第42話 公表という悪夢
「それは分かりました。ですがこれからどうするのです?」
「とりあえずはフリーチェ様達に説明ね。流石にここまで大事にされた以上説明しない訳にはいかないわ。遅かれ早かれ情報は伝わるでしょうし」
一日はそういうとフリーチェの部屋へと向かい、その扉を開ける。
「一日、丁度良かった。聞きたい事がある」
「例のアメーバの事でしょうか?それでしたら今からご説明します」
「流石、話が早いね」
フリーチェの問いかけに返答する一日、それを茶化すようにヒリズが口を挟む。
「あのアメーバは当初、回帰先輩の世界に保管されていた兵器だと思っていました。ですがこの世界にも出現した事を考えるとそれは違うようです。
恐らくはフリーチェ様達と同様、異なる世界から出現した存在と考えられます」
ヒリズの茶化しはまるで意に介さず、淡々と説明する一日。その様子に若干不満げな顔を浮かべるヒリズ。
「俺達と同様に異なる世界から出現した?だとするとあのアメーバは何が狙いなんだ?」
「目的については現時点では何とも言えません。ですがあのアメーバに取り込まれると心の一部が溶けていくような、そんな感覚がありました。」
「心の一部が溶ける?」
「はい。それも私達にとって必要不可欠な部分が溶けていく。そんな感覚に陥りました。あの子達の支えがなければ私はここに戻ってこられなかったかもしれません・・・」
回帰の問いかけに返答する一日、その顔にはどこか不安が浮かんでおり、その顔を見たフリーチェ達も事の深刻さを何となくではあるものの悟る。
「それで、これからの行動についてだが、神消の世界への攻勢を早めようと思う。多少問題は生じるかもしれんが」
「私もそれに賛同です」
方針を掲げたフリーチェに賛同する一日、だがその同意はその場にいた他の全員が驚いていた。
「・・・どうかしました?」
「あ、いや、あれだけ慎重だった君が一番に賛同するとは・・・」
「意外・・・ですか?」
質問の口火を切った神消に対し、一日は淡々とした口調を崩さずに返答する。
「根拠はちゃんとありますよ。あのアメーバが送り込まれた目的や本拠地が分からない以上、現時点では此方から打って出ることは出来ません。ならば先に対処が可能な世界から対処していく方が良いでしょう。ただし、アメーバの再出現及び他の世界への出現の可能性も想定し、それぞれの世界にもアメーバ迎撃用の武装を配布しておくのが先になりますが」
賛同の補足を行う一日。
「そこまでの対応をしておく必要があるものなのか?あのアメーバは」
「はい。現時点においては彼等よりも遥かに大きな脅威であると言えます。これまでの世界に出現した場合、こちらの制圧がひっくり返される可能性もあります」
回帰の質問に対し、一日は明確な返答をする。
「分かった。ではそれが済み次第行動する」
決断を下した声で全員にそう告げるフリーチェ、最早躊躇う理由はなかった。
それぞれが決意を胸にし、一日が外に出ると
「心を溶かすアメーバか・・・」
「ええ、一日の前でああいいましたが、私達にはそれに心当たりがあります。それは・・・」
「言うな、それは私が一番良く分かっている。だがあの子に会わなければそれを自覚する事すらなかっただろう・・・」だからこそ、私達はあの子を失う訳にはいかない!!」
「はい!!必ず守って見せます・・・守る・・・か」
と残る面々は別の決意も新たにする。
一方、部屋をでた一日が一階に降りると
「大変だよ一日ちゃん、ニュースを見て!!」
と言い、テレビ画面を指差す。
「何?今やってるのは今日のアメーバのニュースね。流石にあれだけの大ごとだもの、ニュースの報道位は・・・」
「そうじゃなくて今さっきね!!」
命がそう言いかけた時、画面先のキャスターは「繰り返しお伝えします」と言った後
「本日東京駅を襲撃したアメーバの詳細について、政府与野党は挙党一致でこの近くにいた複数の人物を襲撃の主犯として捜索する事を決定致しました。
こちらがその画像となります」
とニュースを読み、画面には命が二度に渡り、生花の手によってアメーバに取り込まれそうになった場面が映し出される。
「これは現場に居合わせた人が撮影した映像です。少年が女性によってアメーバの犠牲になりかけている事が分かります」
担々とニュースを続けるキャスター。
「これは・・・つまり・・・」
「ええ、如何やら彼等をアメーバを操っている黒幕としたいのか、或いはそう思っているのか・・・何れにせよそうした意図を持って報道されていると考えてまず間違いないわね・・・」
暗が聞くと一日はそう続け、更に
「主犯格が不明よりもある程度判明していた方が安心感は与えられる・・・そう考えたのかもしれないけどこれじゃ・・・」
一日は少々苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべる。
その頃、同じニュースを聖達も見て居た。
「くそっ、何てこった!!これじゃ俺達が悪者じゃねえか!!」
荒れた口調で口に出し、手を振り下ろすテレサ。
「落ち着いてテレサ、ここで暴れても始まらないわ・・・」
ロザリーが諭そうとするが、テレサの悔しげな顔は変わらない
「私の・・・私のせいでこんな・・・」
絶望に満ちた表情を浮かべ、膝をついて崩れ落ちる生花
「アメーバに取り込ませれば救える・・・その気持ちが油断を生みましたか・・・くっ・・・」
聖も生花にかける言葉は無く、表情を曇らせる。
「これも・・・奴等の指示なのでしょうか?」
キーパーがそう質問すると
「否、これは寧ろ政府の判断の可能性が高いです。奴等としてはこのアメーバは裏で密かに処理したい案件でしょうからね。もし初めから表に出すつもりであればもっと早くに行動していたでしょう」
辛うじて残っていた冷静さで聖は応える。それが精一杯の理性を保つ方法だった。
「ですが、これはある意味ではチャンスなのでは?」
そういうキーパーの顔は凛々しく、はったりや負け惜しみの類ではなかった。
「チャンス?どういうことです?」
沈み切った顔を辛うじて上げながら生花はその意味を問う。
「あのアメーバでこの世界の奇病が治せる事を証明出来れば病気の治療法を確立し、且つ私達の濡れ衣も晴らす事も出来るのではないかという事です。当然簡単な話ではありませんが・・・」
そういうとキーパーは歩き出し、部屋の中央に立つ。
「成る程・・・現状ではそれが濡れ衣の返上に最も確実な手であると言えるでしょうね。元々状況は瀬戸際なんです。可能性を問わず賭けてみる価値はあると言えるのではないでしょうか?」
チュアリもキーパーの提案に賛同する。
「となると、なんとしてもあのアメーバを鹵獲し、その効果を証明して実績を出す必要がありますね。次にアメーバが出てくるまでにその方法が確立できればいいのですが」
聖はこう告げると腕を組み、手を顎に添える。
だがそのケースは既に一日達も推測していた。
「つまり、彼等にあのアメーバの鹵獲をさせる訳にはいかない。そういう事ですね」
苦虫を噛み潰した様な表情で話された一日の説明を聞いた暗はそう返答する。
「ええ、もしそれをされると私達の状況は一転してひっくり返されかねない。だから本来アメーバの存在が公表されるのは望ましくなかったんだけど・・・」
「今となっては言っても仕方ない、其れよりも早くアメーバに対する対抗処置をとるほうが現実的、でしょう?」
「流石に分かるようになってきたわね」
一日の発言を先読みし、返答するシオン。それには一日も関心を隠さなかった。
「あの・・・一日ちゃん、あのアメーバは人間を破壊するって言ってたけど、具体的にはどういう状況なの?」
命が不意に質問する。
「・・・あのアメーバに取り込まれた時、私の心の一部がアメーバの中に溶けだしていく様な感覚になったの。でもあれは・・・」
「そういう事・・・何だね。僕たちの考える人間とは真逆の方向だって」
一日の口ぶりからその意味を悟った命はそこで結論を出す。
「ええ、だからこそあのアメーバは殲滅しなければならない」
「その為に僕たちがいるんでしょう」
「ええ、皆、近々来るべき戦いが始まる。そう考えていて」
一日の問いかけは言葉以上に覚悟を問う印象を与え、それに応える他の面々も又顔に強い決意が現れるのであった。
「既に彼等はこの事に気付いているわ。アメーバの出現については此方は既に探知する技術がある。あとはどこに出てくるか、その点が運試しね・・・」
一日のその発言に込められた意味を、その場にいた全員がぼんやりとではあるものの理解していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます