だい53にゃ・化け物の襲来

「なが~いなが~い旅路だったな……」


 二つの太陽がやっと海面から顔を出す時間に、一人の子供が宙に浮かんでいた。

 広い海を越え、幾つかの島を越え、大陸に見えたこの大きな都市を今、眺めている。

 帝都には雲に届きそうなほど高い塔が建っている。

 たぶんあれが、ララノアの言っていた皇帝の塔とか言うのだろう。

 あの塔に皇帝がいるって事だ。


 僕は改めて帝都を見下ろす。

 まだ薄暗い時間帯なのに眼下の都市は忙しなく活気に満ちていた。

 もっとも動き回っているのは、ハイエルフの兵士と鎖で繋がれた奴隷だけだが。


「さて、作戦通りにサクッと皇帝とかいうのと、側近ヤっちゃいますか」


 と、思ってキョロキョロしていたら馬車の一団が見えた。

 驚いた事にちゃんと馬だった、ブタじゃない。

 いや、そこはどうでもいい。たぶん。


 問題は馬車の荷台にぎゅうぎゅう詰めにされた人たちがいたことだ。

 彼らは帝都から離れた建物に到着すると、荷台に居た人たちを押し込めていった。

 僕はそーっと近づいて様子を見る。


「わん! わんわん!」

「わぁおぉーん! くぅ~ん」

「チュ……」

「シュゥルルゥゥ」


 様々な種族が押し込まれていて、中の構造は独房のようだった。

 なんだか分からないけど、この部屋にはハイエルフが捕まっていないから、たぶん他種族専用の独房か何かなんだと思う。


「サンダーアロー」

「ッ!?」

「oq!?」


 看守を気絶させながらこの独房を確保する。

 全員はいるとは思わないけど、他の奴隷たちもこの中で保護しておこう。

 僕は独房の建物全体を魔法で補強してから外に出る。

 すると続々と独房に向かって外で作業していた奴隷たちが歩いていた。


 もしかすると、今から休憩に入るんだろうか?

 だとすれば恐ろしくブラックな国だなここは。

 おかげで保護しに行く手間がはぶけたからいいんだけどね。


「スカイウィング・改。あとは、魔装強化術・改」


 空高くに舞い上がって帝都を見下ろす。


「さてと、運良く奴隷の保護も終わったし、暴れるかな」


 杖を掲げて集中する。

 まだ薄暗い朝には目の覚めるような光景が一番だろう。


「ファイアーボール展開!」


 杖を持った手をさらに突き上げながら呪文を唱えると、辺り一面が明るくなった。

 それはファイアーボールを無数に並べた為に起こった現象。

 数にすれば200近く。

 下を見れば、こっちに気が付いたハイエルフたちが指をさして騒いでいた。

 ハイエルフの兵士に狙いを定めて、僕は杖を振る。


「ショーの始まりだ」


 頭上で輝く火炎の星が、一斉に帝都に降り注いだ。

 遠くから見たその光景はとても綺麗に映ったことだろう。

 だが、その目標となった者にとっては、悪夢以外の何物でもなかった。


「irywuwzswe!!」

「oq、oqfeirgqheotaqptejq!?」

「yrzieyqwfwpqdr! pqsqye!」


 ハイエルフの兵士たちは幾つかのグループになって結界魔法を展開した。

 しかし、その結界はたった一つのファイアーボールが触れるだけで破壊されていった。


「むむむむぅぅん!」


 僕は減った魔法を補充しては放っていく。

 敵の方も徐々に対応してきていた、だがそのことは予想済みだ。

 ファイアーボールの他にもアイスエッジやストーンスパイクを混ぜながら延々と撃ち続ける。

 帝都の港は火の海になり、市民は後方へ逃げ、兵士は港へと集まってきていた。


「……めっちゃ居るね?」


 数分しか経っていないだろう状況でも、既に二千近い兵士を倒している。

 しかし、港に集結している敵はもう一万を超えそうな勢いだった。

 さらに後方からも続々と兵士が集まってきている。


 一部の集結し終えた兵士が一斉に呪文をとなえる。

 それは一つの魔法となって僕に飛んできた。

 魔法の種類で言えばロックキャノン何だろうが、数人がかりで放ったために威力は桁違いに上がっている。


「ほいっと!!」


 僕はそれを同じ魔法のロックキャノンで相殺した。

 魔法を放った集団はそれを見て固まっていた。

 だけど、すぐに気を取り直して合同魔法の準備を始める。


「集まって来たし、一気に片づけるか」


 僕を攻撃しようと迫り来る魔法を、弾いたり防いだりしながら杖を地面に向かって振り下ろす。


「地上に住むものよ、地にひれ伏せ。

 ――アースクエイク!!」


 港を中心に帝都全体に大きな地震が起きる。

 荷上場は崩れ、倉庫が崩壊する。

 兵士たちは身動きも取れずにその崩壊に巻き込まれていった。


「眼下の者をこごえさせ、てつかせよ!

 ――ダイヤモンドダスト!!」


 それは氷の舞。

 眼下にいた数万のハイエルフたちが氷の刃と寒さに倒れていった。

 さらに後方から迫って来ていた増援が、その光景を見て二の足を踏む。


 彼らにも魔法の餌食になってもらおうと集中した時に、一際ひときわ高くそびえ立っていた塔から風の刃が襲ってきた。


「おっとっと!」


 それらを全て迎撃しながら、杖を塔に向ける。


「あの悪趣味な塔を吹き飛ばせ! ――イグニッション!!」


 魔法を放ってきたであろう塔の屋上付近で大爆発が起こる。

 その爆発は下の階にまで及び、塔の三分の一を破壊した。

 さらには塔から降って来た破片が周囲に破壊の雨を降らせる。


「むむ? 倒せなかった?」


 間一髪逃げれたであろう魔法を行使した人物が、空に浮かんでいた。

 それはまだ若そうなハイエルフで、高価そうな服に、冠を被っていた。

 その人物は頭に血が上った表情をしながら僕を睨み付ける。


「ywuqagqawoqawotuqaqotkqyratotyq!!

 jqgqytotfqiquwotirywjrpqoqw!!」


「……すまん。何言ってるか分からん!」


 僕がくるくると杖を回しながら構えると、皇帝っぽいハイエルフも勝ち誇った笑みを浮かべながら杖を構え直した。

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