第16話 平穏の崩壊
「聖さん、此は・・・」
そう言いながらやってきた生花に望は
「もう大丈夫なんですか!?」
と問いかける。
「あまり大丈夫ではありませんが、この光景を見てしまっては・・・」
と心配の顔を浮かべる生花。
「今日本首相と連絡を取っています・・・・繋がりました!!」
そう言った聖は日本首相から事情を聞き、聞き終わると聖は
「つまり、私達が再び日本に渡り、各国首脳がそれぞれの国に戻った後、突然韓国がなんの前触れもなく宣戦布告をしてきた上、現在も連絡がとれない状態になっている・・・そう言うことですね」
とその場にいる全員に聞こえる様に反復する。
「ええ、そして間もなく、防衛省と私、そしてフリーチェは今回の一見に対する記者会見を行わなければなりません、皆様の事情はわかっていますが・・・」
そう申し訳なさげに言う日本首相に聖は
「構いません。現状では政権を少しでも長く持たせて頂くのが大事ですから」
と言って通信を切る。直後、テレビで問題の記者会見が始まる。防衛省と首相は今回の一見は誠に遺憾であり、断固として抗議すると言う発言をしたにとどめるが、映像に写ったフリーチェは
「これがこの世界の、持たざる者がとる行動と言う訳ですか・・・暴力による略奪、此を断じて許すわけにはいきません。今この国で議論されている権利に基づき、守る為の力が必要なのかもしれません!!我々も惜しみ無く協力させていただきます。どうか今一度、平穏と言うものを考えてください!!」
と言った趣旨の会見を明確な口調で行う。
「何が略奪よ・・・」
と悔しげな表情を浮かべる生花。
「ええ、ですが恐らく此でこの国の殆どの人はフリーチェとその配下を支持するでしょうね。何しろ自分達の国を守ってくれた英雄なんですから。そしてその英雄が言った事なのだからと言う事で自衛という名目で戦力増強が始まる」
「そうなるとこの国は大半がフリーチェの支配下におかれることになるわ。それも本人達が気付かない形でね」
チュアリとロザリーがそう言葉を続けると望は
「どういう事です?」
と質問する。
「外国から宣戦布告をされた以上、これ迄の平穏を維持してきたシステムが意味を成さなくなり、自衛戦力を整えざるを得なくなる。そして奴等はそれに乗じて自分達の兵力や武器を紛れ込ませてくるでしょう。
更に宣戦布告をされたと言う事実は反対運動を著しくやり辛くします。敵国のスパイと言われてしまったら其までですから・・・」
二人の発言を補強する聖。
「相手に先に手を出させることによって力の重要性をアピールする・・・やはりこれも・・・」
ロザリーはそう言うが
「しかし、何故韓国は宣戦布告なんて・・・」
といまだ困惑している希有。
「其は本人に聞いてみるしかないですね」
希有の困惑を払しょくするため、聖は韓国大統領に連絡を取る。
「連絡はすぐにつきましたか、そして・・・」
「はい、用件はわかっています、宣戦布告の件ですね・・・」
連絡が付いた聖が発言を始めると韓国大統領も事情を察したらしく、暗く重い口調で返答する。
「分かっておられるのならお話は早いですが、一体何故こんな事に・・・」
「申し訳ございません・・・また・・・例の奇病のせいで、心の中の負の感情を制御出来なくなって・・・」
韓国大統領のその発言を聞いた時、ロザリーは何かに気付いた様な表情を浮かべる。
「他の議員や軍兵、市民も同時にそうなって止める者がおらず・・・そして今、私達は日本よりも他の国から厳しい視線を浴びせられています・・・只でさえあのような事件があったばかりなのに益々フリーチェ達に日本以外の国の印象を悪くした・・・と」
「分かりました・・・この件に関しましては又後日対策を考える他ありません。いまは他の国の、特に先日の事件の当事者の方達と連絡を取り、この混乱を押さえる事に専念してください」
聖はそれだけを告げ、通信を切る。
その直後に
「思うんだけど・・・さっきの交戦の時、命君はお母さんの事を憎しみを込めた目で見ていた。もしそれをさらに強めたものを命君やあの子供達に使っているのだとしたら・・・さらに子供達に身体能力を強化する何かを施しているのだとすれば・・・」
そうロザリーが言うと
「成る程な・・・其なら例の奇病、逆襲事件、子供達の誘拐事件、それら全ての説明がつく」
「そして、その尖兵として命は利用されている・・・」
全てに符合が付くといった顔を浮かべるテレサと生花。
「そう言えば・・・あの一日と言う子は命君のお母さんが命君に対して何か酷い事をしたと言っていました・・・そこに何か説得する鍵があるのでは?」
そう望が告げると生花は顎に手を当て
「酷い事・・・確かに命が行方不明になる日、私はあの子が学校に行きたくないと言い出して口喧嘩になり、無理矢理登校させてしまいました。
そしてその翌日に逆襲事件の最初の一件が発生し、其から更に暫く経って逆襲事件の加害者が行方不明になる事件も発生しました。
ですが学校からは何の連絡も無く、例の事件の影響で警察にも頼れず、その結果独自に捜索せざるを得なかったのです」
と自らの悔恨を述べる。
「恐らくその行方不明になった日にあの一日って子が命君と接触し、今言った要素を与えたんでしょう。そしてそれに味をしめてその後も同様の手口で誘拐を繰り返した。そう考えてまず間違いないでしょう」
チュアリがそう告げると希有は
「なら、この事を公表すれば・・・」
と言いかけるがその言葉を遮る様
「現状では無駄でしょう。既に奴等が戦争の先制攻撃を止めた英雄として崇められている以上、公表した所で奴等を貶めようとしている嫉妬位にしか思われません。それにこの国の平穏を守ってきたとされる物が役に立たないと言うことをマッチポンプとはいえ証明されてしまった以上、下手をすればこの国全体を敵に回すことになります」
と言って聖が釘を刺す。
「くっ・・・どうすれば・・・」
「まずは例の奇病を引き起こす奴等の魔法を何とかしなければ・・・」
苦悩する生花にまずは魔法の脅威を対処しなければならないと改めて告げる聖。
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