エピソード28 「とうとう僕は美人のお姉さんと逢引する」

これは、僕 星田翔五と、濡烏ぬれからすの美女 鴫野瑞穂との「出会い」の物語である。


いや実際には、僕達はもうっくの昔に出会っていた訳で、正しくは、…「巡り会い」の物語と言った方が良いのかも知れない。


かく、僕は、訳も解らないまま、瑞穂に手を引かれて、…此処までやって来た。


そして今、選択を迫られている、…

彼女を受け入れるのか、受け入れないのか。



そして結果的に、僕は、多分、瑞穂を受け入れる事を覚悟したのだと思う。


理由は、正直な所 解らない。

ゲーム理論的にどういう「均衡」だったのかとか、単なる直感だったのかとか、

選んでしまった今となっては、もはやどうでも良い事なのかも知れなかった。





瑞穂:「それじゃあ、…始めようか。」


赤と金の織り混ざったあでやかなベッド・スプレッドの上で、

今や、全ての衣類を脱ぎ取った、完全なる瑞穂の肢体が、…

僕の視線を釘付けにしていた。



それは、かつて様々なメディアによって見知っていた筈の、どんな情報よりも、…儚げで、華奢で、膨よかで、艶かしく、神秘的で。


それは、これまでの僕の全てのメモリーを塗り替えてしまう程に、…妖しく、魅惑的で、淫美で、癒しに溢れていた。



彼女の冷たい指先が、僕の、…素肌に触れて、

彼女の身体から匂い立つ、不思議な色香が、…僕のシナプスを掻き乱す、





…どうして、こんな事に、…なったんだっけ。


僕は、ゆっくりと覆い被さって来る瑞穂の、…

妖しい微笑みを胸の底に吸い込みながら、…甘い記憶を手繰り寄せる。




そう、それは、あの日の、…

がれのヴェネチアのサン・マルコ広場での出来事へとさかのぼる。







あの日、

僕達が最初に向かったのは、サン・マルコ広場のランドマーク「鐘楼しょうろう」だった。


ドゥカーレ宮殿の真正面、海に向かってそびえ立つ高さ96.8mの赤煉瓦あかれんがの塔は、意外にもその天辺てっぺん迄、近代的エレバータでひとっ飛びだった。


8月の展望室は観光客で溢れかえっていたが、…

ひるむ僕をよそ目に、瑞穂はまるで子供の様に強引に僕の手を引っ張って、その360度の展望の前へと引き摺り出す。



瑞穂:「翔五!ほら、海が見えるよ。」

翔五:「ああ…、」


今まさに夕日が沈んで行くヴェネチアの赤い屋根は、…まるでおとぎ話の国のジオラマの様で。 何故だかハイテンションにはしゃぐ瑞穂は、…まるでおとぎ話の王女様ミタイで。



だから、僕は不思議な困惑の中に包まれていた。




二人の出会いは、僕を殺す「聖霊」から僕を護るという「契約」で始まった。 瑞穂は何でも事情を知っていて、どんな時も冷静沈着、冷酷非情に物事を進めて来た。 


僕にとって彼女は、ただ類希たぐいまれなる美貌の年上女性と言うよりは、もっとビジネスライクな、近寄り難い存在の様に思えていた。



瑞穂:「ねぇ、記念写真、撮ろうか。」

翔五:「ああ、」



だから、僕は不思議な安らぎの中に包まれていた。


僕の目の前で、まるでごく普通の少女ミタイに楽しそうにはしゃぐ瑞穂の姿は、

コレ迄の深刻な「粗筋あらすじ」が、全く異なる物語の間違いだったかの様に思わせて…



僕は、半ば呆れた様に、…そんな楽しげな彼女に見蕩れて、

彼女は、そんな僕に気がついて、…嬉しそうに微笑んで、







それから僕達は、すっかり陽の落ちた運河を、ゴンドラに揺られて散歩する。


所々、島と島とをむずぶ小さな橋の上から、陽気な子供達が笑いながら手を振ってくれる。…瑞穂もつられて、小さく手を振って返す。


そんな仕草が、シンプルに可愛らしいと思う。



普通だったら出会う筈の無かった二人。

到底僕なんかとは住む世界の違う美女ヒト


そんな彼女が、僕の傍らに寄り添って、今は僕だけに、そんな可愛らしい仕草を魅せてくれる。


それは、「契約」の一部なのだろうか。

それは、「サービス」の一環なのだろうか。



僕には、瑞穂の真意が解らない。

もはや引き戻す事が出来ない程、深く彼女の魅力に囚われながら、…警戒心は更に高まって行く。


何の目的が有るのだろう? それは演技なのか? それは策略なのか?

一体、何時、僕は真実どんでんがえしを突きつけられるのだろうか?


でも、

膝が重なり合う程近くに居る瑞穂の「不思議な香り」が、…

少しずつ、僕の思考を停止させていく。



瑞穂:「ねえ、私達、もしかして恋人同士とか思われてたりしてね、」

翔五:「はは、まさか…」


カンツォーネの甘い歌声が、灯りの灯った窓の下を、ゆったりと流れて行く。

櫂を漕ぐ水の音が、優しくゴンドリエーレのイタリアン・バスに応える。



瑞穂:「知ってる?翔五、この運河には子犬くらいのサイズのドブネズミが居るんだってさ。」


翔五:「えっ、本当に?」


夜の闇と、運河の水とが一体になって、さながらゴンドラはそらを旅する宇宙船の様に、二人だけの濃密な時間が、…静かに積み重なって行く。


僕は、この女の事を何だと思っているのだろう…

僕は、この女に、一体何を求めているのだろう…




大小のカナルを散歩して、

やがてゴンドラは、…再び溜息橋の傍の停船場へと帰還する。







瑞穂:「さてと、お腹が空いたな、めしに行こう!」

翔五:「ええっ、みんな放っといていいのか?」


瑞穂:「もう少し付き合ってよ、それとも翔五は私と付き合うのは嫌?」 


瑞穂は悪戯そうに僕の顔を覗き込む。

僕が何て答えるかなんて、…疾っくにお見通しの癖に、



翔五:「わかった、付き合うよ。」

瑞穂:「そう来なくっちゃ、何食べる?」


僕も、何だか何時もと違う雰囲気の瑞穂を、…最後迄 見届けたい。

彼女には、彼女なりの、理屈が有る、そんな気がするのだ。



翔五:「昼に食べ損ねたオマール海老。」

瑞穂:「よしきた。」



何時の間にか、瑞穂は僕の腕を組んで、走り出す。







瑞穂:「いい?翔五、ティスティングっていうのは、こうやるのよ。覚えときなさい。」


瑞穂、最初にコルクの薫りを確かめて、


それから、ソムリエのセットしたワイングラスの底の部分を軽く抑えて、

人差し指と中指でグラスの足を挟み、クルクルとグラスを回す。


ワイングラスの中で赤いワインが躍る様に揺れて、


それからおもむろにワイングラスを少し傾けて、

そのグラスの内側をツーっと垂れるワインの色と粘度を確かめる。


その後、ワイングラスの足を摘んでグラスの中に溜まった香りを愉しみ、


それからようやく、ほんの少しだけ口にすする。


お行儀悪くならない程度にクチュクチュと口の中でワインを転がして、

空気と混ぜながら、ワインの渋みと酸味を確かめる。


まあ、でも余程の事が無い限りは…


瑞穂:「Perfect!(完璧よ!)」

ソムリエ:「Grazie mille Signorina,(どうも有り難うございます、お嬢様)」


ソムリエはにやりと笑いながら、慎重にグラスにワインを注いで行く。


イタリア人は、何処でも誰でも気さくで陽気に見えてしまうから不思議だ。



翔五:「何て言ってたの?」

瑞穂:「さあ、…私もイタリア語はよく分かんない。」


瑞穂が楽しそうに笑う。



瑞穂:「ほら、本場のキャンティよ、飲も!」



僕達はワイングラスを軽く重ねて!


くいっと一息に半分を飲み下す。



瑞穂:「くーっ、美味い。 やっぱりイタリア・ワインって最高よね。」

翔五:「僕は余りワインに良い思い出ないんだよな〜」


翔五:「て言うか、ワインって言ったら、まずはフランスじゃないの?」

瑞穂:「あら、アンタ私に喧嘩売る気?」


それから延々と、瑞穂の酒に関する蘊蓄うんちく話が続く…







22時過ぎだと言うのに、サン・マルコ運河沿いの通りには、

まだまだ大勢の観光客が溢れていた。



瑞穂:「美味しかったね。」

翔五:「ああ、久しぶりに美味い魚介類食べた気がする。」


特に、プリプリのオマール海老は…絶品だった。



翔五:「でも、朋花さん達心配してないかな。」

瑞穂:「ほんと、翔五は心配性だなぁ。大丈夫だよ、さっきメール送っといたから。」


翔五:「えっ、メール使えるの?」

瑞穂:「使えるよ。知らなかったの? ローミング設定して、海外旅行用のブースタを買うんだよ。 設定してあげよっか?」


翔五:「お願いします。」


瑞穂が僕のスマホを受け取って、何やらちょこちょこと操作する。


僕は、少し酔いを冷ます様に、

夜の海の上にライトアップされたサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会を眺める。



翔五:「それで、なんか言ってた?」

瑞穂:「別にぃ、今日は帰れないかも知れないから、みんなでご飯食べに行ってって、伝えただけ。」


翔五:「ふーん、」


瑞穂:「はい、設定終了。」


瑞穂が行成り、スマホを僕に投げて返す。



翔五:「えっ、」


僕は危うく10万円のSIM FREEスマホを石畳に落としそうになって、



翔五:「えっ?」


大事な事なので、2回聞き返す。




瑞穂:「翔五、…私やっぱり判んないや。」


瑞穂は、欄干にもたれながら、…海に向かって告白する。



瑞穂:「私、何でこんな事やってんだろうって、時々不安になるんだ。」

瑞穂:「切っ掛けはさ、きっとアリアだったんだよ。 あの子が私に声を掛けてくれて、私を必要だって言ってくれて。」


僕は、じっと瑞穂の横顔を見据えて、…



瑞穂:「ねえ、笑わないで、…聞いてくれる?」

翔五:「ああ、」



瑞穂:「私、昔っから友達がいなかった。」

瑞穂:「恋なんてした事も無い。」

瑞穂:「なんか、そういうモンって、私が求めてるモノと違う気がしてた。」


翔五:「求めてるモノ?」


瑞穂:「私には、やらなきゃならない事が有る。」

瑞穂:「中二病っぽいけど、私にはきっと「前世」からの宿題が有る。そう信じてた。」




瑞穂:「だから、アリアからメールを貰った時に、初めて私の「世界」が動き出したんだ。」


翔五:「メールなんだ、」



瑞穂:「そう、メール。 現代っぽいよね。」

瑞穂:「それからアンタの事を知った。」


翔五:「僕の事?」

瑞穂:「天使達と喧嘩してる奴が居る。人類の未来を護ろうとしてる奴が居る。」


瑞穂:「馬鹿みたいだけど、直ぐに、それは本当の事なんだって信じられたんだ。」

瑞穂:「直ぐに、私には解った。アンタが、私の探してたモノだったんだって。」


翔五:「僕が、」


瑞穂:「ゴメン、正確にはアンタじゃないね。「前世」のアンタ、」

翔五:「「前世」の僕、」


瑞穂:「そう、きっと「前世」のアンタと私は、一緒に戦ってたんだって、…解った。」


翔五:「一緒に戦ってた? 僕が、戦ってた?」




瑞穂:「私は、私の「記憶」の欠片かけらがキュンキュンする物の正体を知りたかったんだ。」


瑞穂:「本当に「前世」なんてものが有って、本当に「宿命」なんてものが有るのか。」


瑞穂が、僕の方に向き直って、長い髪を撫で上げる。

その瞳は、既に、憂いに満ちていて、…既に、深く沈んでいた。



瑞穂:「翔五、私、今日、アンタと一緒にして、…とても楽しかったよ。」

瑞穂:「私、友情とか愛とか解んないから、取り敢えず形からやってみた。」



翔五:「あっ、…」


瑞穂:「でも違った。 私には、友情とか、愛とか、…やっぱり判んない。」

瑞穂:「私は、アンタの事を友達とか、恋人として求めてるんじゃないんだ。 凄く楽しかったけど、やっぱり違う。 私が欲しいのは、友達じゃない。」



翔五:「そっか、僕には、よく分かんないけど。」

翔五:「僕じゃ、…今の僕じゃ、やっぱり役不足なんだよな。」


僕は、トリアーナの入ったアタッシュケースの肩掛けを指で弄りながら、恐る恐る…



瑞穂:「そう言う意味じゃない。」

瑞穂:「翔五は、「前世」も、今も変わらない。…翔五よ。」


瑞穂は、真っ正面に、僕に向かって、…



瑞穂:「多分、こんな事をアンタに言えるのは私しか居ない。」



瑞穂:「お願い、…私と一緒に戦って!」



彼女の告白を、…受け止める。



翔五:「僕が、…」

翔五:「戦う?…」



僕は、知っている。

僕は、今迄、殺されるのが怖くて、…護ってもらう為に、…仕方なく、…この状況を受け入れて来ただけなのだ。


僕なんかに、こんな何の取り柄も無い僕なんかに、能動的に、世界に関わる事なんか…出来る訳が無いって事ぐらい、…



瑞穂:「心配しなくて良い、私がアンタの傍に居る。」

瑞穂:「私は、アンタが傍に居てくれれば、戦える。」



僕は、知っている。

僕は、何かを信頼する事が苦手だと言う事を知っている、

どうして、こんな情けない僕が、…瑞穂の事を信頼する事が出来るって言うんだ。



翔五:「どうして、…僕なんだ。」

瑞穂:「知らないわよ、」



瑞穂:「もう一回聞くわ、翔五に取って私は、何なの?」

瑞穂:「未だに、私は面倒な「契約」を押し付けて来た厄介者に過ぎないの?」

瑞穂:「アンタの目の前から私が消えれば、アンタはそれですっきりするの?」



僕は、知っている。

あの晩、瑞穂が突然姿を消した晩、置いてけぼりにされたミタイに怯えた理由を。

僕は、瑞穂に裏切られたく無いのだ。それはつまり、僕は瑞穂を、理屈ではドウコウ出来ない位、…瑞穂を信じ始めている。 信じたいと、…望んでいる。



瑞穂:「10秒で決めて。」

瑞穂:「二度と、姿を現すなと言うのなら、…そうする。」


翔五:「………」


瑞穂:「他のみんなは何も言わずアンタの事を護ってくれるでしょう、一緒に戦ってくれなんてキット言わない。」


翔五:「………」


僕にとって、この女は、一体何者なんだろう。



翔五:「………」


瑞穂:「…………ゼロ、…」



瑞穂は、…

最初から解っていたよ…と言う風に俯いて、…微笑んだ。




瑞穂:「そっか、」


彼女は、静かに、…目を閉じる。


瑞穂:「ねえ、最後おわかれに、キスしても良いかな。」




翔五:「馬鹿、…」


僕は、怯えた目で、その女を見る。




翔五:「…言ってんじゃねえ!! 駄目に決まってるだろ!!!」


女が、怯えた目で、僕を確かめる。




翔五:「そんな事、…10秒でなんて決められるか!」

翔五:「勝手に、見限ってんじゃねえ!」


瑞穂:「あっ、…」


僕は、何故だろう、…怒鳴っていた。



翔五:「結局、お前も僕と同じじゃないか! 誰も信じられないから、最初から見限ってるだけだ。 10秒ルールでさっさと決着けりをつけて、…自分が傷つかないで済む「心の壁」の境界線を決めようとしてるだけだ!」


瑞穂:「……、」


僕は、何故だろう、…怒鳴っていた。



翔五:「お前はずるい! なんか解んないけど、いっつもずるい!」

翔五:「でも、」


翔五:「お前と別れんのは嫌だ!」

翔五:「何でかなんて解んない! ただ、嫌なんだ。」

翔五:「でも、」


翔五:「戦えるか、戦うとか、そんな事、…解んないよ。」


瑞穂:「……、」



翔五:「だから、解る迄の間、…お前と一緒に戦ってやる。」

翔五:「僕にも、もっと悩ませろ! 決めるのは、それからだ。」



瑞穂:「何で?」

翔五:「知るか!」


瑞穂が、冷たい視線で、…



翔五:「兎に角、勝手にどっかに行っちゃうのは僕が赦さない。」


瑞穂、目を伏せて、肩を落とす。



瑞穂:「どうして?」

翔五:「知るか!」


瑞穂、僕の服の裾を摘む。



瑞穂:「なあ、抱きしめても良いか?」

翔五:「なんでだよ?」


瑞穂は、ぶっきら棒な僕の背中に両腕を回して…



瑞穂:「なんか判んないけど、多分嬉しいんだと思う。」


むせる様な、女の匂いにアテラレて、僕には正常な判断が、出来なくなる。



翔五:「も、もう、…帰ろう。」


瑞穂は、尚も僕を離さない。




今日、僕には、解った事が有る。

こいつは、この瑞穂という女は…しょうが無い奴なんだ、…


僕と大して変わらない。







瑞穂:「あのさ、もう一つだけ、試してみても良いかな?」


翔五:「まだ、何かあんのか?」


瑞穂:「実はさ、ホテルに部屋とってあるんだ。」

翔五:「……」


瑞穂:「アンタと私が、…エッチする部屋。」

翔五:「ええええ?」


瑞穂:「ほら、成り行き上、そういう展開もアルカナって、「PPA」的な?」

翔五:「だって、お前、僕とそういう関係じゃないって言ってたじゃん。」


瑞穂:「それはそうだけど、一回やってみ無い?」


翔五:「違うだろう、そういう感情も無しにやるって、」

瑞穂:「恋人じゃなきゃ やっちゃ駄目だって言うの?」


翔五:「僕にはアリアが居るし、…不味いよ。」

瑞穂:「良いじゃん、黙ってれば、此処は秘密の島なんだぜぇ!」

瑞穂:「それに…別に私はアンタ達の仲を邪魔しようなんて思ってないからさ。」


僕は、真っ赤になって瑞穂の顔を睨みつける。



瑞穂:「その、つまり、興味が有るっていうか、一回くらいやってみといた方が良いかなって言うか、どう言うモノなのか、試してみたいの。」


翔五:「そう言う事は、好きな奴が出来てから頼めば良いじゃん。」

瑞穂:「そう言う割には、身体は反応してんじゃない。」


瑞穂が、断りも無く、…僕の股間に、…タッチする。



翔五:「仕方ないだろ、お前みたいな美人に、…抱っこされたら、色々柔らかいモノが接触してだな、…つまりこれは生化学的に反応すんだよ。」


僕は、ムリヤリ瑞穂から離れて、歩き出す。



瑞穂:「ねえ、お願い、一回だけ、こんな事アンタにしか頼めないんだからさ、」

翔五:「真っ当に恋をしなさい。」


瑞穂:「良いのか、じゃあ、アンタに恋をして、アリアとの関係をぐちゃぐちゃにするぞ〜。」


翔五:「お前、だだっこか?」

瑞穂:「良いじゃん、一回だけ、」


翔五:「うう…」

瑞穂:「それとも、ナニ、やっぱりアンタ「ちびっ子のペッタンコ」じゃないと…機能しないとか?」


翔五:「違います。 違うけど! 」

翔五:「それに一回だけじゃ解んないって、そんなの。」


瑞穂:「なにさ、経験者ぶっちゃって、…そう言うのが嫌なのよね。」

瑞穂:「翔五の癖に、生意気!」


瑞穂:「とにかく、減るもんじゃないんだから、良いでしょ!」

翔五:「なんか、モノ扱いミタイでヤダ。 不純だよ。」


瑞穂、急に立ち止まる!



瑞穂:「良いわよ、じゃあ、其処ら辺の誰か掴まえて手っ取り早く体験するから…」


翔五:「お前、賢いのか、馬鹿なのか? どっちだ??」

瑞穂:「ロリコン専用は先帰ってて…」


瑞穂、フラフラとドッカへ向かって歩き出す。



翔五:「解った、解ったから、…もう止めて、」


瑞穂、上から目線でジト目。



翔五:「しょうが無い、手伝うよ…何か、知らないけど。その科学実験、」







…と言う訳で、冒頭に戻る。


此処は海沿いのホテルの部屋、…

僕達はダブルベッドの両端に腰掛けて、

これ以上無いくらいに、お互いを意識し合っている。


妙に、緊張して…喉が、乾く。



瑞穂:「お酒とか飲む? ミニバー(冷蔵庫)に色々入ってるよ。」

翔五:「要らないって、」


僕は酒に弱いんだ、



瑞穂:「なんか緊張するね。いざとなると。」

翔五:「やけに嬉しそうだな。」


瑞穂:「じゃ、まあやってみよう!」


おもむろに服を脱ぎ始める瑞穂、



翔五:「あの、電気とか、…消さないの。」

瑞穂:「消したら、よく見えないじゃん。」


改めて、瑞穂の裸体をまじまじと凝視してしまう。



インターネットとか、色々のメディアで、女性の裸を見た事が無いって言うと嘘になるけれど、…やっぱり、こんなに綺麗な裸を見るのは初めてだ。


アリアは神秘的に美しかったけれど、…瑞穂は、何と言うか、生身の人間として、完成されたスタイルと言うのだろうか。


ついつい、時間の過ぎるのも忘れて、魅入ってしまう。



瑞穂:「翔五も早く脱ぎなよ、ほれー減るもんじゃなしー」


かされて、僕は、渋々上着を脱いで…

つまり、僕は、そんなに自分の身体に自信が有る訳じゃない!

背低いし、…筋肉ないし、…腹は……だし、



翔五:「あのさ、シャワーとか、浴びないの?」

瑞穂:「何で? 普通浴びるもの?」


翔五:「ほら、今日暑かったし、汗とかかいてるし、」

瑞穂:「色々匂いが有った方が良いんじゃないの?」


翔五:「それって、どこ情報?」


ほぼ、心の折れた僕のズボンを…瑞穂がテキパキとひっぺがして行く。




アリア:「嘘!」

翔五:「へっ?」


見ると、運河に向いた部屋の窓枠に、…アリアが腰掛けて、いる?



瑞穂:「あら、アリア、なんでアンタこんなとこに居るのかしら??」


多少、瑞穂サンも 動揺が隠せない様子で…



アリア:「私は翔五の居る所、何処にでも現れるのよ…じゃなくって、今やろうとしてた事だけど!」


翔五:「違うんだ! アリア、聞いてくれ、これはあくまでも科学的な実験であって、決して浮気とかそう言うんじゃ…」


アリア:「匂いの事よ!」



アリアがスタッと、窓枠から飛び降りて、…

もそもそとベッドの上に這い上って来る。



アリア:「ねえ、翔五って、…くさい方が好きなの?」


なんだか、アリアが半泣きになってる?



翔五:「いや、臭いのが好きとかじゃなくって、そりゃ少しは匂いが有った方がムラムラするのは確かだけど…」


アリア:「アリアの匂いじゃ足りないって事?」


確かに、アリアには、何故だか動物的な匂いが…殆どしない。。って言うか!

何時の間にか、アリアの瞳から…大粒の涙が零れて、、



翔五:「そんな事は無い! アリアの匂いが一番好き!! 本当。」

翔五:「アリアは、臭くて、…可愛いよ。」



アリア:「なんか、微妙な感じがするけど…嬉しい。」


アリアが、僕の胸の中に、…飛び込んで来る。

泣いた子がもう満面の笑みに…



アリア:「アリアの足、臭い?」


アリア、ストッキングの爪先を、僕の鼻に…押し付けて



翔五:「ウン、臭いよ…」


アリア、何だか、喜んでる?

僕、何だか、泣いてる??







瑞穂:「はぁ、私帰る。…なんか冷めた。」


瑞穂:「好きなだけ二人で楽しんでて良いよ。 ここなら芽衣達にも見つからないだろうし。」


瑞穂、すごすごと身支度を整える、



アリア:「どして? 瑞穂セックスするんじゃなかったの?…一緒にしようよ。」


翔五 / 瑞穂:「えっ?!」


いや、アリアさん、それって行成いきなり…高度過ぎませんか?



アリア:「それとも順番コでする?」


それって…代わりばんこに、やってる所を観察されるって事?



瑞穂:「うーん、それなら良いかな。 …実際アリア達がどんな風にやってるのかも観察出来る訳だし。 じゃあ、私2回目ね」


アリア:「じゃあ、アリア一番! それと3回目もアリア。」


いや、そんなに体力持たないし…



瑞穂:「翔五、アンタ何回出来んのよ? 機能耐久的に、」


アリア:「この前は一晩で3回やったよ。」

瑞穂:「いや、翔五がさ、一回だけじゃ解んないって言うんだけど、そう言うモノなの?」


アリア:「うーん、そうかも、だんだん回数を重ねる毎に馴染んでくるっていうか。」


翔五:「……、」



瑞穂:「そういえば、男の人って、お尻の穴から何かを突っ込んで前立腺を刺激すれば、本人の意思とは関係無しに何回でも発射出来るって、何かの本で読んだ事があったな、」


アリア:「…でも続けて何回もやるとヒリヒリするよ。」



瑞穂:「あれ?」







僕は、夜のヴェネチアを一人、…疾走する、

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