ゴルカッソス攻略戦 04

 ツキコがあらん限りの魔力を使って、連続的に矢を叩き込む。そしてヒナタは、ツキコに攻撃しようとする首を殴ったり蹴ったり、時にはカウンターを取って護り抜いている。


 その様子には鬼気迫るものがあり、クウ抜きで戦おうとする二人の強力な意志のようなものが感じられた。


 しかし、二人の体力や魔力が無限に続くはずも無い。眼前で矢を放ち続けていたツキコの足元が、急にふらつき始めてしまう。


「おいっ、ツキコ、大丈夫かっ?」


 俺の問いかけに、少し間を置いてツキコは応える。


「……う、うん。でも私ってば、もう魔力が無くなってきちゃったかも……?」


 ゴルカッソスの体力を削る為に、大量の魔力を消費し続けたツキコに限界が来ている。もしツキコがこれ以上攻撃出来ないのなら、三人で三つの首を同時に撃破するのは困難だろう。どうしたものかと俺は思い悩む。


 そんな時だった――。

 どういう事か、突如ゴルカッソスが向きを変え始めたのだ。


「なんだ……? 俺達に背中を……向けている?」


 その様子はまるで、俺達には勝てないと判断して、逃走し始めているようだった。


「はぁっ、はぁっ……! 隊長っ! 敵が逃げようとしています!」


 三人の攻撃をこう何度も叩き込んだのだ。そりゃ、効いていない筈が無い。しかし……これだけ巨大な宇宙生物が、サスライが一人では勝てないと考えていたゴルカッソスが、俺達を相手に敗走するものなのだろうか?


 そう俺が疑問に思っていると、ヒナタが大声で叫んだ。


「ここまで来て逃がす訳にはいきません! 追撃戦、開始しますっ!」


 そう言って前方へ向けて走り出すヒナタの姿を、三つ首の中央にある噛み付き攻撃が得意な首が、頭上高くから見下ろしている。そして、ヒナタの位置を把握したゴルカッソスは全身を傾けて、何やら力を溜めるような素振りを見せた。


 その瞬間――――俺の頭の中に、変身端末に記された不吉な文面が蘇る。



『巨大な尻尾による尾撃テイルブロウには即死級の破壊力がある』



 俺は全身の血が冷えていくのを感じた。


「ひっ――――ヒナタっ! 駄目だっ! 追うなぁっっ!」


 しかし、俺の指示はほんの一瞬だけ――――遅かった。太さだけでもヒナタの身長の倍はあろうかという巨大な尻尾が、既に激しくしなりながら振るわれていたのだ。


 その勢いに、力強さに、俺達は為す術が無い。


 周囲がスローモーションに見えた。呆然と立ち尽くす、ヒナタの絶望的な表情さえもがはっきりと見えるような気がした。尾撃テイルブロウに気づいたヒナタは、ただ一言、ぽつりとテレパシーで呟く。



「隊長ごめんなさい。――――避けられません――――」



 それは、あまりに絶望的な声。

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