エピソード43 「僕は美少女の涙と雫を受け止める」

瑞穂:「止まった、ミタイね。」


僕らを載せた「リフト」は、5分ほどを費やして、ようやく真っ暗な闇の底に、到着した。


一体、何m位、降りて来たのだろうか? 暗くて距離感覚も定かでは無い。


遥か上空に、地上へと通じる四角い光の穴が、シャッタの様なモノで閉じられて、

今や、辺りは、一色の闇へと、…塗り変わる。



芽衣:「怖い。」


瑞穂が、スマホのライトアプリで、周囲を照らし出す。



どうやら此処は、体育倉庫のような部屋?

かび臭い、湿った匂いが、辺りに充満していた。


瑞穂がライトを左右に振る度、何も無い空っぽの部屋に、自分達の影が怪しく…うごめいて、


リフトの正面に、巨大な金属製のスライド・ドアが、設置されているのが、…見えた。



瑞穂:「でも、何かあるってのは、…本当だったミタイね。」


瑞穂は、「リフト」から、降り立ち、

美穂が後に、続く。



翔五:「あのさ、これ、帰る時、…どうするんだろ?」

翔五:「先に、帰り方調べといた方が、良く無いかな?」


入って来た入口は、遥か手の届かない上空で、もはや無事に戻れる気がしないのは、…僕だけ?



翔五:「っから、離れちゃっても、大丈夫なのかな?」


瑞穂のライトが、僕の顔を、…照らす。



瑞穂:「アンタ、何しに此処に来たの? 手掛かりを探しに来たんでしょ。」

瑞穂:「其処に居ても、手掛かりなんて見つからないわよ。」


芽衣が、黙ったまま、僕の腕にしがみ付く。

彼女を支配する不安が、僕にも、手に取るように分る。



翔五:「でも、無闇に危険かどうか分らない処に、首を突っ込んでも、良いのかな?」


知らないモノに手を差し伸べる事は、…何時だって恐ろしい。



瑞穂:「翔五、昨日の夜、何て言って私の事ナンパしたのか、…もう一回言ってみてくれる?」


翔五:「……、」


光に埋もれて、瑞穂の顔が、見えない。



瑞穂:「言いなさいよ。」


でも、其処には、確かに、鴫野瑞穂が、…居る。



翔五:「僕と、…一緒に、戦って。。。」


瑞穂:「其処に、怖じ気付いて突っ立ってる男の姿は、…戦ってる男の姿なのかしら?」


ガサツで、口が悪くて、以前とは比べ物にならない程、普通の女だけど、



僕は、人を信用するのが、苦手だった、

最終的には、みんな、僕を裏切る、…かも知れないからだ。


裏切られた時に悲しい思いをしない為には、最初から、誰も、信用しなければ良い。

それが、一番安直で、確実な処世術だと、…思っていた。



でも、今や、僕は「瑞穂」を、どうしようもなく、…信じている。



瑞穂:「貴方の言ってる「戦う」って事は、」

瑞穂:「一体、ドッチに向かって足を踏み出す事なの?」



「瑞穂」は、何時だって、僕の事を見護っていてくれて、

「瑞穂」は、何時だって、僕が、僕らしく在る様に、…導いてくれた。


「此処に来い」と言った「瑞穂」の言葉を、僕は、…信じている。


仮令たとえ「瑞穂」が、僕の事を裏切っていたとしても、

仮令「瑞穂」が、間違っていたとしても、…構わない。


いや、そうじゃない。

「瑞穂」は、絶対に、僕を、…裏切らない。


事実がどうかなんて事は、本当の処は、どうでも良いのだ。

信じると言う事は、つまり、…そう言う事なのだ。



僕は、玄関フロアのリフトから、足を踏み出して、

鴫野瑞穂よりも、一歩、前に、…出た。



瑞穂:「やれば、出来るじゃない。」







大きな、スライド式の金属扉を開けると、

其処は、巨大な人工洞穴だった。


何十本もの巨大な柱に支えられた地下空洞は、最高部240m、奥行422m、幅312mのコンクリート打ちっ放しドームで、自分は今、その底に居て、薄暗く巨大な天蓋を見上げている。



翔五:「一体、何なんだ、此処は?」


闇に埋もれそうな天井は、緩くドーム状にカーブを描いて、更にその奥行きを、分り難くしている。



瑞穂:「雨水調整施設でしょ。 たまに、地下巨大建造物の写真とか、TVでやってるじゃない。 見た事無いの?」



降り積もる暗闇の底で、…唯一つ、

人工地下空洞の片隅に立つ、簡易のプレハブ?テント?から、微かな明かりが、漏れていた。



瑞穂:「行ってみましょう。」


美穂:「完全に、瑞穂さんがリーダーっすね、」

翔五:「別に構わないよ、それで、」


ひんやりと湿ったコンクリートの地面は、湿気の所為か、地下水が漏れ出してきているのか、うっすらと濡れていて、少し滑りやすくなっている。



300mほど歩いて、漸くプレハブに到着し、…ドアを開ける。

其処は、テレビで見た事がある病院の集中治療室?ミタイな部屋。


外に漏れ出ていたのは、幾つものグラフを描き出し続ける、コンピュータのモニターの光らしい。



部屋の中央には、胃カメラを撮る時の診察台の様な、回転式の二台のベッドが並べられ、其処には、精密機械とモニターにつながれた、二人の人間が、眠っている。


一人は、…



翔五:「…アリア。」


僕は、気がつくと、昏々と眠り続ける、その少女の元へと、…駆け寄っていた。



その少女、

背の頃は130cm、華奢で中性的な肢体。傷一つ無い端正な小顔は透き通る様に白く、長い睫毛に大きくて深い瞳、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪、そして潤った唇。


まるで造り物の様に一点の欠陥も無い美少女が、

薄暗い部屋の中で、星を集積する夜光虫の様に、…おぼろげに光を放っている。



瑞穂:「この子が、アリア?」

芽衣:「すごい、綺麗な子。…お人形さんみたい。」



僕は、そっと、アリアの顔に、…触れてみる。


全く反応はないが、

確かに、生きている、…アリアが此処に居る。



翔五:「アリア、」


僕はどうしても、確かめてみずには居られなくて、

おもむろに、首まで被ったシーツを、…捲ってみる。



芽衣:「ちょお!、…何してんの!」


慌てて芽衣が、僕の顔を、…塞ぐ



一糸纏わぬ、その素肌には、…一筋の傷跡も、残っていなかった。

「ロンギヌスの槍」の効力も、時間を遡って迄は、作用しないらしい。



翔五:「…良かった。」



瑞穂:「こっちの女の人は、誰なの?」


何の遠慮も無しに、瑞穂がもう一人のシーツを捲りあげていた。



木乃伊ミイラの様に痩せこけた頬、土気色の肌、

坊主頭にされて、身体には、何本ものチューブやらコードやらが刺さっている。


骨と皮だけの様な身体からは判別する事が難しいが、その陰部は、確かにこの人間が女である事を証明していた。


体格的には、アリアと変わらない。

何処となく、その面影も、アリアに似ていなくもない。



翔五:「これは、…アリアじゃないか。」


歳をとって、やつれきり、絞りかす程の生気さえも感じられず、どんなに見窄みずぼらしく老いさばらえていようとも、


僕が、アリアを見間違える訳が無い。



瑞穂:「どう言う事?」



女:「その女の名前は「サリナ」、その子の母親だよ。」


声の方を振り返ると、入口に、一人の白衣の女?おばさん?が、立っていた。



翔五:「アリアの母親?」

瑞穂:「貴方、誰?」


女:「ご挨拶だね、鴫野瑞穂。不法侵入しているのはお前達の方だろう。」


白衣のおばさんは、何の警戒の素振りも見せずに、ズカズカと、僕達の方へと、…近づいて来る。



瑞穂:「勘違いしないで、不法侵入しているのは、この男よ、」

瑞穂:「私達は、無理やり巻き込まれただけの、被害者に過ぎないわ。」


本気で主張するんだ、…それ、



女:「別に、責めている訳では無いよ、そもそも、この研究室は、お前の為に用意されていたモノだからな。」


瑞穂:「どう言う、意味?」


女:「正確には、過去形かな。もう、その必要は無くなったから。」


おばさんは、サリナのシーツを、丁寧に、掛け直す。



瑞穂:「貴方は、一体何者なの?」

女:「私は、福原晶ふくはらあきら、ここの職員だよ。 今の処はね、」



瑞穂:「私達を、掴まえるの?」


福原:「立場上、そう言う事になるな。」

福原:「手荒な事はしたく無いから、大人しく言う通りにしてくれると、助かる。」


それから、チラッと、僕達の顔を、一瞥いちべつする。



福原:「折角だから、もう一つ、良いモノを見せて上げるよ。」

福原:「付いておいで。」



僕達は、おばさんに連れられて、隣のプレハブへ移る。


おばさんが、操作板のスイッチを入れて、中央に設置された熱帯魚用の水槽のランプが点灯し、中に保管されている「それ」が、…露になる。


それは、5つの卵? 大きさと表面の模様は、うずらの卵と、そっくり、



瑞穂:「これは、何?」


福原:「聖獣の卵、」

福原:「私達はそう呼んでいる。」


翔五:「もしかして、それは、聖霊の卵なのか?」



「聖霊」とは、「世界」のプログラムの一部、一アプリケーション。

「卵」とは、解凍前のZipファイルの様なモノ、

「瑞穂」は、そう言っていた、そして「卵」を孵す為には「代償」が必要。

「代償」とは、人間の「命」。



福原:「欧州では、そんな風に呼ぶらしいな、「天使の卵」とか。」

福原:「この「卵」を体内に取り込めば、異能の力、超能力を得る事が出来る。」

福原:「此れ等は、それぞれ、青龍、朱雀、黄龍、白虎、玄武に対応している。」


実際には「人間」の方が「聖霊」に寄生されて、取り代わられて、…成りすまされる。



翔五:「でも、どうして、…此処に?」

翔五:「もしかして、この「世界」では、「聖霊」はまだ「卵」の侭なのか?」


福原:「残念だけど、これはレプリカだよ、」



そして、ドカドカと、武装した警備員?引っ越し屋さん?が押し入って来た …4人、いや5人。


派手な縦縞の作業服ツナギを着て、慣れた手付きで、僕達に、拳銃の照準を、…合わせる。



福原:「大人しくしててくれれば、あまり嫌な思いはしなくても済むよ。」


ツナギの男1:「コイツらは、一体何者なんだ?」

福原:「お前、使えないなあ。 仕事中に私語は慎みなさい。」


ツナギの男達が、手際良く、2つの段ボール箱を運び出し、

福原と名乗る女は、机の引き出しからSDカードの束を取り出して、白衣のポケットに、…しまう。



瑞穂:「貴方、ここの職員っていうの、嘘でしょ。」

福原:「本当だよ、今の処はね。」


ツナギの男2:「「難波優美」はどうしますか。一緒に、連れて行きますか?」

福原:「無理に決まってるだろ、」


どうやら、このおばさんが、一味のボスらしい。

ツナギの男達は、良い様に、鼻先で、アシラワレている。



福原:「お前、室戸とやり合って勝てる自信有るの?」

福原:「「あの子」には手出ししないで、作戦の遂行が最優先だよ。」


室戸? あの、十字架ピアス。。の事か?

奴が居るのなら、…アリアの事は、多分、大丈夫だろう。



福原:「予定外のボーナスもゲット出来たからな。上々の上だよ。」


おばさんが、僕達の事を値踏みする様に、…め付ける。



福原:「正直、資材運搬用のリフトの監視カメラでお前達を見つけた時は、リーチ一発満貫ツモって尚且つ確変頂き、…って位に驚いたよ。」


福原:「これも、「神」のお導き、…って奴かな?」


おばさんが、嗤う。



瑞穂:「私達をどうするつもりなのか、きちんと説明してもらえないかしら。」



福原:「お前達が、今後の予定を心配する必要は無いよ、」

福原:「むしろ、知らない方が精神衛生上、良いと思うし。」



僕達は、拳銃に背中を押されて、マグライトを持った兵士の後に続く、


僕達が入って来たのとは反対側の隅、にある小さな扉をくぐり、

500m程の真っ暗な廊下を進む。


行き着いた先は6人乗りのエレベータ。

1分程、登った先は、…ありがちな、階段室。


反対側のドアを開くと、其処は、どこかの施設の、…地下駐車場の様だった。



男達は、階段室の中で手際良くツナギを脱ぎ捨てると、何処にでも居る様な、冴えない大学生?オタク?の風体ふうていへと早変わりする。


…何故?



福原:「その車に乗りなさい。」


おばさんが指し示す先には、8ナンバーの1Boxワゴン車、

窓は全て目隠しされて、ボディ全体に、ちょっとエッチで可愛い「アニメの女の子の絵」が、…描かれてある。


所謂いわゆる、…痛車イタシャ


何だか、瑞穂の顔が、チョット、赤い??



オタク1:「3名は車を調達して、別行動、予定時刻迄に基地で合流の事。」

オタク4:「了解!」


僕達は、拳銃に指図されて、「痛車」の後部キャビンに、押し込まれ、

別のオタクが、試験管台に載せられた4つの小さなアンプルを持って来る。



オタク2:「飲むんだ。 毒ではない。」

瑞穂:「嫌よ。…身体に悪いモノに決まってるでしょ。」


オタク2は、問答無用で瑞穂の襟首を掴んで引っぱり、…

僕は、咄嗟に体当たりして、割って入る。



オタク2:「貴様!」


オタク2は僕の髪の毛を掴んで引き摺り上げると、

キュートな?頬っぺたに、硬いベレッタM8000の銃口を、…突きつける。



オタク2:「死なせなければ、ナニをしても良い事になっている!」


当然、…痛い、が、



翔五:「瑞穂、言う通りにするんだ、…こいつら、マトモじゃない。」


こう言う連中は、無駄を嫌う、最短距離で、手間を省こうとする。

僕は、瑞穂が尊厳を傷つけられる場面等、絶対に、…見たく無い。


それに、僕には、コレが毒ではないという確信が有った。

奴等は、僕を殺さない。 恐らく、僕の正体を知っているからだ。


4本並んだアンプルを此処に居る全員に飲ませるつもりだとしたら、どれが僕にあたるか分らない様なやり方で、致死性の毒を持ってくる筈が無い。


それに、それに、仮に万が一、これが毒だったとしても、最終的に、瑞穂が死ぬ事は無い筈。


寧ろ、心配なのは、…美穂。 彼女は、生身の人間に過ぎないのだ。


瑞穂には悪いが、毒味役になってもらう。



瑞穂:「わ、分ったわよ。 飲めば良いんでしょ。」


彼女がひるんでいるのは、決して拳銃に屈した訳では無い。

彼女の名誉の為に、コレだけは、はっきりと言える。


瑞穂は、只、僕に「呼び捨て」にされて、…舞い上がっていただけなのだ。



瑞穂はアンプルの先を折り取って、中の液体を、恐る恐る、…飲み下す。


このクスリが人体にどの様な影響を及ぼすのか、見定める為に、出来るだけ時間を稼ぎたい。



瑞穂:「…、甘、」


伊達だて眼鏡の理系オタク腐女子が、しかめっ面で、ベロを出す。



オタク2:「次、お前、」


オタク2の拳銃が、芽衣を、おびやかす。



芽衣:「……、」


芽衣は、言われるが侭に、アンプルを抜き取って、

一気に、飲み下す。


やはり、変な顔をしている。 そうとう変な味らしい。



オタク2:「次、…」


オタク2の拳銃が、美穂を指図するが、


僕が、髪の毛をむしられたままの格好で、無理矢理、先に、アンプルを取る。



オタク2は、僕を制止するつもりが無いらしい。

アンプルを指定しない所を見ると、やはり、これは、毒物では無い様だ。



僕は、ゆっくりと、時間をかけて、アンプルの中身を、舌の上にこぼす。


それは、痺れる様に、甘く、とろみの有る、…何か。



オタク2:「お前もだ、」


拳銃に怯えながら、美穂が、恐る恐る、アンプルを手に取って、

一気に飲み下す。


そうして、オタク2は、がらんどうの後部キャビンの床に、僕を、…突き転ばせた。



芽衣:「ナニ、これ。 なんか、気持ち悪い。」


いや、コレは、

此の感じは、つい最近、経験したばかりの、…


酩酊状態?


あっと言う間に、手っ取り早く訪れる。…身体麻痺と、意識障害。

もしかして、麻薬? 覚醒剤??



福原:「心配要らないよ、一寸ちょっと気分が「良く」なるだけ、それで、そのまま眠くなっちゃうから、大人しく寝ててくれれば、起きた時には、目的地に着いているよ。」



福原:「さてと、皆、寝っころがっちゃう前に、身体検査させてもらうよ。」


オタク2が、瑞穂の全身を弄って、…



瑞穂:「ちょっと、変な所、触らないでよ。」


オタク2は、瑞穂の要求など丸っ切り無視して、がっつり弄り回り、ポシェットと、ポケットの中から、モロモロの小道具を引っ張り出す。



福原:「ナニ、これ、お前、キャンプでもするつもりだったの?」


出て来たのは、…レザーマンウェイブ、ジッポー、コンパス、それにロープ??


腕時計も外されて、当然、スマホも、没収。

財布から抜き取った身分証明書の内容を、チェックされる。



続いて、美穂、



美穂:「くすぐったいっす、」


どうやら、美穂は、脇が、弱点らしい、…

必要以上に、胸を揉みシダかれている様に見えるのは、オタク2の嗜好の問題なのか??


そして、手提げカバンから、例の、キャンバス・ノートを、…没収される。



福原:「へぇ、お前、面白いもの、持ってるじゃないか。」



それで、僕の番。


財布に、携帯、腕時計、鍵の束、全部取り上げられて、



福原:「なにこれ、御護りか?」


それは、立て4cm、横4cm位の、薄っぺらい正方形のビニールに包まれた、…



美穂:「今度、…産む?」

翔五:「ああっ、それ、…」


大学の頃から、ずっと財布の隠しポケットの中に潜ませていたのを…

すっかり、忘れていた訳で、…



美穂:「星田さん、何だかんだ言って、準備万端、やる気満々だったんすね。」

瑞穂:「変態の癖に、そう言う所だけ気を遣うのって、かえってキモいわね、」

芽衣:「て言うか、何で一個しか無いん? 一体誰に、使うつもりやったん?」


此の状況の中で、僕は、何故、此の3人に、責められているのだろうか??



翔五:「…これは男の身嗜みだしなみと言うか、いざと言う時の為の備えと言うか、」


瑞穂:「居るのよね、使うアテも勇気も無いくせに、一応「こういうモノ」を携帯している奴。」


美穂:「哀しいっすね、…」



福原:「皆、いい感じで緊張感が解れて来た感じだね、じゃあ、そろそろ、大人しく寝てて、くれるかな?」



そして、…







…気がつくと、暗い部屋? 硬くて、冷たい、…床、


頭が、割れる様に、…痛い。


自分でも不思議な位、酷い怠さを感じている、

意識を保つのすら…辛い。


やがて、得体の知れない不透明感とギリギリ崖がけっ縁ぷちな不快感の中で、…



誰かが、泣いている?

誰かが、僕の手を握っている?


微かに隙間から差し込んでくる光が、

暗闇に慣れた目に、濡れた彼女の頬を、照らし出す。


僕の隣に、座っているのは、…瑞穂?



翔五:「泣いてるの?」


瑞穂は驚いた様に、息を飲んで、…僕を見る。



瑞穂:「馬鹿、…泣く訳ないじゃない。」


なのに、しっとりと、汗ばんだ彼女の掌が、彼女の不安を僕に届ける。


僕は、何とか起き上がろうとするのだが、…チョット動こうとしただけで、激しい眩暈に襲われる。 どんなに平気を装おうとしても、フィジカルが付いて来ない。



翔五:「なにか酷い事、…されたのか?」

瑞穂:「…ううん、平気、」


瑞穂が、すっと、握っていた手を、…離す。


僕は、知っている。



瑞穂:「翔五、ごめん、…私の所為だよね、」


この女が、本当は、どうしようもない、情けない奴だって事を、…知っている。



翔五:「瑞穂が悪いんじゃないよ、」

翔五:「お前は、何も、…悪くない、」


僕は、「瑞穂」を信じている。 そうして、こうなった。

でも、信じた結果、何が起きたかなんて事は、実際の所、…どうでもいい事なのだ。



そう言えば、僕は、この女が泣くのを、初めて見たかも知れない。

暫く、寝転んだまま、そっぽを向いている瑞穂の顔を、眺める。



瑞穂:「何よ、これは、…花粉症よ。」


そう言いながら、彼女は鼻を啜る。



僕は、もう一度、起き上がろうとして、

両手に手錠がはまっていることに気付いて、…転ぶ。



翔五:「あたっ、…」

瑞穂:「馬鹿ね、…何やってんの?」


瑞穂が、…笑った。


そう言えば、僕は、この女がこんな風に笑うのを、初めて見たかも知れない。



翔五:「笑うなよ、」

瑞穂:「だって、アンタが、…転ぶから、」


翔五:「起こしてよ。」

瑞穂:「しょうが無いわね。」


僕は、瑞穂に支えられながら、上半身を起こして、

彼女に背中を預けた格好で、…座る。


触れ合った背中と背中から、瑞穂の体温が、伝わって来る。



翔五:「なあ、僕達は、…仲間なんだ。」

翔五:「だから、泣いたって、良いと思うよ。」


翔五:「お前の辛い事、…教えてよ。」

翔五:「それで、僕の事も、…聞いてよ。」


不意に、瑞穂が、全体重を掛けて、僕に、…寄りかかる。



瑞穂:「そうね、」

瑞穂:「わかった。」




翔五:「ところで、此処は、何処なんだ?」

瑞穂:「トラックの、…荷台みたいね、」


確かに、言われてみれば、

グレーの幌で覆われた、カーキ色の鉄板の、トラックの荷台…っぽい。


周りを見渡すと、

3人の少女?が、寝転がっていた。


芽衣と、美穂と、もう一人、…小さな女の子。


僕は、美穂の傍に、膝行いざり寄る。


顔を近づけて、



瑞穂:「寝てる間にキスしようなんて、アンタ、何処迄、変態なの?」

翔五:「馬鹿、違うって。。。」


頬に、美穂の吐息を感じる、

耳に、美穂の呼吸を聴く、


…良かった、眠っているだけらしい。



少し離れた所に、もう一人、小さな女の子が、転がっている。


私立学校の制服を着て、手錠も後ろ手に掛かったままで、



翔五:「コノ子は?」

瑞穂:「さあ、私達と同じ様に、何処かから誘拐されて来たミタイネ。」


幌の隙間から差し込んで来る、僅かな光が、

女の子の顔を、ぼんやりと、…照らし出す。


身長は150cm位、小柄で華奢な体つき、肩にかかるかかからないかの髪を両サイドでツインテール風に束ねている。 顔立ちはどちらかと言えば地味な方だが、すっきりと目鼻立ちが整っていて、どこか、赤ん坊ミタイな、幼さ、あどけなさの抜けない、可愛らしい、…女の子。



僕は、奇妙な錯覚に、…囚われる。



翔五:「まさか、」


僕は「何か」を確かめ様として、いや確かめなくてはならなくて、自分でも気付かない内に、その女の子の傍らに、しゃがみ込んでいた。


やはり、日本人だ。


僕は、手錠されたまま、女の子を座らせ様とするのだが、上手く行かない。 仕方なく、両腕の中に女の子の頭を通して、抱きかかえる様な格好で、その子を、僕の膝の上に、…座らせる。



女の子:「ぅ、ぅん…、」


明らかに、違う声、違う髪の色、


でも、この匂い、…赤ん坊の様な、子猫の様な、不意に抱きしめたくなる様な、なんだか、護ってあげたくなる様な、…居ても立っても居られない様な、甘い匂い。


そして、何度も、何度も、抱き枕ミタイに、僕の腕の中に潜り込んで眠った、

忘れ様の無い、この、…抱き心地、


つい、堪えきれなくなって、キツく抱きしめた僕の腕の中で、



女の子:「ぁ、…ダメぇ、」


その子が、小さく、声を上げた。



そして、虚ろな瞳で、じっと、僕の顔を、…見詰める。

一寸、困った風に、口を結んで、頬を、…染める。


両脚を、モジモジと…交差する?


それから、女の子は、グッタリと僕の胸にもたれ掛かって来て、


蚊の鳴く様な声で、…



少女:「…おしっこ、、」

翔五:「…え?」



少女は、全身を、フルフルと、…震わせて?


それでも、堪えきれず、…身体を縮こめて??



少女:「あ、ぁ…、…」


ジワジワと、僕の、太股を、

温かいモノが、…濡らして行く。



瑞穂:「あー、…」


どうやら、ずーーっと、我慢していたミタイで。

結構、沢山、…

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