金木犀の街 13
そばにいたはずの恵子もいずみも消えていた。それどころか見慣れた景色はなくなっていた。
全体的に仄暗い。それは夜のような暗さではなく、コンクリートの層のような分厚い空が、光を遮断している暗さだ。
黒茶色い崖肌が至る所に見える。草木は生えていない。街のような人工物も見えない。ただただ、崖と丘が続く黒茶色い世界へと変わっていた。
ゴオォォォとかウオォォォォと言った、風の音なのか人の呻き声なのか判別できない音が終始鳴り響いている。
与えられた使命を果たすためとりあえず歩き出す。
しばらく歩いたところで気がついたことがあった。風の音は、どうやら黒茶色の崖から鳴っているようだった。
もしかしたら崖にはトンネルのような空洞があり、そこから風を切る音が鳴っているのではないか。だとすると、この世界の住人は洞窟の中にいるのではないか。
そう思って崖に近づいてから、ここに来たことを後悔した。
崖に見えていたのは無数の人が折り重なるように積み重なっていたのだった。正確には人間とは異なる容姿の生き物だ。
頭髪は疎らで腹が異様にふくれている。いわゆる餓鬼の姿をしていた。目を開けている者もいれば、閉じている者もいる。こちらに向かって手を招く者もいれば、唸り声を上げている者もいる。
先ほどの風のような音は、無数の餓鬼から発せられた声だったのだ。苦痛に満ちた呻き声が響いている。
早く見つけなければ。佐藤香奈枝は先を急いだ。
香奈枝はいつもの巫女服ではなく、成陵西高の制服姿をしていた。自分でも何故この格好なのか分からなかった。
一人走っていると、ふと恵子たちのことを思い出した。あの三人はいつも一緒で仲よさそうにしていた。そんな光景を見ていたら羨ましかった。
ここに来る時、みんなと一緒のところに行けるんじゃないかって望んでいた。結果は予想通り、幽霊の香奈枝だけがここ
アテナの――、鍾馗の力を得ているとは言え、急がないと時間がない。
直感を頼りに、何もない大地を更に走っていると、地面に倒れている人物を見つけた。
大地の一部となって呻き声を上げている餓鬼たちとは違い、人間の形をしている。仰向けに倒れていた。服も着ている。砕焔だ。
兎我野や奈津美が意識不明で寝ていたように、砕焔も寝息を立てていて起きそうになかった。
制服の内ポケットから鍾馗符を数枚取り出した。これで全てが終わる。
香奈枝が砕焔に鍾馗符を貼ろうとした時、フッと目の前に男が現れた。香奈枝と同じ成陵西高校の制服姿。この男は……。
「そう、たくん?」
「香奈枝……? 香奈枝なのか」
目の前には十年前に交通事故で死んだはずの安藤宗太が立っていた。
「宗太くん。どうしてここに?」
「香奈枝こそ」
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