覚悟 03

 突如観客席に現れた三人の少女達を見上げながら、俺はサスライに質問する。


「なんなんだ、あの子達は?」


「……あの連中は、他所の街で活動している魔法少女よ」


「……魔法少女? 良かった、それなら一緒に協力してもらえば――」


「無理よ」


「……無理?」


「ええ。だってあの子達は、敵だから」


 敵? 魔法少女同士にも、対立があるのだろうか? 観客席からこちらを見下ろす三人組を睨みつけながら、サスライは説明してくれた。


「魔法少女は宇宙生物を倒す事によって、魔素エーテリアルという成長の果実を手にするの。基礎能力の向上はトレーニングでも十分可能よ。だけど、魔法少女の一部能力を特化させたり、強力な衣装を生成ジェネレートしたり、既に所持している衣装を強化する為には魔素エーテリアルが必要なの。もし宇宙生物が時間をかけて成長して、より地球生物に被害をもたらす危険な存在になれば、リスクが高まる分、倒した時に得られる魔素エーテリアルの量も多くなる」


「……それって、つまり……」


「ええ。あの連中の目的は、地球生物を餌にして育った宇宙生物を狩って、大量の魔素エーテリアルを獲得する事よ。私が魔法少女になる前から、ずっとそれを続けている。地球生物に害が及ばないように戦う私達とは目的が全然違うの」


「おいおい、成長しきった宇宙生物を倒せるほどにあの子達は強いのか?」


「今日はあの三人だけみたいだけど、いつもは複数の魔法少女ユニットが連合を組んで戦っているのよ。十分に強くなった宇宙生物を集団で倒して魔素エーテリアルを得る、一見すれば合理的に見えるかもしれないけど、宇宙生物が求める餌の中には、当然『地球人』も含まれているわ」


 サスライがそこまで話すと、横で話を聞いていたクウが怒りを露にした。


「……そんなの……そんなの絶対許せないっ!」


 溢れ出したクウの感情に、サスライも表情を険しくして同調する。


「……そう。絶対に許せないわ」


「それで、俺達はどうすればいいんだ?」


「そうね……。連中は多分、私がゴルカッソスを倒してしまわないか見張りに来たのだと思うわ。幾ら私でも、ゴルカッソスと魔法少女を同時に相手するのは無理だから」


 そう言った後で、初めてサスライが口元を緩めた。微かにとはいえ、彼女が笑顔を見せたのはこれが初めてかもしれない。


「……でも、今日に限って言えば、連中にも誤算があるわね」


「……誤算?」


「ええ。貴方達の存在よ」


 彼女の言葉に、俺達全員は顔を見合わせる。


「それは……どういう意味なんだ?」


「連中は私が一人だと思ってやって来たのよ。ゴルカッソス出現の時刻を見計らって」


「そうだ……もう宇宙生物が出現してしまうぞ? 一体どうするんだ?」


 俺がそう尋ねると、真っ直ぐな目で見つめながら彼女はこう言った。



「貴方達が、ゴルカッソスと戦いなさい」



 サスライは表情を鋭くして、俺達を見据えながら言葉を続ける。


「あの連中は、私が一人で倒すわ」


 一瞬の沈黙の後、クウが声を荒げた。


「そんなっ、相手は三人よっ? しかもあの子達、熟練の魔法少女なんでしょう?」


「相手が何人であろうと、あんな連中に私は負けない」


 サスライのその口調からは揺ぎ無い不動の自負心と、コールタールのようなどす黒くも粘度を持った憎悪の感情が滲み出ていた。


「だけどっ!」


 尚も止めようとするクウを、サスライはキッと睨みつけて言った。


「今は他人の心配より、自分達の心配をなさいっ」


 その迫力ある口調に、クウは言葉を止める。


「ゴルカッソスは貴方達より強いのよ。本来なら、駆け出しの魔法少女なんかが戦っていい相手じゃないの」


 目線を切り、和服の裾をなびかせながらこちらに背を向けるとサスライはこう言った。


「だから、私が戻るまで……耐え抜いて」


 そう言った後で、彼女は虚空に向けて人差し指を伸ばす。

 すると――。


『パアァァッッ』


 彼女の体が純白に光り出す。恐らく、対人戦用に衣装を変えているのだろう。一瞬暗転したと思うと光の粒子が飛び散り、変身を終えたサスライが姿を現した。


 ピッタリとした黒いレザーパンツに黒いシャツ、そしてその上に黒いレザータイプのロングコートを羽織っている。腰には『名刀恋心』が、そして両手にはこれまた黒いトンファーが装備されていた。そのシルエットは、まるで映画に出てきそうなほどに凛々しくも美しい。


「いきなりゴルカッソスの三つ首を狙っても破壊出来ないわ。まずは胴体を狙って体力を削って頂戴。体力を失うと三つ首が脆くなるから、勝負はそこからよ」


 くるりと両手のトンファーを一回転させると、彼女はそれ以上何も言わずに歩き出した。悠然と三人の熟練魔法少女の方へ向かう彼女の背中に、俺は声をかける。


「ここは俺達が引き受けた! サスライも、どうか無事でっ!」


 俺の呼びかけに、何も応えず彼女は歩き続けた。

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