来訪者 02

 俺は動揺を悟られぬよう、気持ちを落ち着かせながらテレパシーで返事をする。


「ど、どうしてそんな事を聞くんだ……?」


「……大事な事なんだ、君の回答次第でこっちも色々手を打たなきゃいけなくなる」


 胆力を感じさせるカザクラの声。

 どう返事をしたものかと思いながらも俺は、不思議とゴルカッソスとの戦闘前に見た、『悪い魔法少女達』の事を思い出していた。


 そう。

 魔法少女ユニット同士は、決して仲が良いとは限らないのだ。


 いや、正確に言うならば、魔法少女ユニット同士で仲が良いという状況を俺はまだ一度たりとも見た事がない。つまり、このカザクラという男が俺達に好意を持ってコンタクトを取ってきた確証なんか、何一つもないのだ。


 それどころか俺は。

 今しがた……。

 今しがたこの男に、『秘密基地の位置情報』を送信してしまったのだ。


「さぁ、答えてくれ」


 カザクラの質問に切羽詰った俺は……。


「どうしてそんな事を聞くんだ? もし仮に、ここに俺達以外のユニットが居たら問題でもあるのか?」


 ハッタリを挟んで答える事にした。

 そんな俺の質問返しにカザクラは、少し落ちついた口調でこう言った。


「……いや、特に問題はない。もし君達の傍に別の仲が良いユニットが居て、それで君達が無事だというのなら、何も問題はない」


 なんだこの回答は……?

 この言葉には一体どんな真意があるのだ?


「そ、そうか」


 真意を見抜けない俺は、ただ平凡な相槌を打ってしまう。


「今から5分以内にそっちへ到着出来ると思う。仮にもし、僕とのテレパシーがユニット間の初めてのコンタクトだったなら、タイト君……」


 再び凄みのある口調で、カザクラは俺に注意を促した。


「もう見知らぬ相手に対して、安易に位置情報を送るんじゃない」


 こうして、初めてのテレパシーを使った管理者プロデューサー同士の通信は途切れた。




 静寂に包まれる秘密基地の中、俺はただ一人心拍数が高まっていくのを感じていた。俺達の秘密基地の場所を、見も知らぬ相手に伝えてしまったのだ。


 まずい。

 まずいぞ。


 これから起こり得る最悪の事態は何だ? 何が想定される?

 秘密基地が破壊されることか? いや、それはこの際大した問題じゃない。

 何よりも危惧すべきなのはあいつらの、幼馴染三人の身が危険に晒される事だ。


 外へ……今すぐ外へ!


 俺は変身端末を開いたまま、慌てて秘密基地の外に飛び出した。

 そして高台の方へと少し走って、秘密基地と百メートル程度の距離を置く。


「――はぁっ、はぁっ!」


 幼馴染三人が向かった川は、高台の反対方向にある。そして川に通じる道は、麓には通じていない。カザクラ達がこの山を登ってくる場合、高台と秘密基地の分岐点であるこの辺を通る可能性が高いだろう。


 カザクラは隣町からここまで、5分以内に来ると言っていた。常人の足でそれは不可能、例え車を使っても山の中なので絶対無理だ。それはつまり、最低でも一人以上の『魔法少女』に輸送してもらうという事……。


 強力な魔法少女との接触は、時として宇宙生物との戦闘より危険だ。

 これはサスライに会った時に経験済みだ。


 俺は起動中の変身端末を、しっかりと構える。どんなに恐ろしい魔法少女が来ようとも、防護フィールドの中に居る限り俺は絶対に安全なはずだからだ。『俺だけが会えば』相手が何者であろうとも無事で居られるはずなのだ。


「はぁ……はぁ……」


 そろそろか? そろそろ到着する頃か?

 そうして緊張感を持って構えていると、突如――。



『ガサッッ』



 葉っぱが激しく擦れ合うような音がした。

 慌てて振り向くと今さっき来た道、秘密基地と高台を結ぶ細い山道に黒い塊のようなものが突如姿を現した。



『ズササァッッ』



 地面を滑りながら着地したその黒い塊の正体は、どうやら『大きなマントを羽織った魔法少女』のようだった。魔法少女は横抱きにしていた男を地面に立たせると、道に沿って秘密基地の方へと歩き出した。


 ほぼ間違いなく、あれはカザクラと彼が管理プロデュースする魔法少女だろう。


 秘密基地に近づかれてはたまらない。

 俺は防護フィールドに守られながら走り寄り、背後から二人に声をかけた。

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