第184話/相応しいクエスト
第184話
キキが猛反対したものの、俺達はリーゼロッテのゲートを使い、地ノ国の酒場に移動した。
「信じらんないわ! あそこまで行っておいて普通戻ってくる!?」
「キキ。いい加減落ち着けよ。さっきも言ったがな、リーゼのゲートがあれば問題ないんだ」
「そ、そうですよキキさん。いつでもあっちに行けるんです。お父様と火ノ国が心配なのは分かりますが、焦っちゃダメですよ……」
キキを宥めたのはナクコだった。彼女は臆病な性格なので俺の慎重な判断に賛同してくれたようだ。
「……それに、イツモワールさんの様子が変だったのは事実じゃないですか。長老さんがわたし達を罠に嵌めようとしたと考えるべきですよ……」
「あたしも罠だと思ってるわよ。起こしても倒してもマズいってね。けどね、寝てる相手を起きるまで待つなんて生産的じゃないでしょ」
「だったら、生産的なことをしてたらいいのかよ?」
するとキキは俺に不満そうにしながら、
「ただ生産的であればいいわけじゃないわ。だって、優先度が一番高かったのを後回しにしたのよ? せめて今のあたし達に相応しいのじゃないと」
「はあ。急に言われてもなぁ」
俺は椅子に座った。今日はもう足腰を休めたかった。
(やれやれ。お前だって疲れてるのに無茶な要求すぎるだろ。そのひたむきな姿勢は評価してもいいが……)
キキに睨まれていたが、すでにアリスとヒツマブシとリーゼが他人事のように着席済みだ。キキに味方する気がある者はいなかった。
「おや? どうされましたか皆様? 生産的なクエストでしたらこちらに沢山ございますよ?」
―――いた。もはや煽っている印象しかない酒場の店主が、頼んでもいないのにクエストの紙束をテーブルにどさっと置いた。
「……おい」
「一枚で一つのクエスト。左上にはクエストランクが明記されていまして、上はSSSランクから下はDランクまで。合計で千三百五十一種類ものクエストがこの世界には存在します」
「誰も聞いてない。というか前に聞いたぞそれ」
「ええ、ええ! 忘れてしまわれたかと思いましてねぇ!?」
がっつりと青筋を立てている店主。まぁ俺がクエストを全く受注しないから相当イライラしていたのだろう。
「ねぇツキシド。この人にオススメを教えてもらうのはどうかしら?」
「今の俺達に相応しいクエストをか……?」
ずいぶんと話のテンポが早いものだ。どうせ著者によってキキと店主がグルになっているパターンだろう。断るべき。
(……いや。一度こうなってしまうと俺達がクエストを受けない限りイツモワールは目覚めないな。著者もついに我慢の限界か)
ある意味イツモワールの放置は失策だったかもしれない。
結果的に著者の思惑通りに行動してしまった気がする(後悔)。
「別にいいんじゃないかなぁ? あの鳥さんの起床チェックはリゼたんに任せとけばいいしさー。明日からまったりクエスト消化でいこうよ」
「とか言いながらやる気ないだろお前……」
アリスが怠そうに突っ伏していた。同じ王女様なのにキキとはえらい違いだ。著者に操られていない点では逆に安心感があるものの。
「どうする、ヒツマブシ?」
「ぴゅ~ん」
「そうか楽しいか」
我がパーティー唯一の小動物はクエストの紙束をごちゃごちゃにさせていた。
恐らく土を掘っているつもりだ。楽しそうで何よりだ。
「リーゼ、お前は?」
「わたくしは構いませんが」
「ナクコは?」
「わ、わたしも頑張りますっ! 精一杯頑張りますっ!」
「よし、分かった」
魔族コンビからも同意を得られたので俺は渋々店主に声をかける。
「オススメのクエスト、あるんだろうな?」
「ええもちろんございますとも! 貧乏な皆様は生活費も稼がなければなりませんよね! とっておきのクエストをご紹介いたしましょう!」
「貧乏言うな。あとお前が勧めたクエストを必ずしも受けるわけじゃないことは理解しとけよ?」
そんなこんなでクエストを受けるハメになった俺達は、早速クエスト探しから開始したのだった(憂鬱)。
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