第4章/楽しくクエスト消化……?

第122話/ワイルドなジャスティス

第122話


 ツヨシの問題が解決して間もなく、地下水道とその屋外の清掃をすることに。

 俺と王女コンビは屋外に散乱した粗大ゴミの処理にあたる。そして丁度、俺とキキが二人でオンボロソファを地下水道に運び戻そうしていた時だった。


「……ねぇ。さっきから思ってたんだけど、何であたし達が手伝ってるわけ?」


 赤い首輪をしたままのキキが、俺に不満を溢してきた。


「地下水道の中も外もゴミで汚したのはツヨシってヌコ族なんでしょ? あたし達が手伝ってあげる必要ってないでしょ」

「必要あるだろ。ナクコが仲間になってくれたんだからよ」


 俺は背後に目を向ける。

 そこにはナクコとアリスがいたはずなのだが、


(……あれ? ナクコのところに人だかりが……?)


 いつの間にかコスプレ集団がナクコと一緒にいた。


「何かさー? ナクコりんにお願いがあるみたいだよー?」

「お願い?」


 アリスが小物のゴミを両手に持って答えてくる。

 さも他人事といった態度で地下水道へと入っていった。


 セーラー服が汚れるのが嫌なのだろう。彼女は重いものに一切目もくれない。

 だからというわけではないが、彼女の性格上、面倒事にも無関心を装うはずだ。


 というわけで、ナクコは面倒事に巻き込まれているのだと判断。

 すると程なく、


(は? あいつ、メチャクチャ泣き出したぞ……!?)


 コスプレ集団に何を言われたのだろうか。

 臆病すぎる彼女は涙を流しながら俺の元へ走ってきた。


「ど、どうしよぉぉぉぉ!? ツキシドさぁぁぁぁん!!」

「どうしたナクコ!? 悪口でも言われたのか!?」

「後片付け、自分達も手伝いたいって言われましたぁぁぁ!!」

「嬉し泣きかよっ!」


 拍子抜けしてソファを落としそうになる俺。

 キキも「涙腺緩いわねぇ……」と冷静にツッコんでいた。


「ま、まぁタダで手伝ってくれるならありがたいだろ? お願いすればいいんじゃないか?」

「で、でも皆さんの服装が……コスプレ用の衣装です……」


 潤んだオッドアイでコスプレ集団をチラ見し、ナクコは首を真横に振った。


「……確かに、金がかかってそうな衣装の奴らばっかだな。でも自前の衣装だから汚れても構わないんだろ」

「そう、ですね。レンタル衣装じゃなければお願いする感じですかね?」

「ああ」

「分かりました! じゃあレンタル衣装か訊いといてください!」

「……、訊いといてください?」

「ではわたしはこれで失礼しますね! 外の後片付け、引き続きヨロシクです!」

「おい待てこら」


 咄嗟に俺はナクコの後頭部を鷲掴みしていた。


「にゃ!? つ、ツキシドさん、離してください。急ぎの用を思い出したんです、」

「ンなしょーもない逃げ口上に騙されるか! お前は人間族と関わりたくないだけ! そうなんだろ!?」

「にゃー! スキンシップが激しいから苦手なんですううううう!!」


 ナクコが俺の手から逃れようと試みている。

 その様は頭がもげるんじゃないかというくらいに強引なものだ……(必死)。


 だがしかし、彼女を解放してやるわけにはいかない。

 彼女が俺達の仲間になったのは、彼女の臆病を克服するためでもあるのだ。

 この程度のハードルは軽く越えてもらわないと困る!


「スキンシップが何だ! やられたらやり返せ! ファンサービスだ!」

「全然アドバイスになってないですうう! わたし自身もスキンシップしたくないんですううう!」

「だったら断れよ! 『あ、そういうのムリなんで』って! 真顔で拒否ると破壊力抜群だぞ!?」

「できるはずないですよおおおお!」

「いいや、お前を信じろ! 俺が信じるお前でもない、お前が信じる俺でもないッ! お前が信じる、お前を信じろッッ!!」

「有名そうな名言を持ち出さないでくださいいいい!」


 取り付く島もないとはまさにこのこと。

 さすがにナクコには天元突破は過激すぎたようだ(残念)。


「……ったく。あんたは説得がヘタクソすぎるわね」


 呆れ返っていたのはキキだった。

 彼女はわざとらしく溜息すると、


「ねぇ、ナクコ。さっきこいつに質問したでしょ? もちろん覚えてるわよね?」

「さっき?……もしかしてツキシドさんが人間族を仲間にしてることについてですか?」

「そ。人間族のあたしからすれば、『どうして魔族を仲間にするのか』なんだけどさ―――」

「! お、おい……」


 マズい、あんまり振り返って欲しくない内容だ。

 主人公補正なのか著者にカットさせられる直感があったので、あの時はつい恥ずかしげもなく答えてしまったが―――。




「とにかくこいつはカミングアウトしてたわよね? 『俺は魔族も人間族もイケる口だ! よって利用価値があると分かれば誰でも仲間にしていく! その手癖の悪さこそが俺のジャスティス! ははっ、ワイルドだろぉ?』ってさ?」




 ぐわああああああ声真似までしてんじゃねえええええええ(発狂)!!


 き、キキめ! こんな形で俺の黒歴史を読者に公開しやがって! 

 お前に対しての好感度、余裕でマイナスだ! 

 もう死んでくれていい!


「……はい、正直、ヤバい方だと思いました……」


 うんうん。

 その『ヤバい』は絶対に良い意味じゃないよね、ナクコりん……(泣)。


「けどあんたはさ? こいつのそのヤバさに惹かれたから仲間になるの、辞退しなかった。違う?」

「! そう、かもですね! わたしもツキシドさんみたいにヤバくなりたいです!」

「おーっほっほっほ! なら話は簡単よ! ナクコ、! さぁ、思い切って行動しなさい!」

「! はいっ、分かりましたキキさん! わたし、頑張ってみます……!」


 そうしてナクコはキキに大きく頷いてみせると、活き活きと駆け出していった。

 へと。


「…………、」

「…………、」

「…………。なあ、キキ。偉そうに説得した結果がこれか……?」

「…………。てへ♪」

「てへっ、じゃない! 遠回しに臆病を肯定してどーするんだよっ!?」


 たった今、俺は決めた。

 キキの言葉は、二度と信じさせない!

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