その11 がっこうたんさく
なんとなく気まずい雰囲気のまま、その場は解散。
私はなるべく綺麗に使ってそうなイメージ(偏見)のクラスメイトの机を選んで、教室の隅っこに並べました。
事前に手渡されていた防災カバンから、ブルーシートを引っ張り出します。
それを机の上に敷いて……、と。
あっという間に、簡易ベッドの完成。
別に床で寝ても構いませんが、そこはまあ、気分だけでも。
それにしても、最近の防災グッズって、旅行用の枕(空気入れてふくらますやつです)とかアイマスク、それに耳栓まであるんですねえ。
ちなみに、毛布は真空パックで保存されたやつです。意外とふかふか。
こうなると、部屋に置いてきたオフトゥンが恋しいところですが、そこは我慢しておきましょう。
外を見ると、すでに日が傾きかけています。
学校から見える”ゾンビ”の数は。……うーん、なんだか、だんだん増えているような気がするのですが。
気のせいだったらいいな(現実逃避)!
寝床を確保したことですし、なるべく明るいうちに校舎内を探索しておきましょう。
私はいったんリュックを空にしたあと、念のため刀を抱えて教室を出ます。
二階に戻ると、大人の人たちが何やら忙しそうにしていました。
どうやら、机を集めてバリケードを作ろう、という話になったようです。
すでに多くの人が、”ゾンビ”の運動能力の低さには気づいていたようでした。
実際、連中は階段を昇るのすら難儀する有様、とのことで。
机を積むだけでも、奴らの侵入を防ぐことは難しくなさそうでした。
避難経路としては、バリケード付近に人間の昇り降り用のロープや梯子が置かれることになりました。
問題があるとすれば、このコミュニティには六人ほどお年寄りがいることにあります。
うち二人は、車いすと他の人の力を借りて、やっとの思いでここまでたどり着いてきたような方々です。
そうなると、もし”ゾンビ”の侵入を許した場合、もはや彼らにとっての退路は絶たれることになる訳ですが……。
ただ、それよりもみんなは、なんの不安もなく横になっていられる場所を求めているようでした。
今のところ、この敷地内の安全を確信しているのは、私だけのようです。
――実績”はじめての安全地帯”を獲得しました!
と。
幻聴さんは、確かにそう言っていました。
この言葉をどこまで信用していいかはわかりませんが、とりあえず、当面はこの場所に危険が及ぶ心配はない、と考えてもよさそうです。
私は、バリケードを完成させる前に、食堂にある食糧や、保健室にある薬品を集めておいたほうが良いと提案してみましたが、佐々木先生の方が少し煮え切らない様子でした。
彼の話を要約すると、
「非常時の防災備品は豊富にあるため、その中のものは自由に使って構わない。が、それ以外のものを勝手に持ちだしていいかはわからない」
とのこと。
なるほど、この学校には、飲料水、それにビスケットやカップ麺などを含めた十分な量の保存食、防災備品類が揃っているようです。
これはちょっとした量で、ここにいる四十名程度であれば、一ヶ月は余裕で過ごせるそうでした。
……ただまあ、この一件が一ヶ月かそこらで収まるとは思えないのは、私を含め、他の皆さんも共通の認識だったらしく。
私が意見を口をするまでもなく、リカちゃんのパパや朝香先生の説得により、食堂や保健室にある備品は使わせてもらえることになりました。
――今朝方からすでに、電気が使えなくなっている。
――保存されている食糧のうちいくつかは、どうせ腐ってしまうだろう。
――それならいっそ、使ってしまった方がいい。
……とのことで。
急遽、カレーパーティが開かれることになりました。
我が高校の食堂は別館にあるものの、二階から渡り廊下を進めば中に入ることが可能です。
料理は、十数人からなる奥様方がこぞって腕を振るったようでした。
校舎の中にある物資をくまなく物色して回っていると、当たりにカレーの匂いが漂ってきます。
その頃には、私のリュックの中身はぱんぱんになっていました。
戦利品は、大量のお菓子類。
さすがにすべての部屋を回ることはできませんでしたが、適当に目についた場所を一つ一つ探るだけでも、見つかる見つかる。
品行方正(笑)を自称する私としては、これまでそういう真似をしてきませんでした(わざわざ学校で食べなくても、家に帰ればいくらでも備蓄があるので)が、案外みんな、こっそり菓子類を隠しもってるもので。
特に、文化系の部室は宝の山でした。
あんまりにもたくさんお菓子が見つかったものだから、三度も往復する羽目になったほどです。
「……こりゃ、事件に収拾ついたら、改めて持ち物検査する必要あるなぁ……」
というのは、机に広げられた菓子の山を眼にした、朝香先生のお言葉。
みんなごめんね。
そんなわけで、お菓子はありがたくいただくことにします。
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