第31話 繰り返す敗戦 暗の秘密
希有は急いでその場から離れるがその隙をついて
「フレア・クライシス」
と言って手に持っていた錫杖の先から巨大な火の玉を放ち、それを幾つもの火の玉に砕いて希有に飛ばす暗。この攻撃を見たキーパーは
「!!あの技は・・・」
と何かを感じる。
「あ・・ああ・・・」
迫る無数の火の玉に立ち尽くす希有。そして火の玉が直撃しそうになったその時
「ウォーター・シールド!!」
聖は水の壁を出現させ、希有を守る。
「あら・・・やりますね」
そう語る暗に聖は
「それは褒め言葉か?それとも・・・」
と反感を混ぜた発言をしながら暗に光の玉を飛ばすが暗は錫杖でそれを弾き返す。
「あの技は・・・」
そう呟くチュアリに
「余所見してる暇があるのか?空虚なる蹴り!!」
と腹部に蹴りを直撃させる回帰。
「しまった・・・くうっ・・・」
チュアリが跳ね飛ばされるのを見ると更に接近して追い打ちをかけていく。
「くっ・・・このままでは・・・」
ソルジャ思わず弱気な発言をする。
「既に各エリアが再制圧されてしまった以上、援軍も望めない・・・どうすれば・・・」
チュアリが絶望に浸りかけたその時、聖達の周囲にディメンジョン・シャッターが開く。
「これは・・・ディメンジョン・シャッター?でも一体誰が・・・」
どうやら聖達にとっても予期せぬ現象らしく、動揺を隠さない。
「これは・・・皆さん、このゲートに飛び込んで下さい!!ここは・・・」
そう叫んだロザリーはチュアリの元に向かい、回帰を銃で牽制しつつその手を握る。
「・・・分かった。この雪辱・・・何時か必ず晴らさせてもらう」
キーパーも同意し、チュアリを連れたロザリーや聖達と共にゲートに飛び込む。そしてその直後ゲートは閉じる。
「一日さん・・・今のは・・・」
「如何やら敵の技術力を少し侮っていた様ね。恐らく私達の世界に居たヒリズ先輩の世界のレジスタンス残党が別世界の様子を確かめる術を用意し、それでゲートを開いたんだわ」
暗の問いかけに自らの予測が甘かった事を認める一日。
「ちっ、もう少しでチュアリを仕留められたものを!!」
不満を顔にも声にも露にする回帰。
「ええ、ここで逃したのが高くつかなければいいのだけど・・・ま、それは今考えても仕方無いから取り敢えずこの世界の制圧が完了した事を喜びましょう。新しい仲間も入ってくれた事だし」
と懸念を示しつつも現状評価に努めようとする一日。
「それは・・・」
暗が呟くと一日は
「勿論、貴方達の事よ」
と暗に笑顔を浮かべ、その場を後にしていく。
間一髪で難を逃れた聖達は秋月家に転移していた。
「瀬戸際でしたね・・・」
秋月家に残っていたレジスタンスメンバーがそう告げると
「貴方達、どうしてこの事態が・・・?」
ロザリーの質問にレジスタンスメンバーは
「この世界に残っていたからと言って何もしない訳には行きません。なのでディメンジョン・シャッターのシステムを応用し、別世界の状況を知る事が出来る装置を開発、使用したんです。
それと、ディメンジョン・シャッターの遠隔操作装置も。ほぼぶっつけ本番でしたが・・・」
と回答する。
「そうだったのか・・・兎に角助かった。だが、これで・・・」
ソルジャが気を落とす。
そんなソルジャを見て
「生きてさえいれば必ず取り返せます」
と聖は告げ、
「・・・そうだな・・・ならばこの私、キーパーも協力しよう。あなた達の戦いに」
それを聞いたキーパーも同意と協力を約束する。
「ありがとうございます」
そう返答するソルジャに聖は
「では、今後について話し合いましょう」
と提案する。その提案には何とか気持ちを前向きにしたいという意味も含まれていた。
一方、一日逹はフリーチェに今回の経緯を話していた。
「そうか・・・決着を着ける事は出来なかったが作戦は成功したか」
フリーチェは作戦の成功を喜ぶが
「くそっ、いつもどうしてこうなる!!」
と回帰は荒れた声を挙げる。
其を見た一日は
「奴等もこれで終わりと言うわけではないでしょう。何れ決着を着ける時はきますよ」
と言って宥め
「一日・・・そうか、そうだな」
一日の宥めで落ち着きを取り戻す回帰。
「それで、これからどうするの?」
ヒリズがそう聞くと
「ヒリズ先輩の世界の時と同様、暫くはこちらの治安を安定させるのが得策でしょう。奴等もまだ全てが制圧できたわけではありませんし、思わぬ地雷が埋まっている可能性も有ります」
一日の言葉にはどこか慎重さが混じっていた。
「やけに断言した言い方だな。根拠があるのか?」
神消が質問すると
「はい。私の仲間、命が向かった拠点において此方のつかんだ事前情報に無い敵戦力が確認されました。これがその画像です」
そう一日は告げ、モニターに問題の画像を写す。そこには白いローブを纏った何かが写っていた。
「この白いローブを纏っているのがそうなのか?」
神消がそう聞くと一日は
「はい。他の兵士より明らかに高い戦闘能力を所持しており、故にデータ収集の余裕がなかったと言うことです」
と返答する。
「確かにこれが他にも要るとしたら厄介だな、制圧したエリアについてもより入念に調査しておくべきか」
一日の懸念にフリーチェも同意すると
「その調査・・・俺に任せてくれませんか」
回帰は自ら志願する。
「回帰・・・いいだろう、任せる。異論は?」
フリーチェが異論を聞くと
「有りません」
「同じく」
「私もです。では私はその横槍が入らないよう私の世界で行動を起こします」
ヒリズ、回帰、一日も同意し、更に一日は続けて行動の方針も示す。
「そうか・・・では各自行動開始だ」
フリーチェのこの一言で報告は終わり、各自行動を開始する。
そして 部屋を出た一日が自室に戻るとそこには命逹と暗が居た。
「あら・・・来ていたのね」
そう告げると命は
「ええ、僕たちも今後についてお話ししないと行けませんから」
と何時もの調子で話しを始めるが暗は
「一体どういうつもりなんです?あれをあの世界の戦力として報告するなんて」
とやや乱れた声で話す。
「やっぱり、君の目は誤魔化せないか」
「はぐらかさないで下さい。一日さん、いえ、秋月世革さん」
少し揶揄うような物言いに暗が反論すると
「!!その名前は・・・」
と命は諭そうとするが一日は
「構わないわよ。今の返答がはぐらかしたのは事実なのだから」
と軽く流す。
だが直後に表情を神妙に変え
「・・・あの動きをフリーチェ様達に今知られる訳には行かないの。正体の検討はついているものの、もし仮にそうだとしたらフリーチェ様達の根源を揺るがす程にもなりかねないのだから」
と告げる。
「それが・・・こうして独自に戦力を集め、行動している理由ですか」
「ええ、極秘中の極秘とも言える行動だから中々進展しないけどね・・・」
暗の問いかけに何時になくシリアスな顔で答える一日。
「一日ちゃん・・・何時になくシリアスだね」
何時もと違う空気を感じ取ったのか、シオンがそう呟くと
「ええ、今日の回帰先輩とチュアリ君の戦いを見てより核心に近付いたの。あの二人の戦いが互角になってしまう理由、それが両者の実力でも気持ちの問題でも無いのだとすれば・・・」
「そこには何か理由がある、そしてその理由の検討はついている。そういう事ですか」
シオンの呟き通り、一日の言葉にはこれまでにない雰囲気が纏わりついていた。
「ええ、その根拠が私自身である以上はね」
少し間を置き、何かの根拠を自分だと告げる一日。
少し間が開けて
「しかし・・・暗ちゃん、凄いね。一日ちゃんの事をもう知ってるなんて」
と話題を変える命。新たに話題に上がった暗は
「報告の時間にしっかりとこれまでのデータ、情報をチェックしておいたもの。戦いにおいて情報のチェックを迅速に行うのは基本でしょ」
と何ともないような表情で返す。
「凄いわね。この世界で振るっていた手腕も納得だわ」
そう告げる木の葉に
「この世界・・・か」
どこか持った言い回しで呟く暗。
「そろそろ僕達は行きますね。制圧地域の最終確認がありますから」
命がそう言うと暗以外のメンバーは席を外し、部屋の中には一日と暗が残される。
その直後に
「さて、彼等が席を外してくれた訳ですし・・・色々と聞いて構いませんか?いえ、貴方の事なので・・・」
と聞く暗。その問いに一日は
「ええ、分っているわ。色々と聞きたい、知りたいんでしょう。暗・・・いえ、サンク君」
と返す。それを聞いて
「・・・フフっ、それはさっきの仕返しですか?」
笑みを浮かべながら聞く暗に一日は
「それもあるわね。そして確認も」
と同じく笑みを浮かべる。
「確認?」
そう聞く暗に一日は
「ええ、貴方が戦えるのか、キーパーと言う人やチュアリ君と」
と何かを試す様な口調で問う。
「それは・・・まだ確証は持てませんね。この世界で私は閉ざされていた、あの二人以外の人間は私を解き放ってはくれなかった。
侵攻が起こった時も私の能力に目を付けた存在に引き離された。でも貴方は私に真の開放を行ってくれた。
だからあの二人も・・・出来れば解放してあげたい。自分を殺す苦悶から」
返答に困るといった雰囲気で何とか答えを出す暗。その返答に
「チュアリ君は出来るかどうかわからないけどキーパーさんは私も協力するわね」
と笑顔で答える一日。
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