第36話 あの日の真実 一日の真実
その身振りに一瞬呆れた顔をする一日だったが、直ぐに元の顔に戻して話を続ける。
「この世界は確かフリーチェ様が一番最初に侵攻した世界、そしてその際に用いた行動は数による圧倒。そうでしたよね」
様付けではあるものの、どこかぞんざいな雰囲気を感じさせる声であった。
「ああ、今にして思えば敵の連携のなさに助けられた部分もあったのかもしれないな・・・」
「その点は否定出来ませんね・・・何しろ各地で綻びが出始めているのですから。今の所追加戦力の投入で奪還には至っていませんが・・・」
一日の指摘にフリーチェも耳が痛くなる。
「ですが、敵が寄せ集めに過ぎないのであればその指揮者を叩いてしまえば後は当初と同様、物量で圧倒出来るでしょう。
今回の場合、下手に奇策を打つよりも正攻法で真正面からぶつかった方が勝機が高まります」
「その根拠は?」
そう神消が問うと
「個々の敵の戦闘能力が高い以上、下手に奇策を打って戦力が分散するとかっこ撃破され総崩れになる危険性がある為です。それよりは初めから正面で仕掛けた方が勝機があるかと。
無論、こちらの戦力を十分に整えるのが大前提となりますが」
と間髪を入れずに返答する。
「分かった。で、戦力の準備にはどのくらいかかる?」
神消が再び問いかける。
「新たな兵士の教育も行う必要がありますので、軽く見積もっても一月程は欲しい所です。従来の兵士が退けられている以上、敵も戦い方は見抜いているでしょうから」
「こちらの弱点は御見通しと言う訳か・・・」
回帰がそう答えると
「これまでで最大の山場になりそうですね」
とヒリズも続ける。
「では、一日の言う戦力が整い次第侵攻する。それに異議はないか?」
その声に対し、誰も手を上げる物は居なかった。それを確認すると一日は
「では、私は戦力の調達にかかります」
と言い、部屋を後にする。
一日が部屋を出るのを見届けた後、少しの沈黙が流れる。
「一日・・・やはり彼女は何かが違う・・・」
その沈黙を破ったのはフリーチェだった。
「ええ・・・力が違うというだけでは無い、もっと根本的な所から何かが違う・・・そんな気がします」
「ここに居る全員がそれを感じているんだ。多分偶然じゃないと思う・・・と言うより・・・」
「ああ、俺達がこんな風に話している事自体が一日が来る前では考えられなかった」
残る三人も思い思い一日に対する内心を口に出す。
「覚えておるか?我らが初めてあった日の事を」
そうフリーチェが問いかけると
「ええ」
「はい」
「ああ」
「忘れる訳がありませんよ」
と三人は口を揃えて返答する。
最初に出会った時、僕達はただ自分の欲の為だけに行動する存在でした」
そう最初に口火を切ったのはヒリズだった。そして
「俺はただ力による支配を求め、ヒリズは全てを管理する事を求め、回帰は全ての感情を管理しようとした」
と神消しが続け
「そんな僕達だから当然連携も取れず、フリーチェ様も含めていがみ合っていた。敵がいなければ僕たち同士で戦っていただろうね」
回帰がどこか懐かしむ様な、皮肉を込めるような口調で語って締める。
「それ故に我等の行動は力による支配以外では有り得なかった。あの子が来るまでは」
どこか思う所がある声でそうフリーチェが告げると
「はい。最初はびっくりしましたよ。僕達みたいに二つに分かれる事無く、しかも最も扱うのが難しい創造の力をあれだけ易々と使いこなしているんですから。ねえ、皆、覚えてる?一日が仲間になってくれた日の事、そしてそのときやった手荒な歓迎の事」
「ああ、覚えているとも。忘れはしないさ」
他の二人も声を揃えて語るとその場にいた全員がその両目を閉じる。そして両目を閉じたヒリズは一日との記憶の一部を思い出す。
「フレイム・ブラスト」
そう言い放ttあヒリズは両手から炎を放ち一日を攻撃するが一日はそれを難なく躱し、そのままヒリズに接近して
「フリーズ・ナックル」
と言いながら凍り付いた右手で殴り掛かり、ヒリズを跳ね飛ばす。そしてヒリズはその殴られたところから見る見る内に氷が広がっていく。
「くっ、その力をここまで・・・認めたくないけど・・・」
「なら認めてもらわなくてもいいです。ですが幾ら否定しても現実は変わりませんよ」
売り言葉に買い言葉で返すヒリズと一日。
「あの時は本気で悔しかったな・・・でも、強かった」
そう呟くヒリズの隣で同じく目を瞑り、回想に浸る回帰と神消
「マジカル・シュート!!」
そう言って放たれた紫の光球を一日は難なく躱していき、そのまま飛び上がると「バスターマジカル・・・ブラスト!!」と言って両手から紫の魔法を放ち、それを回帰に当てる。
「一つの感情に囚われていては、先に進む事は出来ません」
「僕が一つの感情に囚われている・・・?」
神消の繰り出す格闘術を軽々と躱す一日、その後一瞬の隙をついて反撃しかおにキックを入れて神消を跳ね飛ばし、地面を引きずらせる。
「ぐうっ・・・ああっ・・・」
傷を受け、ボロボロになっても立ち上がろうとする神消
「やめてください。それは諦めないのではなく、ただの無駄な労力です」
一日は神消に対し、無情にもそう言い渡す。
そして三人は揃って目を開く。
「やっぱり・・・今思い出しても一日は強い・・・何だろう、こう、気持ちが違うというか・・・」
ヒリズが語ると他二人も首を縦に振って同意するのであった。
「私も同意だな。あの子には私達には無い何かがある」
そう語るのはフリーチェだった。
「あの日、私はこの世界に侵攻する為の手駒を作り出す為、この世界に力を流し込んだ。そしてそれに触れたのがあの秋月世革と言う青年だった」
フリーチェはそう語るとあの日(第一~にわ)の出来事を回想する。
世革を包み、その体を小さくした黒い靄、その靄が晴れるとそこには秋月世革の姿は無く、代わりに一日の姿があった。
「お前は・・・分離しなかったのか?」
「ええ、私は分離していません。貴方の力で善悪が完全に別れてしまうのではないという事ですね」
魔王である筈のフリーチェに対し、一日は全く物怖じする気配無く発言する。
「貴方の力は悪意と善意を分離させ、悪意に新たな実態を与えて配下とする力。しかし私にはそれが起きず、貴方の力が純粋に私に与えられたのです。最も、女児の姿と言うのは貴方の趣味なのか、それとも私の趣向なのかは分かりませんが。
ですがそれはどうでもいい事、何しろ力が手に入ったのですから」
体に大きな異変が起こったにも関わらず、一日は満足気な声で話す。
「我の力を得て・・・どうするつもりだ・・・」
フリーチェは問いかけるが、その問いかけには明らかな動揺が見られる。魔王らしからぬ動揺、それはこの事態が全くの想定外であった事を意味していた。
「決まっているでしょう。貴方の望みを叶えますよ。フリーチェ様。但し、今直ぐでは無く、より献上するに相応しい形にしてね」
「相応しい形だと・・・」
「ええ、相応しい形です。この力があれば、その形成が可能となります」
そう返す一日に対し、フリーチェは一瞬口ごもる。だが
「・・・いいだろう、その相応しい形と言う物にしてみせよ」
高圧的でありながら威厳がどこか乏しい、そんな声で言う。
「はい。仰せのままに」
一日は純粋とも皮肉とも取れる声で返答するとその場から去っていく。
「あ、そうそう」
そう言うと足を止め、振り返った一日は
「私の名前は霜月一日、今後はこの名前で宜しくお願いします。フリーチェ様」
ただそれだけを告げ、再び歩き出すのであった。
「それから一日は今の日本で起きている精神現象を起こし、自らも女児として小学校に潜入し、独自の戦力を整えていった。今までの僕達だったら全く思いつかなかった方法で」
ヒリズのその言葉で現在に戻って来る。
「あの子が何故分離しなかったのか、その理由は未だに分かっていない、だが・・・」
「はい、分かっています。その理由が何であるにせよ、今や一日は俺達に欠かす事の出来ない存在です。俺達が結束するきっかけをくれたのも一日なのですから」
「なら頼む。あの子と共に行く事を!!」
フリーチェはまるで世界の支配が完了したかのような声で言い、他の三人もそれに賛同するのであった。
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