終章/最強よ、最狂に散れ

第75話/開会式

第75話


 学園の敷地一角にある、大闘技場―――。


 国営を思わせるその巨大施設は、某有名コロシアムの現代風だった。

 建物の円形を形作る曲面壁には複数の出入口が設けられており、楽に指定の観覧席に辿り着けるようになっている。また、地下には補助体育館、大道場、研修室、休憩室、宿泊室、浴室、食堂などの充実したサービスが提供されているとのことだった(トピア談)。


 やはりと言うべきか、メインであるこの一階の闘技グラウンドには屋根がなく。

 ただでさえ直射日光をモロに浴びて辛いのに、開会式は校長先生のありがたいお話と引けを取らない長さだった。




『―――それでは最後にご報告を。今回の武闘大会、一年に一度の無差別戦では……参加者五百四人中、過去最多! 二百十九人の生徒が一回戦を棄権しました! どうぞ皆様、彼らの英断に盛大な拍手をお送りください!』




 そんなアナウンスがあってすぐに拍手大喝采。俺の周りに整列する生徒達もしみじみとした様子で手を叩いており、観覧席にいる多くの保護者や来賓もまさかのスタンディングオベーションだった。


 これには唖然と棒立ちになってしまう俺であり、


(えっ、何これ? 宗教? 宗教なのか? この拍手って要る? おかしくない? じゃあ全員が棄権したらどうなるんだ? 最高に素晴らしいことなのか? じゃあ大会なんてやらない方が良くないか? 俺なんか間違ってるか?)


 などと心の中でツッコみまくった。……もっとも、全校生徒は皆真っ白な制服で闘技グラウンドに集合していたので、とっくに俺には宗教か何かに見えていた。


 そんな風に俺だけが理解できず拍手しないでいると、なぜか前列の方から一人の男子生徒がずかずかと俺の元にやって来た。


 見覚えはある。俺が奇姫の落としたハンカチで悩んでた時にしゃしゃり出てきた、著者が露骨に操ってたNPCだ。


「おいお前ッ! ここは空気読んで拍手しとけよ! 誰のおかげでだらだらと一回戦から戦わずに済んだと思ってんだ! 言わせんな恥ずかしい!」

「やかましいわ!」


 そんなのはトピアのおかげに決まってんだろーが! 

 著者おまえじゃないだろ! 


「くたばれ! 俺つえー系主人公!」

「! はっ、何が俺つえーだ、設定だけだろ!」


 俺は喧嘩上等とばかりに、


「それどころか俺には最強の自覚がない! 思わず一国を滅ぼすなんて設定を忘れかけてしまいそうだ! この意味が分かるか!? お前はな、自分で考えた設定すらろくに活かせてない、ド素人著者なんだよ!」

「…………拍手しろ!」

「無視か!」


 図星だったんだろう。

 男子生徒は俺の指摘から逃げ出すように来た道を駆け足で戻っていった。


 当然ながら拍手なんてするはずもなく。俺は長かった開会式を終えると、いち早くこの闘技グラウンドの入場口へ向かい、すぐ脇の階段を上がって自分の観覧席に着席した。




『これより一回戦を執り行います。一回戦を棄権した生徒の皆さんは、速やかに指定の観覧席へ戻ってください。続いて一回戦に出場する生徒の皆さんは、大会運営の指示に従い、速やかに闘技グラウンドの各ブロックに対応した闘技リング付近にて整列してください―――』




 観覧席からは闘技グラウンドが一望できた。

 輪投げでも綺麗に並べたかのように円状の金属パイプが地面に三×三で計九か所半没されてある。これがそれぞれの闘技リングなわけだ。

 また、中央の闘技リング以外には石灰でAからHの白文字がはっきりと書かれてあった。


 ぞろぞろと大勢の生徒達がひしめき合いながら闘技グラウンドを移動している。

 まだ一回戦を始めるには時間がかかりそうだったので、俺はこの観覧席にも目を向けてみた。


「……何というか。想像以上だな……」


 闘技グラウンドを取り囲む観覧席、その内の来客用の席は超満員となっていた。

 一回戦の開始を待ちわびているらしく空席はほとんどない。

 飲食したり雑談したりスマホで暇を潰したり。

 各自好き勝手に残りの待機時間を消化している模様だった。


 また一階の……特等席と言えばいいんだろうか。そこにはいかにもオーラの違う人物達がテレビカメラに向けて愉しそうに語り合っていた。

 間違いなく芸能人だろう。そして全国のお茶の間へ生中継中といったところか。

 カメラマン含めテレビスタッフらしき人影も忙しなく働いているのが窺えた。


 そう……この大会、日本異能学園の武闘大会は。もしかせずとも甲子園や箱根駅伝などと同じく、国民的行事になっているのだろう……(怖気)。




『試合準備が整ったようです。それでは武闘大会一回戦、第一試合……始め!』




 一回戦を棄権した生徒達がまだ観覧席に戻りきれていない状態ではあったものの。

 しかし事は急ぐのか大会運営からのアナウンスで戦いの火蓋が切られた。


「おぉ……」


 すでに俺で勝者が決まっているBブロックを除いた、AからHの闘技リング。

 その各内側で一斉に異能力の発効が繰り広げられていった。

 中でもAブロックがド派手だった。

 見知らぬ男子生徒を中心に火柱が立ち上がったのだ。


「ん? 火柱……?」


 もしやと思い、俺はAブロックの闘技リングに目を凝らしてみると、『おーっほっほっほ!』と高笑いしている奇姫がいた……。


「あいつ棄権してないのか……。別に文句はないが……」


 しかし奇姫は案外強い異能力者なのかもしれない。

 他の闘技リングで戦っている異能力者のと比較してみても彼女だけは別格。

 いや、というか他が極端に酷い!

 水鉄砲とか雪玉とか! 花火とか植物召喚とか! 

 一体何がしたいんだ、お前らはパフォーマー志望かっ!?


「な、なるほど。どうりでトピアが保安委員にスカウトするわけだな……。あいつは透明人間にもなれるしなぁ……」


 程なくして奇姫の対戦相手が両膝をついて降参。

 彼女が火柱の発効を解き、意気揚々と闘技リングを後にしたのだった。




『―――止め! 第一試合を終了してください。決着がつかなかった生徒は大会運営に申し出てください。ビデオ判定となります』




 試合の制限時間は五分間だった。

 アナウンスが入ると同時に闘技リング内に残っていた生徒達が戦いを止める。

 次の試合に出る生徒と入れ替わるようにして闘技リングから退いていった。




『試合準備が整ったようです。それでは武闘大会一回戦、第二試合……始め!』

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