金木犀の街 11


「ちょっとぉ! なんなのよ、あんた。急に笑ったら気持ち悪いじゃない」

 ベンチに座っていた佐伯が突然笑い出したのだ。

 佐伯は、三笠宮司の腰に巻いていた帯で小杉に縛られていた。

「おれの願いが、か、かなうと思ったら、おかしくなってな」

「あんたの願いってなによ」

「この病院に殺された、妻を、りょりょ、亮子を生き返らせることだよ」

「それは無理じゃ」

「……イ、ヒヒヒヒィッ。だだ、だめだ。……ククク。嬉しくて我慢できねぇや」

「ちょっと、あんた。なんか隠してるわね」

「なんも隠してなんかねぇよ。あんたらのおかげで、じゅじゅ、じゅ、十人、向こうの世界に送り込むことが出来た。これで妻は生き返るんだよ。イヒ、ヒヒヒヒィーッ」

 佐伯の目は焦点が定まらず完全におかしくなっている。

「残念じゃが。中谷界ハーヴァンターラには九人しか行っておらん」

 三笠宮司が佐伯を見下ろすように言った。

「じいさん。うう、うそをつくなら、もっとましな嘘をつきな」

「嘘ではない。さっき見たじゃろ。三人のうち一人だけ黒い塵になったのを。鍾馗鏡を触った者なら、この意味が分かるはずじゃ」

 佐伯を座らせている隣のベンチには三人の女子高生が仲良く寄りかかるようにして寝ている。

「ねぇ、あたしもよく分からないわ。三人って何? 二人じゃないの?」

「ふんっ。きゅきゅ、九人なら九人でもいい。あと一人消すまでだからな」

 佐伯は睨むように三笠宮司と小杉を見た。

「な、なによ。ヤダァ。あたしを消すつもりなの?」

「その前に、兎我野先生たちが砕焔を討ち倒すじゃろう」

「――討ち倒……フ、フハハハハハ」

 佐伯は面白いテレビでも見ているように笑い出した。

「何がおかしいのよー。言いなさいよ」

「いやぁ。ンフフ。ちょっと言い忘れていたことがあってね」

「なんじゃ」

「別に、た、たいしたことじゃないんだが……ンフハハハ」

「笑ってないで言いなさいよ!」

「あの世界で砕焔は絶対に死なない。無敵なのさ」

 佐伯が「あとひとり、あとひとりで妻が……」とつぶやき不気味に笑っている。

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