EX3/著者の有給消化2

EX3


樋「…………なぁ癒美。もう二度目の有給って、早すぎやしないか?」


癒「ど、どうなのかな? わたし、まだ一度もお仕事したことないから……」


樋「それは俺も同じだ。……ま、有給の使い方を俺達がとやかく言っても仕方ないか。そんじゃ癒美、早速だが始めようぜ」


癒「う、うん。でも樋口君、具体的に何をするの? 前回は大和先生とトピアさんが質問コーナーみたいなのやってたけど……」


樋「そのへんは心配ないぞ。今回は著者がネタ渡してきた。『仲良しこよしのお前達じゃ毒にも薬にもならん日常会話だけで終わりかねン! こっちも安心して有給取れン! このネタをくれてやル!』って」


癒「な、ならもう有給なんて取らなければいいんじゃないかな……。そもそも著者さんに有給ってあるの?」


樋「ないだろうな」


癒「ないよね」


樋「だけどな癒美? 俺達は著者から命じられたら従うしかないんだ。俺達は著者の創作キャラなんだからな」


癒「……、わたし正直その自覚ないよ……?」


樋「かもしれないな。ええと……著者曰く、『創作キャラはただの創作キャラじゃない』みたいだしな」


癒「え? 樋口君、さっきから紙を見ながら話してるけど、その紙が著者さんからのネタなの?」


樋「おうよ。この小説の秘密に迫るような内容だ」


癒「嘘、でもそれ、読者さんやわたし達に公開していいものなの?」


樋「むしろ早い内から読者に公開しないといけない事情があるみたいだ。この小説がどんな風に完結を迎えるのか。その時じゃないと明らかにできない秘密もある感じくさいぞ」


癒「そうなんだ。じゃあその一つが、わたし達が『ただの創作キャラじゃない』ってことなの?」


樋「恐らくはな」


癒「う、うーん? でもわたし達……自覚はないけど、創作キャラ、なんだよね? 実は著者さんに操られているんだよね? こうしてわたし達が話しているのも……」


樋「ああ。事実だろう。だけど、普通じゃない、と」


癒「さ、さっぱり分からないよ……。どういうことなの……?」


樋「ええと……とにかく著者が告げておきたいのは、『主人公や創作キャラによってこの物語が出来レースややらせに見えやすいかもしれないが、自分は出来レースもやらせも一切していない』ってことみたいだぜ」


癒「……、ちょっと著者さんの言ってる意味が……」


樋「分からないよな。まぁおかしな話だよな。だいたい、世界中のどんな素晴らしい物語でも、そこに著者が存在してフィクションと注釈があれば、もう出来レースとかやらせだろ?」


癒「そ、それを言ったら身も蓋もないけど……突き詰めればそうなっちゃうよね。でもわたしはフィクションと理解してないと、ちゃんと楽しめないタイプかも」


樋「! あーそれよく分かるぜ癒美。やっぱフィクションは夢見心地でありたいよな! 出来レースとかやらせとか知るか! 面白ければそれでいいんだ!」


癒「うん! フィクションは面白さ重視! もちろん現実世界での面白さとは別腹だよねっ!」


樋「おう! だが話を戻すようで悪いが、これでますます著者からのお告げが謎に包まれてしまってないか?」


癒「……あ、うん。そう、だね。『出来レースもやらせも一切してない』って……訳が分からないよ。この小説も結局はフィクションなんでしょ? わたし達がただの創作キャラじゃないっていうのも……何なのかな。ちょっと気になるよね」


樋「そんな癒美のために、考察の足がかりとなりそうなヒントがあるぜ」


癒「えっ、何?」


樋「『一度しか言うなよ? いいか、絶対に一度だけにするんだぞ!?』って書いてるから、著者の指示通り、一度しか言わないぞ」


癒「す、すごい念の入れようだね……。本当はあまり言いたくないのかな……?」


樋「……それじゃ一気に読み上げるぞ?」


癒「う、うん」


樋「ええと……『この小説はフィクションという大前提の内側に擬似的なノンフィクションとフィクションを設けておりそれらノンフィクションとフィクションの境界線をこの小説の裏設定によって限りなく薄めることで本格的な2.5次元を実現しさらにはメタフィクションを取り払おうとしている(適当)』」


癒「………………。やっぱり訳が分からないよ……」


樋「あぁ、俺もだ。もう全部、知らなかったことにしようぜ……」


癒「そうだね、樋口君……」

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