第六十四話 希望の行方

「一日ちゃん、解析結果が出たよ」


シオンがそう告げるとモニターにその結果と思われるデータがびっしりと表示される。一見すると何が何だか分からない様なデータだが一日は迷う事無く読み進めていく。


「成程ね・・・そしてその行き着く先は・・・これは・・・」

「これは・・・以前から一日ちゃんが口にしていた通りの結果だね・・・」


一日の予想が当たっていたという命、だが一日にも命にも当たっていた事に対する笑顔は無い。寧ろその顔は険しさを帯びた物に変わっていく。


「・・・対処の世界からの通路が一番最初にこの世界に繋がったのは何時か特定するわ」


一日はそう言うと機器の前に座り、対象データへの絞り込みを開始する。そして数分後、目的のデータを割り出すと


「やはりね・・・だとすると、彼等も動いてくるでしょう」

「つまり、あのアメーバは・・・」

「動きを知られない様にしている事から考えてもその可能性は十分あり得るわね」


と周囲とやり取りをかわす。その会話が進めば進む程室内の空気はシリアスな物に変わっていく。


「となると余り時間はかけられない。あのアメーバが近々大量に進行してくる可能性は十分に考えられる物になりましたからね」


言葉がそう告げると


「ええ、この解析結果から移動手段は見つかりました。ですがこの空間を乱すとなると他の移動よりも強い力が必要となりますね。敵の本拠地と言う事もあるのか他の世界への移動よりも安全性が確保されている様ですから」


と暗も懸念を示しつつも同意する。


「他の世界の様子は?最終決戦前に余計なごたごたは避けたいのだけど・・・」

「今の所、少々の反抗は起きている様ですが現地で鎮圧されているレベルだよ。でも万が一そこにアメーバが加わると一気に形成を逆転される可能性も無いとは言えない。

アメーバの用いている移動通路は暗の言っていたように妨害が難しいから加わられる懸念は常にあると思った方がいい」


一日の質問に返答する命、それを聞いた一日は


「今日は疲労しているから明日フリーチェ様達に伝えるわ。それまでは皆も休息を取って」


とその場にいた全員に休息を取るよう促す。すると命は


「うん、わかった。でも一日ちゃん、一人で先走ったりはしないでね・・・」

「私が先走る?どうしてそう・・・」

「何だろう・・・根拠は無いけど何と無くそう思っちゃった・・・御免」


そう告げると命はどこか懸念交じりの顔を浮かべながらその場を後にする。


「先走るな・・・か。確かにそうしかけていたかもしれないわね」


その場にいた全員が去った後、一日はそう呟き、どこか悲しげな表情を浮かべるのであった。


そしてその表情を浮かべつつも一日自信も部屋を後にする。


翌日、休息をとっていた一日達だが突然なり始めた警報に起こされる。フリーチェの部屋に一日が入ると既にそこにはフリーチェや回帰達だけでなく、命達も集結していた。


「命達まで居るという事は・・・それだけ大きな何かが起こったって事ね!!」

「うん、一日ちゃん、ついさっきこの反応が感知されたんだ」


そう言うと命はモニターに世界地図を出し、その反応があった場所とその反応を見せる。


「場所は秋月家の近く、でもそこじゃなくてこの反応は・・・」

「どうやら彼等の行動が予想以上に早かったみたいね・・・迂闊だったわ。此方が仕掛けた情報収集手段を遮断した時点で何かあるとは思ったけど・・・」


苦虫を噛み潰したような表情を見せる一日、それを見たシオンも同様の顔を浮かべる。


「一体何が起ころうとしているんだ?君達の口振りから考えると何か良からぬ事が起きようとしているみたいだけど・・・」

「説明は後でします。今はそれよりも早く出撃しないと」


説明を求めるヒリに対し、出撃を急ごうとする一日。すると神消が


「詳細は良く分かんねえが、とにかくこのままにはしちゃおけねえって事だろ!!俺も行くぜ」

「勿論僕も」「私も行く」


と言ったのを先導ヒリズ、回帰も続く。


「僕達も行きます!!」


命がそういうとシオンや木の葉、言葉、暗も頷く。


「皆・・・行きましょう!!」



周囲の同意を得た一日はすぐさま反応が感知されている場所へと向かう。


その頃、その場所では


「聖さんの世界・・・そこに逆転の鍵があるって事だけど・・・」

「それを使わなきゃいけないところまで追い込まれてるって事なのね・・・」


広い河川敷でそう話す希有と望、そして何かをしている聖の姿があった。


遡る事数時間前の昨夜


「聖さんの世界に向かう?」


秋月家内において生花が聖に問いかけたのを皮切りに


「ええ、私の世界にフリーチェへの反撃となる鍵、つまりこの状況を打開する切り札があります。今までは使わずとも応戦出来てきましたが、ここまで追い込まれてしまった以上、使わざるを得ないと判断しました。

「それならば早速・・・」

「いえ、私の世界へはディメンジョン・ゲートを使っても直ぐに行く事は出来ません。ある程度調節を加えないと通路が開かないようになっていますので。

早くとも明日朝になりますね・・・」

「分かりました。障壁で既に聞き耳は塞いでいます。直ぐに奴等には悟らせません」


という会話が行われる。


聖の言葉を胸に秘め、一同はそれぞれの夜を過ごす


「命・・・あなたを止める為に!!」


母としての思いを胸に対峙を決意する生花


「世革の名前や姿を使っただけでなく未末まで利用した・・・許す訳にはいかない!!」

「ああ、もうあの少女を討つのに手段は選んでいられない!!」


未末の一件で改めて一日への怒りを露にする希有と望、それは一日と世革の関係性を知らないが故なのか、それとも・・・


「ロザリー、あなたに報いる為にも必ず勝利を!!」


今は居ないロザリーに対し決意を言葉にするソルジャ。


「此方の動きが読まれていたのは未末という少女を介してだけなのか?だがそれは考えても・・・今は聖さんの世界に賭けるしかないか」


この状況においても尚冷静さを崩さないムエ。


「聖さんの世界は行く事すら容易には出来ない・・・それに切り札をこのタイミングまで出さなかったというのも・・・サンク、私達は・・・いえ、それでも私達は進む」


この状況まで切り札を出さなかった聖に対して僅かながら不信感を抱くキーパー。


「この切り札を使う事になるとは・・・だが、これでこの世界も・・・その時はフリーチェを・・・」


と決意を新たにする聖だがその決意は純粋な平穏を望む心ではなく、どこか一物がありそうな雰囲気を出していた。


そして翌日、聖達は念の為秋月家を避け、近くの河川敷でディメンジョン・シャッターを起動させる。そこには秋月家に居た希有達のみならず各世界から逃れてきたレジスタンスメンバーも集結していた。


「さあ、始めましょう」


聖のその言葉を合図に全員が身構える。


「私達にもまだ希望がある・・・」


河川敷に吹く穏やかな風とは裏腹の張りつめた空気の中、望が呟く。


「この切り札を使えば奴等を倒す事は出来る。だがその結果として・・・しかし、今後の事を考えればそれも止むを得ないか。彼等の事もある」


内心で何かを考えながらも聖は自身の世界への通路を開こうとする。


「まだなんですか?」

「待って下さい、あと少・・・」

「そうはさせません!!」


生花の問いかけに返答する聖の言葉を遮り、一同の視覚外から声が聞こえてくる。声の聞こえた方向に一同が目を向けた直後、そこに一日達が現れる。


「皆、攻撃を敵指揮官に集中させて」

「分かった!!」


一日の声とそれに対する命の返答を引き金として聖に集中攻撃をかける。


「つうっ・・・」


放たれた攻撃は銃弾等が多く致命傷にこそならないものの、聖の集中力を削ぐには充分であった。


「あなたの目論見を実現させるわけにはいかない!!」


何時になく強い口調で一日は聖に啖呵を切る。

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