背中……肩甲骨の間を完璧にとらえた。
格闘ゲームのようにアクロバティックに決まった一撃は、俺の体を五メートル近く低空飛行させ、両手から頭、頭から腹、そして腹から両膝へと順繰りに着地させたのだった……(敗北)。
「どうだ子童君!? 学園最強はたった今、この俺が譲り受けたぞ―――ッ!!」
生徒会長の誇らしそうな咆哮だった。
すると観覧席がどよめきで騒がしくなってきた。
(うん……うん。確かに両膝は地面にぴったりくっついているな。なるほど、俺の負けだな)
彼だけは俺の負けに……見えてしまうよな。
「悪い、今あんた、何て言ったんだ?」
生徒会長のすぐ背後、真っピンクの煙から姿を現した俺は、そう訊ねてピコっと。
彼の油断しきった後頭部を、ピコハンでぶっ叩いた。
「な!? あ……ぴゃあ……?」
「おおう、せっかくのイケメンが台無しだ」
俺はにやりと笑い、
「それじゃ反撃させてもらうとするか。……あ、その前に言っておくけどな?」
俺は再びピコハンで彼をぶっ叩くと、
「あんたが倒したのは
「……にゃひ……?」
生徒会長が呆けた顔で後ろを振り返るが、すでに
「別にあんたは理解しなくてもいいぞ。俺は読者に説明してるつもりだしな。……さっき、
「……あひゃん……!?」
三度目のピコハン攻撃。……こうして断続的にでも叩いておけば、彼を気絶しかけた状態のままにさせられる。結構エグいので、正直使いたくなかった手段なんだけれども。
「とにかくだ。真実はあんたの負けで俺の勝ちなんだ。だってそうだろ? このピコハンで念入りにあんたを叩き続けてたら……さすがのあんたでも何もできな、」
その時だった。
―――俺の鳩尾に、生徒会長の拳が突き刺さったのは。
「がっ!? ぶぅ!?」
俺の頬にも拳を振るってくる。二度、三度、四度。
ぼんやりした顔ばせで、生徒会長は溜めに溜めた渾身の一発を、俺の鼻頭を中心点に解き放った。
「あぐがぁ!?」
ま、まさかコイツ!?
ほぼ無意識で俺に攻撃してるのか!?
そんなに学園最強の肩書が欲しかったのかよ!? と内心ツッコみながら、俺は鼻血を噴き出し白目を剥いた。
しかしそれまでだった。
彼の不意打ちには俺を倒すに至るまでのパワーはなかったのだ。
「ふぉ……」
電池が切れたかのように生徒会長が両膝をつく。
彼が発効してあった全ての残像が消え失せたのだった。
「いづづ……。これは
どうも判然としない。
俺の具体的な勝因は不明だが―――。
『武闘大会準決勝第一試合が終了しました。ここで会場の皆様にお知らせします。準決勝第二試合を予定していたHブロックの勝者が棄権しました。よって続いては決勝となります。BブロックとGブロックの勝者は速やかに闘技グラウンドに集まってください』
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