第五十二話 加速する戦い
「貴方が持っていた負の部分も含めて自分であるという思考、それは先輩達にとって、否、フリーチェ様にとっても完全に欠落していた部分だった。そしてその部分があったからこそ・・・」
「そう、僕達はあの敵に辿り着く事が出来た。恐らくそう遠くない内に・・・」
「ええ、決着を付けないといけなくなるでしょうね」
会話を続ける内、一日と世革の顔は段々と険しさを帯びてくる。その敵とは何を指しているのだろうか?
「じゃ、その敵に備える為にもそろそろ起きないと」
「そうだね、それじゃ、又」
その言葉と共に世革は消え、一日は目を覚ます。
目を覚ました一日はその足でベッドから降り、服を着替えて外に出る。するとそこには命が立っていた。
「一日ちゃん、もうお休みはいいの?」
「ええ、十分休めたわ。それより、命がここに立ってるって事は・・・」
気遣いの言葉をかける命に相応の対応をする一日、だがその直後の言葉は何かがある事を察していた。
「うん、フリーチェさん達は無事にアメーバの迎撃に成功したけど、その際にアメーバが現地の住民も襲っていたという事を言っていたんだ」
「アメーバが現地の住民を?」
命の発言に思わず聞き返す一日、そこに木の葉も現れ
「それだけじゃないよ。前にあの世界に行った時、私と一日ちゃんが遭遇した生物兵器、あれが量産されていたという事実も判明したんだ」
と告げる。
「あの機動兵器が量産・・・となると、その現地住民って言うのは・・・」
「うん、あの兵器を生産していた組織の残党と考えてまず間違いないと思う。だとしたらアメーバが現地住民を襲った理由も大体の見当はつくけど・・・」
「厄介なのはこれでフリーチェ様達に説明する理由が出来てしまった事ね・・・仕方無いわ。何れはしなければならない事だもの」
木の葉の話からアメーバが襲撃した理由を推測する一日、そして一日はその足で命達と離れ、フリーチェの部屋に向かうのであった。
そしてフリーチェの部屋に入ると
「来てくれたか、一日、早速だが聞きたい事がある」
と案の定の声がフリーチェから告げられる。
「分かっています。アメーバについてでしょう」
「流石に話が早いね。だとすると現地住民を襲撃していた事も聞いているのかな?」
「はい、先程命達から聞きました」
フリーチェやヒリズの矢継ぎ早の質問にも難なく答える一日、それは彼女の中で返答が既に想定されていたという事を現していた。
「今回アメーバが現地住民を襲った理由、それは恐らく現地住民がある感情を持って居た為と考えられます」
これが一日の返答だった。
「感情?」
「ええ、感情という物の性質上、より正確に言うのであればその特定の感情を強く抱いているというのが回答になりますが」
返答に思わず聞き返すヒリズ、それを予測していたかの様に返答する一日にヒリズの表情が少々険しくなる。
「その感情とは何?もったいぶらないで早く・・・」
「ヒリズ、例の組織が関与していていらだっているのかもしれないけど、そう急かしても・・・」
「あ・・・うん・・・そうだったね・・・」
回帰に窘められ、険しい顔を元に戻すヒリズ、それを確認した一日の顔も心なしか緩んだように見える。
「その感情はまだ正確には特定出来ていません。ですが可能性として高いのは嫉妬、恨み辛み、憎しみ等負の感情と括られる部分ではないかと推測されます」
「負の感情・・・それって・・・」
何か心当たりがあるような口調で話す回帰、それを見た一日はあえてそのことに触れないまま
「恐らく今回の現地住民は該当する負の感情を強く持っていた為、それ故にアメーバのターゲットとして補足されたのだと思います」
と話を続ける。
「つまり、あのアメーバは負の感情を持つ存在を狙ってるって事か。だが狙ってどうする気なんだ?」
「恐らくは・・・その感情を消滅させるつもりだと思います」
アメーバの狙いについて語る神消に返答する一日。更に
「消滅させる・・・」
「ええ、皆さんもご存じの通り、私は一度あのアメーバに取り込まれかけました。そしてその時感じたんです。私の中から何かが引き裂かれそうになる、消滅させられそうになる感覚を。今にして思えば、あの感覚こそが負の感情を抹消しようとしていたのでしょう」
と回帰の質問にも答えるが、その声にはどこか否定心が混じっている様に聞こえる。
「負の感情の消滅・・・それではまるで我等の・・・」
これまでにない恐れと脅威を感じるフリーチェ。
「ええ、私達に対する抵抗戦力、そう考える事も出来ますね。最も、何故そんな物がどこかの世界で生み出され、そして私達の侵攻している世界に現れているのか、その点についてはまだ分かっていません」
フリーチェの様子を感じ取ったのか、返答する一日の声にもどことなく緊張感が混ざる。
「ありがとう、一日。おかげで疑問は晴れたよ。晴れたけど・・・」
「分かっています、ヒリズ先輩」
一日に感謝の言葉を告げるヒリズ、だがその顔は晴れず、又一日もその理由は承知していた。
「あのアメーバが私達に対する対抗戦力のであるとするのであれば放置しておくのは危険すぎますが、かといって現状では此方から攻勢に出る事は困難です。よって残る神消先輩の未制圧エリアを素早く制圧し、アメーバとの戦いに専念出来る環境を作り出すのが得策であると考えます」
そういうと一日はまっすぐにフリーチェの目を見つめる。
一日に見つめられるフリーチェ、その瞳に強い決意が宿っている事は想像に難くなかった。
「承知した。確かにこれ以上長引かせる理由は無いな。それにあのアメーバこそが本当の脅威となりえるのであればその戦いの準備は手早く整える必要がある」
「ああ、こんな事態になった以上、アメーバの脅威を考えない訳にはいかない」
フリーチェが一日の瞳に秘められた決意を悟り発した発言、それにヒリズも同意する。
「だが、具体的にはどうするつもりだ?」
具体案を聞き出そうとする神消に一日は
「奴等は前回の敗戦から恐らく各街の防衛戦力を強化しているでしょう。そして、私達が来る直前までのこの世界の状況を見る限り、その抵抗は決して侮ることは出来ません。単なる数押しでは此方の消耗も大きくなります」
「単なる・・・という事は単なるでなければいいという事か」
と返答し、その返答に神消は更に言葉を重ねる。
「ええ、策はあります、私がこれまで隠しておいた策が」
そういうと表情を僅かに緩め、笑みを浮かべる一日、その笑みは自信というよりはどこか狂気のような物を秘めているようにも見える。
翌日朝、場面変わって聖達、彼らは昨日の話からずっと因子について考えていた。
「因子について何か閃いた?」
「いいや、全くだ。雲を掴む様な話だと分かってはいるが・・・」
望が希有に聞くが、希有の返答はそっけなく、且つ回答とは言えない物であった。
「昨日の今日で答えが出るとは思えません。兎に角今は考えましょう」
顔を険しくする望と希有に聖が話しかける。だがその聖の顔もどこか険しさを含んでいた。
「聖さん・・・私達と気持ちは同じなのに・・・」
聖の言葉にどこか不満げな望、そこにチュアリが現れ
「不満気ですね。ですが同じであるが故に言うべきだと思ったのかもしれませんよ」
と告げる。
「同じであるが故に・・・」
どこか納得出来た様な、出来ない様な感覚を抱く望。だがその直後、基地内にサイレンが大音響で響き始める。
「何事!?」
望が叫ぶと近くをムエが通りかかり
「皆さん、早く指令室に!!どうやら何かが起こった様です」
ムエはそれだけを告げると走っていき、その後を追って望達も指令室に入っていく。
既に集まっていた聖、チュアリ、ロザリーだが現状は全く把握できていないでいた。
「一体何があった!?」
ムエがその場にいるオペレーターに確認を取るとオペレーターが
「この街以外の全ての街が魔王軍の襲撃を受けています。それも一ヵ所辺りの戦力はこれまでの数を明らかに上回っています!!」
と報告する。
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