第132話/泣き落とし作戦
第132話
俺の作戦―――シナリオはこうだった。
俺とキキは喧嘩別れをして久しい元恋人同士(という設定)。
だが俺達は未だに怒りが収まらず、このコスプレ合コンで偶然再会を果たした途端、口喧嘩を始めてしまう。
俺達は口論になって間もなく、同情を誘うようにそれぞれのターゲットの前で泣き崩れる。
ターゲット達は泣き崩れたままの俺達を無視するわけにはいかず、一旦外へ出ようと勧めざるを得なくなる。
共に外へ出た後は適当に相談や泣き言を聞いてもらい感謝を伝える。
そしてターゲット達の親切な対応に惚れたとでも言ってデートに誘う。
はい、無事にクエストクリア(祝)。
「(……要するに泣き落とし作戦よね。あたし達がターゲット達に連れ出されたように見えて実際はあたし達がターゲット達を連れ出している。強引というより、もう強制的に)」
俺はキキに頷いた。
ざっくりとした説明だったが彼女から異論を挟まれることはなかった。
彼女もこの作戦でいけると判断できたのだろう。
「(口喧嘩は勢いで演じるぞ。互いにストレス発散のつもりで怒りをぶつけ合えばアドリブでも充分誤魔化せるだろう)」
「(分かったわ。頑張って日頃の鬱憤を晴らすわ!)」
「(……? おい、今気のせいか本来の目的を忘れたように聞こえ―――)」
俺が言い終えるより先にキキが動き出していた。
ウェイターのトレイからグラスを貰うと、オークコスの騎士団長に話しかける。
「失礼、ご一緒しても?」
「もちろん」
キキの上品な微笑に騎士団長が笑い返す。
その時、キキ以外の女性陣が彼の前から立ち去っていった。
気を遣ってくれたのかもしれないが、ずいぶん運のいいヤツだ。
「そのコスプレ、とってもお似合いよ。本物のオークみたいで怖いわ」
「はは、ありがとう。君こそよく似合っている。蝶々型の首輪がイケてるね」
「ありがと。だけどまだ誰かに飼われているわけじゃないから安心して?」
「あははははは……!」
「おほほほほほ……!」
うおおう!? キキのくせに話し上手!
打ち解けるんの早すぎだろー!?
(これはモタモタしてられん! 俺もターゲットに話しかけて打ち解けなければ!)
キキと騎士団長の観察はここまでとし、俺も意を決してエロフコスの少女に歩み寄っていく。だが他の男性陣と談笑中に声をかけるとあって緊張感がハンパなかった。
「す、すすすぃませんっ!」
「………………。はい?」
「あ、あのっ、ご一緒しても大丈夫か!?」
……うん、うん。意識しすぎてダメになるのが俺の短所なんだよな。
分かっちゃいる。分かっちゃいるんだけど治せないんだよなこれが(泣)。
「だ、大丈夫ですけど……あれ? あなたどこかで……?」
運よく男性陣が立ち去っていく中、エロフコスの少女は俺のことを思い出そうとしていた。
「えっと……コスプレ喫茶でお会いしたかな、と」
「ああ! ヌコ族に食い逃げされて翌朝まで始末書を書き続けるハメになった時の! わたしを五番のプレイでお持ち帰りしようとしていたお客様でしたね!」
「……そうです。あの時は捕獲できないままお店にも戻らないですみません……」
やべ、一気にテンション下がってきたわ。
彼女の思い出し方からして脈ナシだろ。声かける前から終わってるだろ。
打ち解けるとか不可能だろ(常考)。
「いえいえ、こちらこそ多大なご迷惑をおかけしましたし、きちんとお顔を覚えておらず申し訳ないです。でも……それより今はこのコスプレ合コンを楽しみましょう。ドラキュラのコス、すごく似合ってますよ!」
「! あ、ありがとうございます……」
だが、いい子すぎてじわじわ泣けてくる。
太陽みたいに眩しすぎて直視できないレベルだ。
俺は彼女から目を逸らした拍子にキキを見る。
するとキキもまた俺を見ていた。互いにターゲットと二人きりで話している今がチャンスと、目でそう訴えている。
―――マジでやるのか? 泣き落とし作戦を?
外見も内面も超絶美人なこの子に?
(い、いいや、今更躊躇うな俺。俺はこの子をお持ち帰りすると決めたんだ。そのぶれぬ精神こそが俺のジャスティス。やらないで後悔するよりやって後悔しろっ!)
「あーっ! あんた、ここで会ったが百年目ぇ――!!」
痛々しい台詞を棒読みで叫ぶキキ。
彼女は騎士団長との会話を中断すると、俺の元恋人としてずかずかとこちらへやって来た。
……バトル開始!
「何でよ!? 何であんたみたいなコミュ障が合コンしちゃってるわけぇ!?」
なっ!?
キレる理由が斜め上じゃないか!?
「べ、別にいいだろ! 俺だって合コンくらいするわっ!」
「はあ? 『美少女フィギュアと恋人のあたし、どっちが話しかけやすいのよ!?』って質問して迷わず前者を選んだあんたがぁ?」
いや話しかけないだろ! それほど二次元を愛する人間はいるのかもしれないが、俺は話しかけない!
「だいたいね、あんたは存在自体がそこはかとなくキモイのよ!」
「き、キモイとは何だキモイとは!……久しぶりに会ったと思ったら、まぁずいぶんと言いたい放題じゃないか!」
よし、ここいらで反撃してみよう。
俺とキキ、どちらも泣き崩れるような口喧嘩じゃないとダメだ。
……そうだな、騎士団長をデートに誘おうとしている元恋人だから―――。
「じゃあ俺からも言わせてもらうがなぁ! お前、大して能のないくせに高望みしすぎなんじゃないか!?」
「な、何ですってぇ!?」
「ああそうだよ! 犬コスで誠実アピールしたところでな、お前のその欲望に塗れた色目は隠しきれてないんだよ! いいか、男はちゃんと気づいてるぞ! お前が男を財布としか見ていないってなぁ!」
合コンや婚活において経済力のある男は人気絶大だ。
素人の俺にだってそのくらいは分かる。
女ってのは性格が残念なほど男を経済力で判断するのだ。
カネ、カネ、カネ。もうどうしようもないヤツらだ。
無一文の俺が言うと負け犬の遠吠えに聞こえるかもしれないが。
「…………うぅ! ヒドい、そこまで言わなくたって……うわーん!」
突如キキは両手で顔を隠しつつ騎士団長の胸に縋りついた。
彼女が棒読みで泣いたフリなのは言うまでもない。
俺もエロフコスの少女の胸を借りたいところだが、さすがにそれはセクハラなので、
「…………俺だって泣きてえよ。コミュ障とかキモイとか、そんなまで元カノに揶揄されたらたまったもんじゃない……」
文字通り泣き崩れた。少女の目の前で
作戦はここまで順調だろう。
あとはそれぞれのターゲットから声をかけられるのを待つだけ―――。
「………………。…………???」
おかしい。
声をかけられるはずが、一向にかけられない。
なぜだ。いやありえない。俺達を黙って見ていることなどできない状況だ。
ましてキキは大胆にも騎士団長の胸に飛び込んでいる。
何らかの反応があって自然なのだ。
俺は待ちきれなくなって顔を上げてみる。
するとエロフコスの少女が感極まったような表情になっていた。
一瞬俺に同情してくれているのかと思ったが、全然違った。
「…………オルバフ、さん……?」
「…………イリア、なのか……!?」
少女と騎士団長がほぼ同時に声を震わせる。
俺とキキを完全無視して見つめ合っていた。
「オルバフさん? ほ、本当にオルバフさん……!?」
「も、もちろん俺がオルバフだ!」彼はキキの体を退かしながら、「そう言うお前はイリア本人で合ってるのか!?」
「はいっ! わたしがイリアです! 十年前、地ノ国で孤児院にいた!」
「!! イリア、あぁ愛しのイリア! 君とまた会いたかったっ!!」
少女と騎士団長が互いに走り寄ったかと思うと、いきなり抱擁を交わした。
どうやら二人は感動の再会を果たしたようだ。
俺とキキの……嘘の再会を引き金として。
「わたしも愛しています! 嬉しい、もう二度とあなたに会えないと思ってましたっ!!」
「俺もだ! まさか君がこのコスプレ合コンに参加していたとは! これは奇跡だ、神が起こした奇跡に違いあるまいっ……!」
熱い抱擁に、奇跡の再会。
そんな二人の感動シーンに参加者達が拍手を送り始める。
パチパチパチパチ、と祝福の音は膨れ上がっていく。
中には貰い泣きしている者もいた。
―――と、いうわけでして(困惑)。
「(なぁキキ。お前もまだこの事態を呑み込めてはいないと思うが、そろそろ帰らないか……?)」
「(そうね。よく分からないけど、もうそうしちゃいましょ……)」
せいぜいお幸せにな、こんちくしょう!!
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