第5話 湖猫ギルドに行こう!

 湖猫ギルドは港のすぐそばに巨大な事務所を構えていた。

 湖猫達は隣に併設された酒場を基本的な溜まり場にしており、そこで依頼なんかも受けるらしい。

 あと信じられないことに金髪縦ロール女子は思ったよりも街に居た。

 ナミハナ程ドリルじゃなかったけど、ファッションとか常識とかが俺達と違うらしい。

 まさかディズ○ー作品みたいな金髪縦ロールでロングドレスのナミハナが浮かないとは。


「結構賑やかな街だな」


 俺はポツリと呟く。

 町並みも俺の知る世界とは違う。

 ゲームに出てきそうな白堊の建物が何処までも続いている。

 あと嗅ぎ慣れない潮の香りがする。長野の山奥では嗅いだことのない香りだ。


「あら、興味があるの?」

「そうか……こんな街並みは見たことない」


 普西部劇や時代劇みたいに拳銃や刀をぶら下げて歩く人や、ピッチリスーツの上にマントを羽織ってる人、様々な人が街を歩いている。

 車道にはエクサス、地面から浮かんでいる車、馬なんかが走っている。


「観光地かつ遠洋航海の補給基地として豊かな島ですわ。この島の山上には農場が有るからそこで汚染されていない作物や牛乳が取れるの」

「牛乳!」

「後で飲んでみると良いわ。きっと気に入るもの」

「そうするよ、しかし不思議な街だな……文化とか、機械とか」


 この世界にはひどく歪で急激な技術の進化が有ったのだろう。

 俺と同じように別の世界から来た人間が居るのかもしれないな。

 後でチクタクマンに聞いてみよう。


「ああ、色々な所から人が来ているせいですわ。混血ハーフリングへの差別も無くて良い街よ」

「ハーフリング?」

「神話生物との混血よ。此処で話すのは憚られるからその内ね」

「わかった。後でこの街を見て回っても良いか?」

「ええ、勿論。お使いを頼むことも有るでしょうし」

「分かった。ありがとう」

「でもまずはギルドですわよ? 身分証明証も無しに歩き回っていたらすぐに軍に捕まってしまうわ」

「軍に捕まるのか? 警察じゃなくて?」


 警察ではなくて軍による治安維持だなんてかなり不味いレベルで荒れた世界なんだな……。


「警察? 治安維持部隊のことを言っているの?」

「ああ……そうか、そういう言い方をするのか」

「ま、なんでも良いですわ。さっさと来なさい」

 

 俺はギルドの事務所にナミハナと共に入っていく。

 事務所のドアは自動ドアだ。建物自体もコンクリート造りっぽい。

 というかあれだ。これ完全に役所だ。


「こんにちわ! ようこそ湖猫ギルドのザボン島支部へ! 本日はどのよーなごよーけんでしょーか!?」


 俺達を出迎えたのはセーラー服に良く似た制服を着た小さな女の子だった。

 ところでこの島の名前を初めて聞いたよ俺。

 チクタクマンと言い、ナミハナと言い、俺の周りは何故こうも説明不足な奴ばかりなんだ。

 わかってますとも。類は友を呼ぶって奴です。


「新人の湖猫を連れてきたわ。ちゃっちゃと登録なさい」

「えっ、新人さんですかぁ! ナミハナさんが連れてきたってことはとっても強いんですよね!」

「ですわ」

「ですね!」

「あのー、受付さん?」

「マーチでいいです!」

「そうかー、マーチちゃんか……」


 こんな子供を受付にするのは少し、割りと、かなり相当不安だ。

 ギルドには人材が居ないのか?

 

「登録の為のみぶんしょーはございますか?」

「記憶喪失で身元不明だそうよ」

「では保証人のみぶんしょーをお願いします」

「私のギルドカードで良いかしら」

「はい、けっこーです!」


 マーチはナミハナから受け取ったカードをテーブルに有ったカードリーダーに通す。

 更に窓口のすぐ近くに有るパソコンに何かの情報を打ち込み始める。


「新人さん! お名前をよろしくお願いします!」

「ああ、ええと……佐々佐助です。苗字が佐々、名前が佐助」

「はい、所有するエクサスの特徴と拠点の住所をお伝え下さい。なお秘匿は許されますが虚偽の報告は重罪となります! なお拠点が決まっていない場合は連盟の宿舎を貸し出しております!」

「エクサスは重装甲大型。後でデータについては問題の無い範囲で送るわ。あと拠点はワタクシの邸宅よ」

「申し訳ありませんがナミハナ様、現在私は新人さんに話を聞いてまーす!」

「だ、そうよ?」


 ナミハナは何が面白いのかニヤニヤ笑っている。

 イラッと来たのをごまかしているだけなのかもしれない。


「機体の情報ってのはどれくらいまで伝えるものなんだ?」

「はい、依頼主にも商売敵にも見られて構わない程度の特徴を伝えてくだされば結構です」

「じゃあ漆黒の重装甲大型と」

「うけたまわりましたー! 拠点はいかがいたしましょう?」

「ええとナミハナの邸宅で面倒を見てもらっている。あそこは住所としてはどういう扱いになるんだ?」

「ザボン島支部管理区域、ギルドナンバーズ専用施設となっております! ナンバーズは一つの島に一人しか拠点を構えられないので住所の表記もそれだけです!」

「本当に特別扱いなんだな」

「ええ! 人類が抱える対邪神用の切り札ですから~!」

「切り札……ね」

「サスケさんもご存知かと思いますが、現在我々人類は邪神の復活に怯え続けています! 各地で散発する狂信者及び神話的生物による襲撃や前時代の遺跡からの古代兵器発掘だけでなく、単騎で邪神と戦える存在が必要なのです! それがギルドナンバーズ! 対邪神戦闘に限って言えば人類最強の十人です!」


 俺はナミハナの方を見る。

 確かに強敵だったけど、こいつそんなに強いのか?

 対人と対神では話が別なのか。


「どうかしらサスケ? ワタクシを見なおしたんじゃなくて?」

「でもナミハナさんはナンバーズの中だと最弱ですけどねー!」

「お だ ま り」

「今日のナミハナさんは一段とからかい甲斐が有って素敵で――」


 ナミハナは物も言わずに自分の首をクルっと振り回す。

 長く伸びた縦ロールがマーチちゃんの顔面に直撃した。


「――キャウッ!」


 なんか知らないけどこいつらは漫才が好きらしい。


「ところでマーチちゃん、ナミハナ以外のナンバーズって言うのはどんな奴らなんだ?」

「それはワタクシが説明するわ。この子はワタクシ以外のナンバーズに会ったこと無いし」

「じゃあナミハナに教えてもらおう」

「やめてくださいナミハナさん、マーチの仕事とらないでー!」

「狙撃の神様とか呼ばれる転生者のおじさまとか、精霊と数式で語らいそれにより独自の魔術を操る数学者とか、湖猫達の為の酒場を経営しているオカマとか、巨大企業の社長とか、元医師で孤児院の経営をなさっている仮面の天才魔導師とか色々居るわ。一部例外除いて皆素敵な方でしてよ、一部例外除いて」

「成る程、キャラが濃いな」

契約者コントラクターと呼ばれる連中も幾ばくかいらっしゃいますわ。精霊ではなく邪神と契約してその力を使うのですわ」

「邪神? 邪神は人間の敵じゃないのか?」

「よくわからないけど人間に友好的だったりいわゆる邪神に敵対する邪神ってのも居るみたいですの」

「それは旧神じゃないか?」

「サスケさん、お詳しいんですね!」

「マーチちゃんも旧神について知っているのか?」

「最近学会で発表されたばかりの概念です! なんでも旧時代の古文書に記されていたそうで現在も研究が進行しています!」

「サスケ、逆に貴方が何故そんな事を知っているの?」

「記憶が曖昧なんだ。元はそういったことについて調べていたのかもな」

「成る程ね。まあ良いわ。ワタクシに欠けている所を補えるならば相棒として申し分無くてよ」

「ああ、そうでしたか。ナミハナさんはこの方を相棒として連れ回すおつもりなんですね」

「当たり前じゃない」

「でもでもギルドへの貢献度が違い過ぎて、サスケさんじゃ現在ナミハナさんが受けるようなSランクの依頼を受けられませーん」


 うえーんと泣き真似をするマーチ。

 一方ナミハナは額に手を当てて困った顔だ。


「……あっちゃーですわ」

「ランクってなんだ?」

「依頼の難易度及び湖猫のギルドに対する貢献度です! DからSまで有ります! ナンバーズは全員Sです!」


 成る程。

 宇宙から降ってきた正体不明の宇宙船に対する強行偵察はSランクの依頼って訳か。

 思い返せばアレは結構ヤバイ状況だったんだな。

 登録したての俺はDランクか。


「手っ取り早く上げるにはどうすればいい?」

「簡単なのは依頼を地道にこなすことですね」

「その間ワタクシが暇になりますわね……」

「受ければ良いじゃないですか、Dランクの依頼。選択権はナミハナさんに有るのですから」

「そうもいかないでしょうに……ただでさえSランクの依頼を受けられる人材や受ける人材は少ないのだから」

「うーん……マーチ困っちゃいましたねえ」


 マーチは目を瞑って何か考えこむような素振りを始める。


「そうだ! こういうのはどうでしょう?」


 何やら閃いたみたいだ。

 

「なに?」

「難易度を振り分けているとはいえ、ギルドにも何件か失敗が続いている依頼というものが有ります。難易度を決めた人のミスや情報不足が原因なのですがこういう依頼の存在ってあまり公にしたくないんですよね」

「難易度詐欺依頼を処理しろってこと?」

「やめてくださいよぅナミハナさん! ここギルドのど真ん中なんですから! 詐欺なんて言ったら色々不味いですぅ!」


 じゃあ大声で叫ぶなよ。


「ギルドの名前に泥がつくと困るのはワタクシ達も同じよ。そういうのをサスケとワタクシで処理させればいいわけね?」

「まあ基本報酬は決して多く無いと思われますが、貢献度の稼ぎは段違い! でもこういう仕事って信頼できる人にしかお願いできない! そういう人たちって無理に貢献度稼がなくても良い人達ばかり! 丁度マーチも困ってましたー!」


 子供の割には強かというかなんというか。

 伊達に受付嬢をしている訳ではないことは分かった。

 受付嬢としてこの手の面倒を上手く処理できたりすると彼女にとってもポイント稼ぎになるのだろう。


「分かった。俺とナミハナでその依頼を急いで解決して、可能な限りナミハナの拘束時間を減らそう」


 こういうのってパワーレベリングって言うんだよね。モンハ○で無理やり上位クエスト受けられるようにするみたいなものか。


「さんきゅーでっす! では可能な限り最短でサスケさんをBランクの湖猫にできるように私が良さそうな依頼を選定しておきまーす! 無事に帰ってきたらマーチからサスケさんにご褒美あげちゃいますよぅ?」

「ちょっとマーチ?」

「やだなー、ただのギルド食堂のタダ券ですよータダ券!」

「サスケの衣食住はワタクシが面倒を見ます。貴方は余計なことをしなくて結構よ」

「えーん、ナミハナさんがつめたーい!」

「ギルドの食堂がどんなものかは知らないが、興味は有る。マーチちゃん、タダ券握りしめて待っててくれ」

「はーい、お待ちしておりまーす! ではこちら、サスケさんのギルドカードでございます!」


 ナミハナは何時の間にかプラスチックで出来た白いギルドカードを俺に差し出す。

 先ほどナミハナが出していたのは金色だったな。

 これが最低ランクと最高ランクの違いか。実に分かりやすい。

 カードには先ほど聞かれた拠点の場所や機体の特徴について記述する欄が有る。


「顔写真とか要らないの?」

「はい、問題ありません。所有者の手に渡ると自動的に転写されるように魔術をかけておりますので。ちょっとそのカードを覗き込んで下さいますか?」


 俺がカードを覗き込んでいるとカードの顔写真欄に俺の顔が浮かぶ。


「これで仮登録完了です!」

「紛失とかって対策できてる?」

「再発行は手数料がかかりますが網膜認証を使えばすぐに可能です。カード自体は紛失して本人の手元から離れて一定時間が過ぎると勝手に消滅するようになっています!」

「便利だなー……」

「さて、これで手続きは終わりね。サスケ行きましょう」

「帰っちゃうんですか?」

「依頼の選定と準備まで一日はかかるでしょう?」

「ええ、そーですねえ。でも明日は朝からキビキビ働いてもらいますよぅ」

「だったら機体の準備をしたり休息したりしなきゃいけないわ」

「そうなんですかー? あーん、マーチ残念です! また来てくださいね! サスケさんも面白そうなので!」

「そうするよ。受ける依頼で困った時には相談に来る」

「あいあーい! お待ちしております!」


 まあこういう面白い手合は嫌いじゃない。

 べらべら喋るのが玉に瑕だが、ナミハナと一緒なら彼女がなんとかしてくれるし。


「サスケ、少し相談なのだけど」

「どうした?」

「街を見て回るのは明日以降で良くて?」

「構わないけど……」

「明日から本格的に動かないといけないから今日は休んでおきたいの」

「それも道理だよな」

「じゃあ今日は私達の拠点に戻りましょう。本当ならしばらく休暇の予定だったから山海の珍味をじいやに用意させていてよ」

「珍味?」


 一体何を用意したというのだろうか。

 ともかく俺とナミハナは結局街を見て回らずにあのヤドリギの城へと戻るのであった。

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