第六十話 聖域での三つ巴
聖の言葉に従い、一同はその場にすっと息を潜める。辺りを静かに風が吹き、その音を正確に耳が聞き取れる程の静けさが流れていく。だが、その静けさは突如として破られる事となる。遠方から獣の叫び声が聞こえてきたのだ。
「今の叫び声・・・何かが痛い目に合わされたような叫びです!!」
口火を切ったのは望だった。
「島の生物同士の生存競争であれば気に留める必要はありません。ありませんが・・・」
キーパーが歯切れの悪い発言をする、そう、その内心ではもう一つの懸案があるのだ。
「もし考えうるもう一つのケースだとすれば・・・」
聖も流石に懸念を隠せない、そして、そのもう一つのケースは今まさに的中しようとしていた。
「・・・見つけた!!」
その声と共に現れたのは回帰、シオン、暗であった。
「くっ、やはり既に手が回っていたのか・・・」
「そう。一日ちゃんがここに送り込んでくれたからね。最も島が広すぎて探すのに手間取ったけど、おまけに野蛮な野獣に噛み付かれそうになると来てる」
動揺の顔を見せる希有に対し、余裕で返答するシオン。その光景は以前、マンション前で交戦した時の再現の様である。
「世界勘、土地勘があるとはいえ、まさかここに来る事になるとはね」
「回帰さんもこの島は御存じなのですね」
「まあね、足を踏み入れた事もあるし、最も、これだけウロウロしたのは初めてだけど」
聖達を目の前にして只の会話をする回帰と暗、だがそれは余裕の表れであった。
「回帰・・・くっ、お前の存在がここまで響いてくるとはね・・・」
らしからぬ発言と共に回帰を睨むチュアリ、その瞳には怒りが満ちていた。
「ふふっ、そんなに僕と同じ記憶を共有しているのが嫌?」
「当り前だ!!お前みたいな奴に・・・」
「それはお互い様だよチュアリ!!今日こそ引導を渡してあげる」
互いに睨み合うチュアリと回帰、だがそれを見た暗は
「違うよチュアリ、違いますよ回帰さん、貴方達は・・・」
と内心で彼等の行動に誤りがある事を見るのであった。
「聖さん、どうします!?」
「この島は入り組んで居る為、身を隠すのには適していますが、逆に一度見つかると逃走は困難です。こうなってしまっては・・・」
「戦うしかない…か、既に連戦で疲労しているというのに・・・」
「でも、やるしかありません!!」
キーパーとチュアリの発言を受け、聖は
「皆、ディメンジョン・シャッターの起動時間まで後二十分だ!!それまでの時間を稼げればいい!!」
と戦う事を決め、回帰も
「こっちにとっても好都合だね。余興無しでここで決着を付けるよ!!」
と言いきる。
だが双方が激突する寸前の所で周囲の木々の葉がガサガサと怪しい音を立て、その直後に異形の生物がその場に数十体飛び込んで来る。
「あれは!?フォビドュン・キメラ!!」
異形の生物を見たチュアリが叫んだその名、それはその生物の名称を的確に当てていた。
「何なんですか、それは?」
「フォビドュン・アイランドにおいて生き残る為に様々な生物が異種配合を繰り返した結果生まれたと言われる生物です。そして生存本能を中心に交わっていった結果、その理性は失われ、ただ本能のままに・・・」
ソルジャの問いにチュアリが答え終わる前にキメラは回帰達、聖達双方に飛び掛かってくる。
「つっ!!」
「くっ!!」
キーパーとシオンはそれぞれ飛び掛かってきたキメラを払い飛ばす。
「ちっ、ここに来るまでに退けてきた仲間の血の匂いに反応してきたのか?」
シオンがそう口にしたのを合図にしたかのようにキメラは主にシオンに向かって飛び掛かってくる。シオンは銃を抜き、キメラの足を中心に狙って応戦する。
「つっ、入り組んだ地形だから少数精鋭で仕掛けたのが仇になったか・・・仕方ない、二人共、キメラも共々に相手をするよ!!」
「了解!!」
回帰がそう指揮するとシオンと暗は声を揃えて了承する。
「キメラが向こうに向かっていくのなら都合が良いよ。皆さん、キメラは向かって来たら相手をする程度に留めて奴等を中心に狙って下さい」
回帰とは対照的な指示を出したのは聖ではなくチュアリであった。その言葉にはやはり静かな怒りが混ざる。それを感じたのかキーパーは
「チュアリ君・・・あなた・・・」
とどこか心配を思わずにはいられないのであった。
そしてキメラを含めたみつどもえの戦いが始まる。
聖達は素早く分散し、木々を盾にしつつ回帰達を銃や魔法で攻撃していく。シオンはそれを躱すと反撃に出ようとするがキメラに阻まれ、思う様に狙いを定めて打つことが出来ない。
そして聖達の攻撃と同時にキメラが飛び掛かってくる。
「・・・しまった・・・これじゃどっちかの・・・」
シオンが顔を歪ませるがそこに
「守護の障壁よ!!」
という暗の声と共に黒い幕が出現し聖達の攻撃を防ぐ。
「シオン君!!」
「助かった、恩に着るよ!!」
膜で守られた後シオンはその場でジャンプしてキメラの上に立ち、蹴って地面に落とす。その直後膜が消え、聖達の攻撃はキメラに当たる。
「つっ、この連携・・・厄介ですね・・・」
生花は顔を引きつらせる。だがキーパーは
「今の技・・・確か・・・まさか!?」
と今の技に何かを感じ取るのであった。
シオンと暗が聖達、そしてキメラと交戦する一方、回帰は一人チュアリと対峙していた。
「ロザリー・・・・テレサ・・・あの二人の敵も討たせてもらうよ!!」
「勘違いしないで、あの二人は死んだんじゃない、あるべき所に戻っただけだよ」
「詭弁を言うな!!」
激怒し、叫び声を上げたチュアリは
「マジカル・バースト!!」
と言い、右手から魔法の球体を次々に回帰目がけて放つ。回帰はそれを躱しつつチュアリの背後に回り込もうとするがチュアリも敏感に反応し、その攻撃は留まる所を知らずに続く。
「つっ・・・これだけ連続で攻撃してくるなんて・・・これまでよりも更に強くなったって事か。けどね」
回帰はそう言うと手に光るブーメランを出現させそれをチュアリの足元目がけて投げる。チュアリはそれを避けるが外れたブーメランは周辺の木々の葉を切り落として舞い散らせ、それがチュアリの上から雪の様に降り落ちる。
「あぶっ・・・」
葉を被ったチュアリはバランスを崩して地面に倒れ込む。それを確認した回帰は
「バスター・シュート」
と言って両手から虹色の魔力を放ちそれをチュアリに当てて弾き飛ばす。
「くうっ・・・」
そう言いながらもチュアリは受け身を取り、直ぐ様反撃体制を整える。
「へえ、やっぱり以前より強くなってるね。何がそうさせるの?」
「怒りだよ!!仲間を手にかけられたね!!」
挑発的な口調の回帰に激しく反論するチュアリ、だがそれをみた回帰は
「怒り・・・か、ある意味では僕から最も遠い場所にある物だ・・・もしかしたら、ヒリズや神消は?否、一日ちゃんも・・・」
と何かを考え、あえて反論をしないのであった。
「何時もの様に流さないんだね、それだけ余裕なの?」
そう詰め寄るチュアリに回帰は
「余裕じゃないよ、只思うところがあるだけ」
「十分余裕をかましているじゃないのさ!!お前が思う所なんて持ってる筈が無い!!」
「・・・その言葉は聞き捨てならないね」
顔を険しくして言葉で攻めるチュアリに回帰の表情も僅かに険しくなる。
だがその険しさが隙を生んだのかそこに飛び掛かって来るキメラに回帰は気付くのが遅れる。
「つっ・・・しまった!!」
そう回帰が反応した時、既にキメラは回帰に向かって飛び掛かり、その爪を振り下ろす。爪自体は手で弾くもののその反動で吹き飛ばされ、その隙にキメラに圧し掛かられてしまう。
「つっ・・・このままじゃ・・・」
「その隙は逃がさないよ!!」
そういったチュアリは力を溜め始め
「マジック・ビッグバン!!」
と言う声と共に膨大な魔力を解き放とうとする。
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