EX6/リーゼロッテの「一緒に帰ろっ♪」その3
EX6
離反したドラゴン族を説得し、再びツキシド様の元に帰っていただくために。
彼の部下であるこのわたくし、リーゼロッテが次に向かったのは、魔ノ国のとある天空でした。
「うぐ……あたい、こんなに別れが辛いとは思いもしなかったわ……」
「吾輩も……カラス族の彼らが恋しい……」
ヒルデ様とアイラス様が涙を流しながら空を飛んでいます。
まだ心の中では決別できていないのでしょう。
お二方の別れは突発的だったり感動的だったりしましたが、いずれにせよくよくよされていては困ります。
特にアイラス様はわたくしを背中に乗せていますので、わたくしを地上に落とさないよう細心の注意を払っていただきたいものです。
「お二方ともご安心ください。カラス族もスパイダー族も別れを惜しんでなどいません」
「り、リーゼロッテ!? お前、なぜそう言い切れるんだっ!?」
「惜しんでいるに決まってるでしょう! 適当なこと言わないでちょうだい!」
わたくしの発言にお二方が相当怒っています。
おかしいですね、安心していただくには説明が必要なのでしょうか。
仕方ありませんね。
「カラス族はアイラス様を邪魔だ邪魔だと大合唱していましたし、スパイダー族はわたくし達の去り際には睨めっこを再開させて笑い合っていましたが?」
「「…………………………………………」」
はい、ようやく安心していただけたようです。
先ほどまでの態度が嘘のように無言のお二方です。夢から現実に戻った雰囲気と似ている気がしました。
「ついに到着ですね」
この世界で最も高い場所にある大地。
それがこの天上に浮かぶ島、ラ・ピュータです。
草花や岩肌、湧泉などが輝いており、神聖な領域であると理解できます。
ですがここが魔ノ国の一部とは考えられません。
わたくしはアイラス様の背中から降ると、改めてこのラ・ピュータの異質さを思い知りました。
丁度その時、木陰から複数の生命体が現れたのです。
「貴様、ありえないほどビッチ臭がしてるヒン! 何者だヒン……!?」
彼らはカラス族以上に大きな翼を持ち、スパイダー族以上に立派な足を持っています。そして何より神々しいほど引き締まった体つきです。
彼らの正体は―――。
「ペガサス族の皆様でしたか?」
「ああそーだヒンッ! 神聖さがウリのペガサス族だヒンッ! まさか俺らがビッチ嫌いと知っててここまでやって来たヒン!?」
「いえ、ビッチなつもりはないのですが……それほど臭っていましたか?」
「言っただろう! ありえないほどだヒン!」
となるとわたくしのビッチ臭を嗅ぎ付けたのでしょうか。
陸からも空からも続々とペガサス族が駆けつけてきました。
本当に臭っているのだとしたらかなりショックです。
「お、おい、さすがにこの数はマズくないか……?」
「早いとこ逃げた方がいいんじゃない……!?」
優に五十頭はいるでしょうか。
アイラス様とヒルデ様が増援の多さに怖気づいています。
わたくしには即時撤退を勧めてきましたが、
「ダメです。まだ彼らを瞬殺するわけにはいきません。わたくしのビッチ臭が具体的にどんな臭いなのか吐かせなければ」
「ヒヒン!? 逃げ切る自信どころか俺らを瞬殺する自信があるヒン!?」
「はい。一瞬で馬肉ソーセージが出来上がります」
ツキシド様には大きく劣りますが、それでもやはりわたくしは強いのです。
強いからこそわたくしは彼の右腕と認めてもらえたのです。
『とにかくもう強くて爆乳なら構わない』―――それが彼の承認条件でしたしね。
何かを諦めたようなニュアンスがどうも引っかかりますが。
「ば、馬肉ソーセージ、だと!? き、貴様、俺らをそんな姿にさせて一体どんな卑猥なプレイをするつもりなんだヒン……!?」
「普通に放置だと思いますが……」
「ええい白々しいヒン! それだけのビッチ臭を放っているサキュバスが放置プレイで済ませるわけがないヒン! どうせ神聖な俺らを凌辱するような激しいプレイなんだろヒン!」
「……ひとまず、わたくしがどんな臭いを放っているのか聞かせてもらえませんか?」
「断るヒン! 口にしただけでも臭いに侵されかねないヒン!」
「そうですか。できれば暴力に訴えたくないのですが―――」
と、その時でした。
バサバサ、と。
天空の彼方から新たな者が急降下してきました。
「―――おい、この神がかった騒ぎは何だ。つい気になって来てしまったわ」
―――ドラゴン族です。ホーリードラゴン。
わたくしがこのラ・ピュータを訪れたのは、まさに神々しいオーラを身に纏う彼を連れ帰るのが目的でした。
「フリーム様。このラ・ピュータにおられたんですね」
「! り、リーゼロッテ!? それにアイラスとヒルデも!? な、なぜ神がかった俺サマの居場所が!?」
「本拠地で聞き取り調査を行いましたので。『この神がかった俺サマと釣り合う、神がかった所に転居すべきか……』との呟き……失言でしたね?」
この世界で神がかった所となるとラ・ピュータ以外に考えられません。
ただ、わたくしには自力でここに向かう手段がなかったので、先にアイラス様とヒルデ様を説得したのです。
「か、帰らないぞ、神がかった俺サマはッ!」
まだ何も言っていないのに、フリーム様は敵対心を露わにしています。
「神がかった俺サマはここに永住すると決めたのだッ。本拠地のように穢れてないし、神がかった俺サマを引き立ててくれる彼らがいるッ! それにツキシドは去ったまま帰ってこない! もはや神がかった俺サマが本拠地に留まる理由がないのだッ!」
「えーと、あたい達もそんな感じに言ったんだけど―――」
「ツキシド様でしたら、お戻りになられましたよ?」
ヒルデ様が気まずそうな表情になっています。
ですがその表情がフリーム様に真実味を与えたのでしょう。
「はッ!? ツキシドが戻ってきた!? いや、だがッ、神がかった俺サマは絶対に帰らんわッ! この神がかった生活環境を手放したくないッ!」
「どうしても……ですか?」
「ど、どうしてもッ!」
そんな切実なご返答に対し、わたくしは内心がっかりしました。
このドラゴンも知能が神がかって低すぎるのではないでしょうか?
「では、仕方ありませんね。裏切り者のフリーム様には一生後悔してもらうまでです。……ペガサス族の彼らを、馬肉ソーセージにしますね?」
「はっ! やれるものならやってみるがいい!」
わたくしの方が不利だと読んでいるのでしょう。
フリーム様は勝ち気な笑みを浮かべています。
「ペガサス族はな、魔力が非常に高い種族なのだ! たかだかサキュバス一匹に負けるわけがないッ!」
「ではあなたがアイラス様とヒルデ様のお相手を?」
「その通りだ、アイラスとヒルデは神がかったこの俺サマが軽く捻り潰してくれよう! ふははははは!」
すでに勝利を確信した様子のフリーム様。
それに対しアイラス様とヒルデ様が、
「お、おい。素直に帰っといた方がいいぞ……?」
「そ、そうよ。リーゼロッテとペガサス族を戦わせない方が……」
「はっ、弱音にしか聞こえんわ! だが降参するんだったら今の内だぞ!? 神がかった俺サマよりペガサス族の方が血の気が多いからな! リーゼロッテが始末された後、どうなっても知らんぞ……!?」
そんな風に。
フリーム様が警告した直後でした。
「……ヒヒン! も、もう、臭すぎて耐えられないヒン……」
バタリ、と。一頭のペガサス族が白目を剥きながら倒れました。
するとあくびが伝染するのと同じように、この場にいる全てのペガサス族が気絶しました。
……どうやらわたくしから溢れ出るビッチ臭に、我慢の限界を迎えたようですね……。
「な、何が起こったんだ!? リーゼロッテ、お前が何かしたのか!?」
「…………実に不愉快です。えぇ、不愉快ですとも」
ビッチ臭とはどんな臭いなのか。わたくしにはほぼ無臭である認識すらあるにもかかわらず、この死屍累々の光景です。
わたくしがイライラしないはずがありません。
「……フリーム様。今すぐわたくし達と本拠地へ戻りましょう。そうしていただけないと……このラ・ピュータを世界から
「「「…………………………………………。は、はい!!」」」
なぜかアイラス様とヒルデ様からも良いお返事がいただけました(完)。
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