第62話/ヒロインいけますか?
第62話
「!? や、ヤンデレ化キタァァァァ――――!?」
俺は近所迷惑も承知の上で叫んだ! 叫ばずにはいられなかった!
俺ってばそこまで大和先生に惚れられてしまっていたのか!
というか自分の会社で暴れて同僚を脅迫って、どんだけ~(死語)!?
「無論、部内のみで済んだ話ではない。異能警察の全部署がわたしの存在に畏怖し、ひとまずはわたしの方針に従うことで意見を一致させたのだ。……どうだ憑々谷? これでお前は気兼ねなく武闘大会に参加し優勝できるぞ? わたしを大恩人と思うだろう? 思うよなぁ?」
「おおお思います……あ、ああありがとうございます……で、でもよくご無事でしたね?……やっぱり著者の仕業ですかね?……あは、ははは」
「憑々谷君、あまり先生の発言を信じ込まないでください……」
呆れた様子のトピアは、目線の定まらなくなった俺にも不憫そうに溜息すると。
「暴れたとは言いますが、犯罪に値するほどではありませんでした。それに……全部署が先生の方針を採用したのは、実は全く別の理由からなんです」
「べ、別の理由?」
「はい。ある報告を上に提出したんです。先生とわたしの連名で」
「ふん、つまりはこれを利用させてもらったのだ」
と言い、大和先生がいきなり握ってきたのは俺の右腕だった。
その手首に装着されていたブツを指し示し、
「分かるな? スキルゲッターの偽物だ。これを本物である可能性があるとして上に報告した」
「……あ、ああ!?」
一気に見えてきたぞ!
二人の思惑が!
「わたしはだいぶ以前に『憑々谷子童は
「ですが憑々谷君―――君の知らない彼が、大量の
「だからこそ異能警察は憑々谷の動向を一層警戒した。そして『一国を滅ぼしかねない最強の異能力者』という精密検査の結果が、無視できないほどには真実味を帯びたのだ」
なるほど……聞いた限りじゃ筋は通っている。
「先生とわたしは今回、『日本異能研究所が密かにスキルゲッターの開発に成功していて、それが彼の手に渡ったことで、彼は最強の異能力者になれたのでは?』との見解を提出しました」
「だとするとだぞ?……報告を受けた異能警察は、『じゃあ
「……、けどこれは―――」
「ああ。外見こそ限りなく本物に近いが、偽物だ。わたしは憑々谷の過去についても洗っていたが、そんな腕輪をしている情報は見当たらなかった。やはり『憑々谷ではなかったお前』が、この世界に来た時に持ってきたとみて間違いない」
断言する大和先生。
トピアも深く頷いていた。
「嘘であると認識しながら、先生とわたしは上に報告したわけですね。ですがこれが大成功でした。異能警察は憑々谷君本人ではなくスキルゲッターに捜査の矛先を傾けたんです」
「それって要は……異能研究所を先に捜査すべきだ、って考え直したってことか?」
「その通りだ。スキルゲッターが本物だとすれば自然、お前だけが持ってるとは限らんわけで、そちらの方がよっぽど問題だしな。まぁもっとも……一か月もあれば研究所はシロだと判明するだろうがな? たった一か月だ、くくく!」
大和先生がしたり顔になっていた。
とてもじゃないが異能警察の人間に見えなかった……。
「そんなわけでして、三日間の停滞という代償はありましたが、君の大会優勝が異能警察によって阻まれることはなくなった格好ですね。これは喜んで良いことだと思います」
「わたしが脅迫したおかげだな。そろそろ子作りする気になっただろ、憑々谷?」
俺は脊髄反射のごとく何度も頭を振った。感謝はしたかったが、先生への恋心のようなものは皆無だった。
「ちっ……だがわたしは絶対にお前を諦めないからな!? お前がこの世界の主人公であるというなら尚更だ! わたしこそが真のヒロインだろう……!」
はは……そんなに自信があるなら読者に訊ねてみればいい。『三十で独身ですがヒロインいけますか?』って。マジキチで超弩Sでヤンデレなのもお忘れなく。
「っと、そうだ。ウザキャラのアリスはどうした? 死んでないよな?」
「生きてますよ。今は別室で気絶しています」
「ん? あれからまだ起きてないってことか?」
「違います。君を優勝させるためにこの三日間も特訓していたんです。先ほど百回目の発効限界を迎えたところでした」
「………………………………………………………………」
トピア先輩、やっぱりマジパネェっす……。
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