第135話/折れたらG

第135話


 すでにナクコがテンション低かったが、あの程度の悪戯で『メシウマ』な気分になれるほど非リア充という生き物は甘くないのだ。


「どうしたナクコ? まだあのリア充カップルは爆発してないぞ?」

「そ、そんなぁ……。わたしさっきので限界ですよぉ……」


 涙声になりながら俺の後ろをとぼとぼと付いてくるナクコ。

 そんな彼女に俺は疑問を持たずにはいられない。


「お前、本当にそれでも魔王有力候補なのか? よく今の今までヌコ族を引っ張ってこれたな?」

「好きで魔王有力候補になったわけではないですからね……。それこそ宝具……魔族の首輪の適任者じゃなかったらどんなに良かったことでしょう……」


 ……ん、もしかしてナクコは宝具の適任者だったから有力候補に選ばれたのか。

 俺もドラゴン族からの魔王有力候補として魔族の腕輪を所持していたわけだが。


「あと適任者だからヌコ族の代表にされちゃうのも納得がいかないんですよね……。臆病なわたしに皆を引っ張る才能なんてあるはずないのに……」

「人間族から愛される才能があるくらいだもんな、お前」


 あえて辛辣に言ってみる俺。

 するとナクコはさらにしょんぼりとし、


「ツキシドさん達みたいに精神的に強くなるにはどうしたらいいんでしょうね……。わたしだったら魔王を倒す以外にないんでしょうか……」

「そうだな。ってことで次の悪戯だ」

「お願いですから軽く流さないでくださいよぉぉぉ!」


 泣きつくような言いぶりの反面、ナクコは俺の元から全力で逃げ出そうとしていた。


 当然ながら彼女の逃走を許すわけにはいかない。

 俺は彼女の両脇に手を入れて体を持ち上げた(外道)。


「うにゃあああ――! うにゃにゃあああああ――!!」

「こら、ジタバタするな! というか魔王討伐よりリア充爆破の方が精神的に楽じゃないかっ! そこんとこ分かってるのか!?」

「分かってないですうううう! わたしはできることなら何もしたくないんですうううう!!」


 これは問題児すぎる! 自分を変えたい気持ちがあってもいざ自分を変えられる局面になると超消極的! メンドくさ!


「いいからリア充カップルを見ろ! アイツらアイスクレープを一個買って食べさせ合いっこする気だぞ! お前、間接キスとか許せるか!? 許せないよな!?」

「わたしに同意を求められても困るんですうううう!!」


 くそっダメか。今にもエロフコスの少女が騎士団長にアーンさせようとしている雰囲気なのだがっ(焦)。


「ナクコ頼む! 一生のお願いだ!」

「さっきもそう言ってたじゃないですかあ!?」

「バカめ。『一生の』とは言ったが『一生に一度の』とは言っていない。そんなわけで本日二度目となる一生のお願いだ! さあ急いで間接キスを阻止してこい! やり方はお前のセンスに任せる!」

「うにゃああああああああ―――!?」


 俺の手から解き放たれたナクコがリア充カップルに向かって駆け出す。

 またもやパニック状態になっているようだったが、それでも俺は彼女を信じた。

 ナクコはできる! やればできる子だ!


「はい、オルバフ。アーンして?」

「…………アーン」

「キシャアアアアアアアアアァァァァァァァァ―――!!」


 アイスクレープが騎士団長の口に入らんとする、その瞬間だった。

 ナクコのロケット然とした頭突き(角)が、エロフコス少女の腰にクリーンヒットした。


「きゃああ!?」

「ぶごおぅ!?」


 アイスクレープは騎士団長の口から大きく逸れ、そのままオークコス衣装の胸元あたりにぶちまけられた。


「な、何っ!? この巨大なゴキブリ……!?」

「ふ、不吉だ! イリア、早くここから離れよう……!」


 頭突きした拍子にカブト虫の角が折れてしまったようだ。

 少女と騎士団長は伏せって動かないナクコを本物のゴキブリと勘違いし、慌てたように駆け足で立ち去っていった―――。


「ねえオルバフ、まだ夜には早いけど宿を借りましょ! わたしおすすめの宿知ってる!」

「そ、そうだな! 衣装も汚れてしまったしな! それに何より……君と早く合体したい!」

「も、もうオルバフったら! じゃあ、わたしに付いてきてっ」

「ああ!」


 そんな風に。

 俺にとって聞き捨てならない会話をしながら遠ざかっていく。


「何てことだ!? まだ夕方なのにあのリア充カップルをヤる気にさせてしまった……!?」


 リア充爆発ではなくリア充合体。つまり俺とナクコは目標とは真逆の方向に二人を誘導させてしまったのだ……(不覚)!


「マズい! ナクコ早く起きろ! アイツらを追うぞ!?」

「……………………………………………………。にゃん」


 ナクコはうつ伏せのままポツリと鳴いたのだった(瀕死)。

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