第五十四話 見抜いた罠

「調べておくべき場所?例の地下通路ですか?」


真っ先に思い付いた候補を口にするシオン。その答えに一日は


「ええ、地下通路に隠し玉が仕込まれている可能性もまだ捨てきれない。それに交戦途中、万が一地下通路越しに例のアメーバに侵攻されたりしたら此方の作戦が総崩れになる危険性もある。

その危険性を低くする為にも地下通路の構造を把握しておきたいの」


とそれが正解である事を告げる。


「それでしたら私達の新たな仲間が既に調査をしてくれています。彼等は元々データを持っていましたから調査に当たってくれるのは簡単でした」


そう笑顔で告げる木の葉。その直後、彼女の通信端末に次々とデータが送られてくる。地下通路の構造データだ。そのデータを確認すると目の前のモニターに映し出す。


「大体の構造は把握出来ましたね。そしてこれを見る限り・・・」

「うん。敵の本拠地に攻め入れそうな入口は全部で四か所。ここから攻め入るの?」


モニターに映ったデータを確認し、口にする暗と命。しかし一日の返答は予想に反して


「いいえ、今回は地下からの郷愁は使わないわ。万が一待ち伏せをされた際のリスクはかなり大きい。下手をすれば天井を崩して生き埋めに等とやりかねないもの、今の彼らは」


という物だった。


「つまり、今回と同様地上から攻めると?」


暗は改めて一日に質問をする。


「ええ、そして願わくば・・・」

「願わくば・・・俺と同じ現象をヒリズや回帰にも起こしてやりたいのか?」


一日が何かを言いかけるとそこに神消が入ってくる。


「か、神消先輩・・・はい。本来はそれこそがあるべき姿なのですから」


急な入室に動揺しつつも直ぐに何時も通りの調子に戻す一日。それを見た神消は


「・・・つっ、そうか、あるべき姿か」


と少し噴き出した後にそれを訂正する様に真面目な言葉を続ける。そのやり取りの間に地下通路の構造は完全に判明していた。


「お求めの物は手に入った様だぞ」


神消のその言葉にモニターに目をやり


「本当ですね。これと各タウンの構造を照らし合わせたら見えましたよ。次の作戦の方程式が」


と告げる一日。


「それは分かりましたが、何時決行するのですか?」


という命の問いかけに対し


「此方の戦力の補給は一晩あれば出来るわね。ならば明日仕掛けましょう。こうした作戦は時間をかければかける程敵の戦力も補充させてしまうからね」

「あとは敵がどう来るか・・・ですね」


一日の決定に意気込む一行。だがそこに


「フリーチェ様は通さなくていいのか?」


と神消が尋ねた為


「そうね、そこを忘れていたわ」


そう言って一日はフリーチェの元へと向かう。


フリーチェの部屋を訪れ、作戦の詳細を伝える一日。それを聞いたフリーチェは


「反対する理由は無い。決行を頼む」


と、まるで最初から決まっていたかのように許可を出すのであった。


「愈々決戦か・・・」


何時になく意気込むヒリズに


「ああ、負けられないね」


と回帰も続ける。


そして作戦開始時刻が刻一刻と迫り、時間丁度になると同時に地上からムエ達の居る街へ魔王軍の大部隊が強襲をかける。


「指令、魔王軍が来ました!!」


指令室でオペレーターからその報告を受けたムエは


「遂に来たか・・・敵部隊の展開図は?」

「全方位よりほぼ同規模の敵部隊が接近!!街への侵入阻止は不可能です!!」


そう言ったオペレーターは部隊図をモニターに表示する。その言葉通り街そのものを完全に魔王軍は包囲していた。


「どこか一ヵ所でも薄まれば途端に突破されますね・・・」


状況を分析し、穴は開けられない事を悟るチュアリ。


「民間戦力はどうなっている?」

「各方面で奮闘しています。今の所劣勢にはなっていません。ですが・・・」

「もし幹部に来られたら・・・という訳ですね・・・」


幹部の脅威を改めて身で感じる聖達、そんな彼らの思いを実現させるかのように各戦線に魔王軍の幹部や命達が現れる。


兵士との混戦の中で幹部は民間生物を押しのけ、魔王軍の兵士を進行させていく。その様子を能力で確認していた一日は


「木の葉の部隊はそのまま、言葉の部隊は少し進行ペースを緩めて」


と的確な指示を出していた。そんな中、シオンが指揮を執る部隊が大通りへと進行する。やはりそこにも民間戦力が待ち構えていた。


「やっぱりいたか!!」


シオンがそう叫ぶと更に民間戦力が現れ、シオンの部隊を大通りで取り囲む。


「囲まれた、だけど・・・」


と言って銃を抜き、応戦体制をとるシオンと兵士達。民間生物は勢い任せと言わんばかりに突っ込んで来る。


「牛みたいに突っ込んで・・・」


シオンはそういうと後ずさりしようとするがその時


「シオン、駄目!!下がるのではなく突破して!!」


という一日の声が聞こえてくる。


「え!?一日ちゃん・・・突破って、・・・」

「いいから早く!!」

「わ、分かった」


焦りが混じる一日の声に従ったシオンは銃を乱射しながら民間戦力の方に向かい、ジャンプで飛び越えて銃を乱射しながら兵士を先導する。


シオンの先導もあり、統率が崩れた民間戦力を魔王軍の兵士が一部抑え、その方面から包囲網を抜け出すとその位置から銃を撃って残る民間戦力も制圧する。


「一日ちゃん、今の指示は・・・」

「あのまま後ずさりしていたら言っていた場所に銃を撃ってみて」


一日に言われるままに通りに銃を撃つシオン。するとうった場所が崩れ落ちる。


「これは・・・罠!?」

「そう、この下は例の地下通路なの。そして今シオンが撃った場所には爆薬が仕掛けられていた」


その狙いに気付き、少々呆れ顔をするシオン。その口からは


「やれやれ、武道精神を謳っておきながら・・・」


と罠に対する呆れが漏れる。


「いえ、罠の仕掛け方から考えると恐らく本来は不測の事態が生じた際に、例えば今回の外敵に備えた保険だと考えられるわ。少なくともこの世界の決闘で用いられるような罠じゃない」

「それもそうですね。よくよく考えたらこんな狭い通路より仕掛ける場所は幾らでもありますし。それはそうと、そんな罠を出してきたという事は」

「ええ、向こうも形振り構ってられなくなったって事よ」


らしからぬやり方を完全に見抜いたと断言する口調の一日とそれを肯定するシオン。一日の確認を得るとシオンは侵攻を再開する。


一方、この様子を指令室で見ていた聖達。


「つっ・・・見破られた・・・」


悔しそうに呟くチュアリだがキーパーは


「今の映像・・・あの少年は明らかに誰かと会話をしていましたね。となると恐らくその相手はあの少女・・・しかし、何の機械も用いずに会話する事が可能となると・・・」

「恐らくは霜月一日の方から連絡した物と考えるべきでしょう。だとすると罠に気付いたのも恐らくは霜月一日。彼女の能力は未だに不可解な点が多すぎます」


と気付きを得ており、その気付きから疑念を口にする聖。


「能力に不可解な点が多い?」


今更?と言ったイメージで聞くチュアリ。


「ああ、よく考えてみても欲しい。ロザリーとヒリズ、チュアリと回帰、この二組は元は同一の存在であったが故に双方の能力は似たり寄ったりだ。

ロザリーは若干の魔術と機械、チュアリは魔術に体術を少し。そしてそれは対となる敵幹部も同じ」


という聖の説明に


「言われてみれば・・・確かにそうですね」


と納得した表情で頷く両者。


「だが霜月一日の能力は少なくとも遠隔から接触を行い、怨嗟を増幅させ、様々な魔法攻撃を行い、身体異常を起こして子供兵士を生み出す。分かっているだけでもこれだけの能力がある。あまりに分散しすぎていないか?」

「確かに・・・まるで一人で何でも出来る万能選手のような・・・いえ、認識としてはそれが正しいのかもしれませんが、それだけではない何か別の・・・

もしかして、未だ対となる存在が確認出来ていない事と関係があるのでしょうか?」


聖が更に説明を続けると望がそれに重ねる。


「未だ能力の全貌が見えない少女・・・罠も見抜かれた以上どう闘う・・・」


話の軸を目の前に戻したムエだが他の面々も含め、その顔は険しい物であった。

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