第158話/特注品VSほぼ全裸

第158話


 俺とヒツマブシはグリーヴァに同行した。逃げ出したい気持ちは死ぬほどあったが、彼の傍には直近の部下も三名随行していた。彼らの目を盗むのは到底無理だし、やはりアリスとナクコ(とキキ)を人質に取られている以上、逃げ出すわけにはいかなかった。


 俺はまさに処刑地に向かっている心境で荒野を歩いていた。これほどの絶望感は人生初。足取りの一歩一歩が重い。時の流れが早い。グール族の拠点からまだ十分も経っていない気がするのに夕日が沈んでいた。


 地ノ国の王都がおぼろげに見えていた。

 古代文明を思わせる土の建造物が密集しているようだった。

 そして。この切り立った丘の上から、はっきりと見えていたのは。




 ―――グール族。ホラー映画もかくやの荒くれ者達が、一心不乱に荒野の秩序を蹂躙していくおぞましい姿と。


 ―――地ノ国騎士団。重厚な剣と鎧は元より、個々の挙措動作までも統一してグール族に立ち向かっていく勇ましい姿だ。




「あっぴゃアー!! 激突スンゼンチュウゥゥゥん!!」


 グール族と騎士団が闘争本能の赴くままに夜の荒野で激突する。彼らは真正面の集団を真の敵と断定し、一切の躊躇を捨てて敵陣に突貫する。

 すでに彼らは戦争は始まったと認識しているのだ。


「ヤベえ、ヤッべえよこれェェェ!?」


 グリーヴァは面白そうに戦場を一望に収めつつ、


「連中ども、普段よか丈夫なモンあつらえてやがった! この用意周到さ、ムジッ、ヒイイィィ―――!!」


 確かに素人目にも良質な武装だと分かった。プレートアーマーでは動きにくいはずだが彼らの走る速度はグール族と互角。つまり軽くて頑丈である証拠だ。体のサイズに最適化させた特注品とも考えられる。


「お、おい。こっちとあっちで装備の差がありすぎやしないか……? というかこっちは丸腰のグールばっかじゃないか」

「ぴゅ~ん……」


 ゲームで言えば『ほぼ全裸』というやつだ。少なくとも戦争参加者の格好ではない。

 あれおかしいな。グール族が勝利するビジョンが見えなくなってきた……(汗)


「はッ。心配なんざするまでもねェよ。テメエも知ってんだろ、グール族には腐敗錬成があるってよ」

「……、」

「ほれ見ろ。テメエの心配を余所に、こっちの連中も武装し始めたみたいだぜェ?」


 グリーヴァが顎をしゃくってみせたので俺も確認すると。


「! すごい」


 グール族は鬨の声を上げながら着々と武器を錬成していた。体の一部を剣に変えたり、拾った木の枝を槍に変えたり。皆が皆、まるで粘土遊びか何かのようにやりたい放題だ。これは頼もしい。


「だろォ? しかも今の連中は血を大量に摂取した状態だからなァ。この戦争が終結する時ぐらいまでは無限に錬成できるだろうよ」

「無限に? ま、マジか」


 そう言われると安心感は出てくる。……が、ほんの少しだ。実はこちらが不利である理由は、火を見るよりも明らかだった。

 というのも、この戦場で待っていた騎士団の人数はグール族の倍以上。多勢に無勢という言葉がしっくりくるほどの戦力差だった。


「な、なぁ。腐敗錬成が無限にできても戦力倍とかにはならないよな?」

「そうだなァ。今の連中でも騎士団を壊滅に追いやるほどの戦力じゃあねェな。……逆にこのままじゃあ、こっちが無慈悲に壊滅させられちまうだろうよ」


 などと冷静に予想しつつも、グリーヴァの瞳は依然として勝ち気であり狂気そのものだった。


「ちッ。時間はかけてらんねェな」

「は?」

「いいか、最終兵器ツキシド」


 恐ろしく響きが良すぎる呼ばれ方だった。


「普段より早いがオレサマ達も参戦する。とりあえずテメエはこの丘で待機してろ。戦果をテメエに独り占めされちまうのはグール族の歴史に傷が付くのと同義だしなァ」


 なら俺はお前らに手を貸さない方がいいんじゃないだろうか……(常考)。


「テメエはここで戦況を窺いつつ頃合い見てトドメを刺せ。もちろんグール族にじゃあねェぞ? 騎士団連中どもにだッ! 間違ってもオレサマ達を巻き込むんじゃねェぞ!?」


 どちらにもトドメを刺せないので間違いを犯すはずがない……(常考)。


「あっぴゃアー! テメエの実力を拝ませてもらう前に、まずはオレサマの実力をテメエに拝ませてやるぜェー!」


 そう狂気に叫んでグリーヴァと部下達が丘の上から飛び降りていく。

 ついにその直後、グール族と地ノ国騎士団が激突した―――!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る