燃え上がる鉄塔と赤い月。手に出来ぬと知っていながらも。

時代ものと思いきや、途中から現代の話に突如変わります。
主人公の過去を知っている読者からしてみたら、その現代人の困惑がやけに滑稽に見えてしまう。
しかし、長い時の隔たりがあったとしても、人の心は交わるものです。

小説の転換点である、大雨と落雷のあった日。
ぬらぬらと燃え上がる鉄塔と、妖しく光る月。
永遠とも思えるものと、たかだか数十年の寿命とされるものの邂逅。

月と鉄塔。
この小説の主人公と、彼を見守る女性との、けして通い合えない、しかし通い合う距離感にも似ています。

けして手の届かぬものに手を伸ばす。
人の中にある業をまざまざと見せつけられるような、ザラリとした小説。
その奥深さを、是非ともご堪能下さい。

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