第147話/仲間
第147話
俺は焚き火の前で胡坐を掻き、組んだ両足の間にアリクイを置いた。
それからアリクイから分泌されるウナギのタレを堪能していく。
「は~、こりゃあ脳が蕩けちまうくらいの甘さだな。ご飯が欲しくて辛い」
「ねぇツっきん?」
「おや。どうしたアリス。いつまでも物乞いみたいな顔したってやらないぞ」
「そこを何とかお願い! ね、今までの『貸し』を全部帳消しにしていいからっ!!」
こいつどんだけ舐めたいんだ。ウナギのタレ(味)。
「ふむ。それなら悪くない話だな。……おいアリクイ、このウザい王女にお前の分泌液、恵んでやってもいいか?」
「ぴゅ~ん」
「…………。そうか、分かった」
俺はその返事に納得し、おねだりしているアリスに口を開く。
「というわけだ。諦めてください」
「諦められるかあっ! そもそも会話になってないじゃーん!」
ごもっともだった。
あくまで俺の判断である。
「いや、だってよ。俺は飼い主のように懐かれてるから問題ないが、お前は違うだろ。近所のクソガキポジションだ」
「ならあたしにも懐いてもらう! その子調教する!」
「……、調教して懐くのか?」.
それはペットの飼育では普通なのかもしれないが……果たしてこのアリクイに成功を収めることができるのだろうか。
だってこのアリクイ、何考えてるかサッパリなくらいに大人しい。
調教できるのか怪しすぎる。
「ふふん! ちょっと貸してみんしゃい!」
「あ、おい」
アリスにアリクイを奪われた。
何をしでかすのかと警戒したが、
「ほらっ! たかいたかーい!」
「ぴゅ~ん」
「たかいでちゅねー! もっとたかくしちゃうよー!」
拍子抜けするほどの赤ちゃんプレイだった。
「……調教じゃなくてただの遊びになってるんだけど?」
「だな」
興味なさげなキキに同意する俺。
しかし直後だった。
「ほらっ! 怖いでしょ! たかくて怖いでしょ! ここから落とされたくなかったらあたしに懐いて頂戴!」
「確かに調教だな! ただし動物愛護団体が動くレベルだよ!」
アリクイ奪還のためアリスに全力突撃していく俺。ついでに一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、ここで意外な介入が入った。
「アリスさんダメですっ! 弱い者イジメはいけません!」
ナクコが獣じみた飛びかかりでアリクイを奪取。
目にも留まらぬ早業だった。
「ナクコりん? いきなりどったの?」
「だって可哀想じゃないですかっ! わたし達の仲間になったばかりでこんな洗礼を受けるだなんて!」
「「「えっ」」」
唖然としてしまう王女コンビと俺。まさかこのアリクイに仲間意識を芽生えさせているとは思いもよらず、俺達はナクコに何も言い返せなかった。
というか、俺の晩飯なのだが……(困惑)。
「あれ? 皆さんどうして固まっているんですか? わたし何かおかしなこと言いました?」
「いや、その……」
こりゃ弱った。俺はこのアリクイの分泌液に満足したら逃がすつもりだったのだが。コミュニケーションが全く取れないわけだしな。
かといって今『このアリクイは仲間じゃない、俺の晩飯だ』なんて言い放つのはバツが悪すぎる。ただでさえ少ないリーダーとしての風格が損なわれそうな気がしてならない。
(……仲間か。そういや俺、前の世界では大和先生を仲間と認められなかったよな。まぁ先生はトピアやアリスを傷つけていたから、俺的にはどうしても無理だったが)
このアリクイだったら。俺に懐いていてずっと大人しい小動物だったら。
仲間にできないこともないか……?
――――非常食、アリクイが仲間になった(プゥップルー)!!
「そっちで勝手に認定すんのかーい! せっかく真剣に悩んでところだったのに!」
「つ、ツキシドさん?」
「あ、すまん。こっちの話だ」
突如頭の中に流れ込んできたファンファーレにげんなりしながら、俺はナクコに抱き抱えられているアリクイを見た。
非常食は……まぁ確かに無いに越したことはない。本当に餓死寸前になったら背に腹は代えられない。嫌でも食べるとしよう(外道)。
「覚悟は決まった感じ?」
「覚悟ってほどでもないけどな。このアリクイも俺達の仲間となった以上、こいつを傷つける真似は禁止だ」
「別にイジメたりしないわよ。えぇ、あたしにとって有害じゃない限りはね」
「……、お前が有害」
「な、何ですってぇ!? あたしのどこが有害だってのよっ!?」
キキがうるさいのでさっさと次に移ろう。このアリクイが俺達の仲間になったのだから愛称となるべき名前が必要だ。このままアリクイと呼び続けるのは扱いが冷たい。
「ところで、このアリクイさんのお名前はどうしますか?」
「それを丁度考えようとしてたところだ。ナクコ、お前が名付けてみてもいいぞ」
「わ、わたしがですか。じゃあ、えーっと…………プンプン」
「気持ちは分からんでもない。だがそれだと匂いよりも怒りをイメージしてしまうな」
「ですよね……すごく大人しい子ですし」
「じゃあモフモフ!」
「それを言ったらナクコもモフモフだろ。却下だ」
「だったらウナギでいいんじゃない? ウナギのかば焼きを彷彿とさせる匂いなんだし」
「キキ、お前は赤ちゃんから人生やり直せ」
「そこまで酷評される謂れはないわよ! 匂いのせいでウナギのイメージが強烈すぎるのは事実じゃないの!」
まぁ否定はしない。だがこれはセンスの問題だ。なぜウナギなんて直球な名前を提案したのか、そこに呆れるだけの理由がある。
「ったく、お前らもまだまだだな。どうやらリーダーの俺が名付けるしかなさそうだ」
「自信があるようね。いいわ、言ってみなさいよ! ウナギよりも似合う名前があるんだったらねぇ!?」
「ヒツマブシ」
これしかないと確信した上で、俺は即答してやった。
ひつまぶし。それはウナギのかば焼きを用いた日本料理の一つだ。
アリスとナクコは知らないのかきょとんとした顔をしていたが、その料理名が出されてキキが怯んだのが見て取れた。
この名付けセンス対決、俺の圧勝だ。
「さあ、あえて問おうかキキ? ウナギとヒツマブシ、いったいどちらがこのアリクイの名前に相応しいのかをな!」
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