第38話/奇姫のありがたい()アドバイス
第38話
えっ、今何と言ったんだこの子? じゃあチューして?
いやいや、さすがに聞き間違いだよな?
すごい当たり前みたいに言える台詞じゃないだろう(常考)。
[なぁ、俺達はもうそんな年頃じゃないだろ。いいかげんやめないか?]
「ヤだ。約束のチューは一生続けていくって二人で決めたじゃん」
[幼稚園のときの話だろ……まぁ仕方ないか]
ぜ、全然仕方なくないぞ!? 一緒にお風呂みたいなノリを恋仲でもないのに高校生になるまで続けてる幼馴染とか、おかしすぎるだろ!?
[よし、目を瞑れ]
「うん」
え、本気でするのか? 著者ってば癒美の肩に俺の手を置いたぞ?
目を瞑った癒美に俺の顔を近づけていってる。しょ、正気なのか?
(というか俺、こんな全く予期しない形で女の子の唇を味わうのすごい複雑なんだが! 正直めちゃくちゃ嫌だ! や、やめろッ!!)
「ふ、不純異性交遊は許さないわよ!?」
突き刺すような声は廊下からだった。そのタイミングで俺は著者の支配から解放され、自分の意志で廊下に目を向けることができた。
「…………げ」
そこにいたのは真っ赤な顔で今にも教室に入ってきそうな気迫の奇姫だった。
すぐ後ろには無表情のトピアも立っている。
「憑々谷君。こんな朝早くに何をしているのですか?」
あくまで事務的に問いかけてくるトピア。だが俺には底知れぬ恐怖が襲いかかった。つまりは本妻が怒ってるみたいなやつだ。俺の自意識過剰には違いない(泣)。
「? なぜ固まっているのですか? わたし達に構わず続けてください。女子の肩に手を置き、顔を近づけて、その次は?」
トピア先輩エグすぎる! かえって反省したくなった!
俺は堪らず癒美から離れようとしたが、
「次だって。続けよ?」
「癒美サン!?」
何なんだこの子は!? 肝っ玉おかしくないか!? 役者の血みたいなのが悪い方向に混ざってしまっているんじゃないか!?
「続けてください」
「続けよ?」
こ、コイツら完全に狂ってる! というかこんなヒロイン達は絶対イヤだ!
堪らず俺は「助けてくれ奇姫!」と叫んだ。
「……えっ? あたし?」
「どう見ても不純異性交遊だろ! 止めろよ止めてください!」
……うん、いよいよこの世界に嫌悪感を抱いてきた。読者もこのへんで読むの止めるべきじゃないだろうか。その方がよっぽど人生のためになると思う(真顔)。
「えーっと、じゃああんたは不純異性交遊を認めるのね? 未遂の場合は四百字詰め原稿用紙三百枚に反省文書き終えるまで独房生活だけど」
「すみませんやっぱり見逃してくださいお願いしますこのとーり!」
奇姫に全力で土下座する俺。……大量の反省文を書くくらいだったら弱みを握られる方が遥にマシだった。
「おーっほっほっほ! これはびっくり! あたしとしたことが憑々谷子童の弱みをまた握ってしまったのねッ!?」
うわぁ超うざい……。
「ところで……。お前達の方こそ、こんな朝っぱらから何してたんだ?」
「保安委員会のパトロールですよ。ほぼ毎日、朝と放課後に実施しています」
「え、トピアも保安委員だったのか?」
「違います。人手が足りないとのことで渋々手伝っているんです」
「渋々か」
「トピアは大変優秀な異能力者だもの。嫌でも手伝わせるのが筋ってもんでしょ」
すごい理論だった。奇姫を尊敬してしまいそうだ(白目)。
「分かった。それじゃまた今度な」
「待ちなさい。何自然に話切り上げようとしてんのよ」
「……ちっ」
しくじった。
しかも二人共、教室に入ってきた。
ああそうだ。初めて俺の前にヒロイン()が揃ったわけだ。
ただしどう見てもハーレムじゃなくて修羅場です本当にありがとうございました(泣)。
「んで?」
んで? じゃないだろ。むしろこっちが言いまくりたい。
んで? んで? 何の用なんだ?
「その子は憑々谷子童の何なの?」
「幼馴染だが」
「ふーん……。幼馴染ねぇ……」
すると奇姫は癒美を舐め回すように見、それからニヤっとして胸を張り、
「勝った♪」
と宣言した。
「あの、どちら様でしょうか? それに勝ったって……何にですか?」
心底不快そうに訊ねる癒美。意外にも奇姫とは初対面だったようだ。
「あたしは奇姫よ。一応あんたと同じ一年だけど……あっちは違ったみたいね?」
「あっち……?」
「そうよ! 女のステータスじゃないの!」
「っ!」
大きく胸を張る奇姫に対し、癒美はハッとした途端に胸元を隠した。
その恥ずかしそうな様子を見て俺は呆れてしまった。
(著者め……身体的特徴で女子を勝負させるなんてどうかと思うぞ)
まぁ挑発行為は奇姫らしいと言えばそうなのかもしれないし、女子の間では日常茶飯事なことだったりするのかもしれないが。少なくとも第三者目線では決して気持ちのいいものではない。
「……どうすればあなたのように大きくなりますか?」
「もっと牛乳を飲みなさい。修行僧のポーズをしなさい。憑々谷子童はね、あ、あたしみたいな……巨乳の子が好きなのよ! 巨乳フェチなのよ!」
奇姫がこれでもかと胸を張って癒美に断言した直後だった。
「違います。憑々谷君は脚フェチです」
まさかのトピア先輩参戦―――ッ!?
「えっ、脚フェチ? そうなの?」
「はい。憑々谷君はわたしの脚をスリスリしたいんだそうです。わたしに直接言ってきました」
「な、何ですって!?」
奇姫が驚いたように仰け反り、癒美も絶句したように口元を隠している。
……ちなみに俺は―――二人がそれぞれのリアクションに囚われている隙に、こっそり教室から逃げ出そうとした。
「ちょ、あんたどこへ行くのよ!?」
できるわけがなかった。余裕で腕を掴まれますた(焦)。
「は、離せっ!」
「ええすぐに離すわよ! 存在自体が変態みたいなあんたに触ってたら妊娠させられそうだしね!」
と激昂し、奇姫は俺の腕をゴミを見るような目で払い捨てた。
トピアが俺の性癖を暴露したからだろう。
癒美は涙目になっていた。
「ねぇ憑々谷君……。今のは本当なの……?」
「い、いや。トピアが今言ったことは―――」
「存在自体が……。変態って……」
「そっちかよ! なわけないだろ!」
コイツはコイツで真に受けすぎだろう!?
さすがに俺は釈明しようと思った。脚スリスリは冗談で言ったと。奇姫のは論外。巨乳フェチを一切公言していないと。
だが、やはりと言うべきか―――釈明しようと口を開けたその瞬間、さも神の意志が働いたかのように、ぞろぞろと十数人もの生徒が教室に押し寄せてきた。
結局三人には俺が何フェチなのかすら伝えられなかった……(泣)。
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