EX4/リーゼロッテの「一緒に帰ろっ♪」その1

EX4


 離反したドラゴン族を説得し、再びツキシド様の元に帰っていただくために。

 彼の部下であるこのわたくし、リーゼロッテが次に向かったのは、魔ノ国のとある洞窟でした。


「まあ。とても綺麗な所ですね」


 もしやこれらは全てクリスタルなのでしょうか? 

 洞窟はアクアブルーの輝きで満たされていました。

 ついあちこち魅入ってしまいますね。


「削り取って宝石商に売却すれば良い資金稼ぎになりそうですね。ツキシド様にも大変喜んでいただけそうです」


 大金が舞い込めばきっとアリスという元恋人のことも忘れられるはずです。

 これはちょっと興奮してきてしまいました。


「――――カラミティ・アロー」


 わたくしは右手に産み出した紫炎の矢を天井に向けて投げ放ちます。

 矢は吸い込まれるように飛んでいき、逆さまに生えた巨大クリスタルの根本に当たりました。


 破壊威力は必要充分です。洞窟内が前後左右に激しく揺れ動いています。

 そして自重を支えきれなくなった巨大クリスタルが落ちてきます。


 地面に突き刺さったのでしょう。波打つかのような大きな揺れでした。

 わたくしの足下がふらつきます。ですがこれで―――。


「クリスタル、ゲットですね。なかなか美しいものを削り取れた気がします。あとは運びやすいように細分化でしょうか、」

「は? えっ、ええっ!? あ、あんた何しちゃってくれてんガァー!?」

「はい?」


 洞窟の奥から何者かがやって来ました。

 しかも同じ容姿をした者達がぞろぞろと増えていきます。


 彼らはサキュバス族のわたくしのように翼があります。

 その黒い翼をはためかせて何十匹も飛んできたのです。

 彼らの正体は―――。


の皆様でしたか?」

「ああそーだガァー! 光モノ大好きなカラス族だガァー! まさか俺らがここにいること知っててクリスタルぶち壊したんじゃねぇガァー!?」

「いえ、半信半疑でしたので」


 ですがなるほど、この洞窟をカラス族の彼らが気に入らないはずがありません。

 本人達も認めているように、光モノが大好物と言われますしね。


 とはいえ、住処としてはどうなんでしょう? 

 さすがに落ち着かなくはありませんか?


「くそっ、だがあんたが宝石泥棒なのは間違いねぇ! 許さねえぞっ!! ガアガア!!」


 頑丈そうなクチバシを一斉に動かしてわたくしを威嚇してきます。

 ……これは困りましたね。彼らを黙らせるのは造作もありません。

 ですがここで戦闘をしてしまいますと、せっかくゲットしかけている巨大クリスタルが……細分化どころか、してしまいます。


「ずいぶんな余裕じゃねえガァ! この数を相手に勝てると思ってんのガァー!?」

「はい。一瞬で終わります」


 ツキシド様には到底及びませんが、わたくしは強いのです。

 強いからこそわたくしは彼の部下に選ばれたのです。

『種族が異なっていても強くて爆乳なら構わない』―――それが彼の採用条件でしたしね。爆乳は余計なのですが。


「一瞬で終わる、だとッ!? サキュバス単体のくせに俺らを瞬殺できると言ってんのガアー!?」

「それ以外に何が?」

「!! ガアガアー! 殺ス、泣いて許しを請いても殺スガアアアァァァ――!!」

「そうですか。できれば戦いたくないのですが―――」


 と、その時でした。


 のしのし、と。

 洞窟の奥から新たな者がこちらにやって来ました。




「―――うっせえなあー。体に響くから騒ぐの止めろってんだよー」




 ―――ドラゴン族です。クリスタルドラゴン。

 わたくしがこの洞窟を訪れたのは、まさにクリスタルの肉体を持つ彼を連れ帰るのが目的でした。


「アイラス様。この洞窟におられたんですね」

「! リーゼロッテ!? な、なぜ吾輩の居場所が分かったんだ!?」

「本拠地で聞き取り調査を行いましたので。『吾輩の体を心から愛してくれる種族の所に行こうかなぁー』との呟き……失言でしたね?」


 とはいえ、カラス族の住処を探すのは非常に困難でした。

 ですからここもハズレなのでは、と心配はあったのです。


「か、帰らんぞ、吾輩はッ!」


 まだ何も言っていないのに、アイラス様は警戒心を露わにしています。


「吾輩はここが良いのだッ。本拠地みたいに暑くないし、吾輩を大切に扱ってくれる彼らがいるッ! それにツキシドは消えたのだ! もはや帰る理由がないッ!」

「ツキシド様でしたら、お戻りになられましたよ?」

「なッ!? いや、しかしッ、だとしても帰る気はないッ! この快適な住み心地を手放したくないのだッ!」

「どうしても……ですか?」

「ど、どうしてもだッ!」


 そんな切実なご返答に対し、わたくしは内心がっかりしました。

 このドラゴン、知能が低すぎるのではないでしょうか?


「では、仕方ありませんね。わたくしはツキシド様に代わってあなたに罰を与えるまでです。……カラス族の彼らを、皆殺しにしますね?」

「なッ!? しょ、正気か!?」

「はい。そしてあなたの代わりにこの巨大クリスタルを持ち帰ります。これを売り払えば結構な額になるはずですし、ツキシド様もあなたの離反をお許しになるでしょう」


 言いながらわたくしは前に進み出ます。

 そろそろ強敵と察知できたのでしょう、カラス族がわたくしに怯え始めているのが見て取れます。


「ま、待てッ! 持ち帰るだけで済むなら、彼らを殺すことはないだろう!?」

「彼らを殺さなければ、この巨大クリスタルを持ち帰れない状況なのです。……そうですよね、カラス族の皆様?」

「そ、そうだガアー! 俺らから光モノを奪う行為は命を懸けてでも阻止するガアー!!」


 ガアガアー!! と他のカラス族も大合唱しています。

 その直後でした。


「あ、でも、ガアー!」

「はッ……!?」とアイラス様。

「確かに彼のクリスタルは魅力的だガアー。でもこの洞窟には体が大きすぎて邪魔なんだガアー。出産ラッシュの時期も近いし、この機会に出てって欲しいんだガアー」

「…………………………………………。えっ、マジで言ってんのそれ?」


 はい。

 そんなわけでして。


 カラス族にあっさりと捨てられた、可哀想なクリスタルドラゴンのアイラス様。

 彼を無事、ドラゴン族の本拠地に連れて帰れそうです。

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