第161話/最終兵器()のターン
第161話
まさしく無慈悲な戦争だった。地ノ国の騎士団がグリーヴァ討伐に挑む。彼らの退路が消えた今、彼らが生き残るためには目の前の魔王有力候補を倒す他ありえなかった。
だが、武器を爪先に当てられたところで、虚を突く連携が取れたところで、騎士団長が戦線に復帰したところで……。それらは巨人になった魔王有力候補にとって許容範囲のど真ん中だ。
「ぴゃっハ―――!! いいねェ、いいねェエエエエエ!?」
グリーヴァの右腕が群がる騎士団を散り散りにさせた。特注の鎧を纏っていたところで巨人の一撃には太刀打ちできない。騎士団の戦闘不能者が増えていく一方だった。
「おいさっさと立てよ虫ケラども。これ以上足で立てねェってんなら羽でも生やして立てや」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
と、騎士団長のオルバフが気力で立ち上がった。
ただしグリーヴァの挑発に乗ったというよりは騎士団の士気を高めるためだろう。
そう……ただでさえ低い士気をだ。
「俺はッ、貴様を倒す! そしてイリアの元に戻るのだッッ!!」
「さっすが騎士団長サマは他より根性あっていいねェ。うんうん、よっぽどイリアっつーオンナが大事なんだなァ。ならいいぜェ、その意気に免じてテメエはお望み通りオンナの元に戻してやるよ」
「今更そんな戯れ言に騙される俺ではない!」
騎士団長が単独でグリーヴァに攻勢を仕掛けていく。だがその足取りはおぼつかない。上半身血だらけなので貧血が原因だろう……(唖然)。
「あ、あいつ……! 主人公じゃないのに主人公みたいなことしたって……奇跡なんか起こるわけないだろ!」
「ぴゅ~ん……」
それこそグリーヴァが見逃さなければ助からない。
エロフコスの少女、イリアとの結婚は永遠に果たせない。
リア充カップルが……爆発する。
「いやホントだぜぇ? テメエとは敵将同士、飽きるほどヤり合ったからなァー? その礼も兼ねてサービスしてやりたくなったわけよ」
「黙れ! 無慈悲な貴様のことだ、狡猾な思いつきに違いあるまい!」
「あッ、はい」
―――その時、グリーヴァの手が騎士団長の体を捕らえた。
巨大な手で騎士団長を束縛すると、まるでオモチャのお人形を手に入れた赤ん坊のように振り回した。
「ぐああああああああああ!? な、何の真似だ貴様ッ!?」
「今考え中なんだよねェー。どんな風にテメエを愛するオンナの元に戻してやるのかをさァ―――」
「ど、どういうことだッ!?」
「だって戻すったって色々あんだろォ? テメエを焼いたり潰したりバラバラにしたり! うーん、どんな亡骸にして戻せばオンナがヤベぇ絶望すっかなァ―――!?」
グリーヴァの無慈悲極まる発言だった。
しかしその直後、騎士団長の部下達が一斉に鬨の声を上げて立ち上がった。
ようやく騎士団長と運命を共にする決心が付いたのだろう。戦闘不能者以外、ほぼ全員が騎士団長を救うべく、そしてグリーヴァを倒すべく走り出した。
「ぎあっぴゃ―――!! なァんだ、まだこーんなに根性あるヤツらがいるじゃねェか!! ってェことは、最後の最後で無慈悲な合体パワーを発揮しちゃうんですよねェェェン!?」
戦闘狂のように期待の目で待ち構えるグリーヴァは、べちん、という音が聞こえそうな調子で騎士団長を地面に叩き付けると。
「オレサマ大ピィィィンチ! そらお約束ですからねェェェン! だけどちゃーんと対策してるのがこのオレサマサマサマ! うーんこの過剰な警戒ぶり、我ながら無慈悲すぎて泣けてきちゃうぅうン!!」
決死の面持ちで最後の攻撃を試みる騎士団。だがそれを嘲笑うかのようにグリーヴァは両手を振り上げ、ゆっくりと足下に落とした。
「「「!? ぐわあああああああああああああああ―――!?」」」」
グリーヴァの腐敗錬成によって、戦場の地盤が瞬く間に泥土となった。脆すぎる地面に騎士団の両足が沈んでいく。体を動かせば動かすほど地中に沈んでいき、彼らに抵抗する術はなかった。そのまま全員、頭部以外が生き埋めになってしまった。
「……えー、誠に無慈悲ではございますがァ、オレサマの出番はこれにて終了でございまァーす! 合体パワー発揮できなくてタイヘン残念でしたねェェェン!!」
最初から迎え撃つつもりはなかったと言いたげに、グリーヴァは狂気に高笑いしていた。
……つ、つまりあれですか(汗)。
「さァさァ! いよいよ虫ケラどもにトドメを刺すお時間がやってきたぜェェェ!! ヤれ、無慈悲にヤっちまいなァ最終兵器ツキシドォォォォォ!!」
だよな! 俺の出番ってことだよな!!
「…………え、えっと」
遠くからでもグリーヴァがわくわくしてるのが見て取れた。俺の必殺技()は筆舌に尽くしがたいと聞かされているだけに、楽しみすぎて仕方がないのだろう……。
「!? おいどォしたツキシドォ!? もう黙って突っ立ってなくていいんだぜェ!? 見ての通り騎士団はオレサマが身動き取れなくしてやった! あとはテメエが最高に無慈悲な一撃を見舞ってやればいいだけだッ。そしたらこの戦争は終結、グール族が地ノ国を支配するスバラシイ時代がくるッッ!!」
そのあたりはもちろん理解できている。……けど俺はガチの無能なんだよ! 女子にパンチラさせる風すらも起こせなくなって、正直言うと主人公の自覚がなくなってきてたんだよッ!
「…………。おいツキシド、まさかだがテメエ、こいつらをヤれねェとは言わねェよなァァァン?」
「そ、そそそそそんなわけねぇよ!? 俺、ヤれっから!!」
や、やばい。つい否定してしまった! どうしよう、ああどうしよう! 巨人になった今のグリーヴァならカエルジャンプで一気にこの丘まで移動できてしまう。俺を殺すのに時間なんてかからない! このままでは本当にマズい―――!
「ああっ! ツっきんやっとはっけーん!」
「…………。え?」
俺は山のように盛り上がった壁に振り返った。なぜだろう。そこにはアリスが壁を越えて飛んできていた。しかもナクコとキキも連れていた。
「お、お前ら、捕まってたんじゃ……!?」
「ん。捕まってたけど飽きたから抜けてきたんだよ。で、ツっきんが今どこにいるか訊いてここにやって来たわけだね」
「! は、はは……!」
そうか。アリスはグール族の子供達と仲良く遊んでいたくらいだ。牢部屋から抜けようと思えばいつでも抜けられた。そしてピコハンを用いれば俺の居場所を吐かせるのも難しくない……!
「じゃあナクコとキキは―――」
「はい……アリスさんに助けていただきました……」
「あたしも偉そうなグールと喧嘩してたらアリスにね」
ナクコは泣き腫らしたのか目が真っ赤だ。キキは普段と変わらず元気そうだ。
……キキには不満がたんまりとあるが、まぁ後にしよう。
「何はともあれ全員無事で良かった……って言いたいところだが、今はそれどころじゃないんだ」
俺は苦笑してみせるのがやっとだった。
人質はいなくなったが安心できる状況ではない。
「ツキシドォォォ! ツキシドオオオオオオォォォォォォォォ!!」
グリーヴァが怒号を放ってきた。
「テメエ、なぜそこに人質がいるッ!? いつだ、いったいいつ人質を別拠点へ救出しに行ったァ!? テメエは確かに晩餐まで牢部屋に閉じ込めていたはずだッッ!!」
どうやら彼には人質が自力で逃げたとは考えられないらしい。ナクコは魔王有力候補だが臆病で泣いていたし、アリスとキキは人間族の王女だ。
か弱そうな彼女達にグール族が脱走を許してしまうなんて事態が、彼にとっては非現実的なのだろう。
「ええっ!? グリーヴァさんが巨大になって怒ってるんですかぁっ!?」
ナクコがこの世の終わりみたいな顔になった。
「さ、さすがに退くべきじゃないかしら? あたしの爆炎剣でも勝てる気がしないし……」
「ピコっと★ハンマーも通用しなさそうかなぁ……」
キキとアリスも弱腰だった。
やはり俺達の実力ではグリーヴァを倒すことは不可能だ。
しかしながら退くのも無理だ。
壁を越えるためにはアリス頼みになるし、時間がかかりすぎる。
「つーかテメエ、オレサマを裏切る気満々だったんだよなァァァン!?」
言いながらグリーヴァがその場にしゃがみ込むと、
「殺ス、殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス……!!」
カエルジャンプで俺達がいる丘の上へ大跳躍、問答無用で俺達を皆殺しにする。
そのつもりだったのだろう。
「なァ……!?」
突如尋常ではない爆発音がして、グリーヴァが勢いよく背後を振り返った。
なんと山のような壁が破壊されていた。丁度彼の背後あたりの壁だ。しかも隕石でも落ちてきたかのように付近は燃え盛っている。
「―――お答えください。あなたは今、どなたを殺すと仰ったのですか?」
よく通る、冷徹な声音だった。
いつの間にかグリーヴァの頭上に三頭のドラゴンがいた。
その内の一頭に乗った女性には見覚えがある。
―――大玉スイカ二つ分のおっぱいをぶら下げた、ネグリジェ姿のサキュバス!
「!! リぃぃぃゼぇロっテぇぇぇぇェェェェエェ―――!!」
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