その392 眠れる竜
「うう…………っ」
綴里さんから《治癒魔法》を受けつつ、引きずられるようにして先へ進んでいきます。
脳みそをシェイクされた私は、それでもおおよその事情を察していて、
「み、美言ちゃんは……?」
「残しました」
「そんな……っ」
「やむを得ません。彼女がどれほど保つかわかりませんが、――」
言いながら、綴里さんは言葉を濁しました。
彼の言いたいことはわかります。
藍月美言ちゃん、下手すると”プレイヤー”である綴里さんより頼りになりますから。
「……とにかく我々は、先を急がなくては」
ちなみに舞以さん、私たちの状況とは無関係に演技を続けていて、
「ふーっ、危なかったね、みんな! ……ところでここはいったい、どこなのかしら?」
と、今度は洞窟のようになっている広場を指し示しました。
その先では、『ぐーっ、ぐーっ』という音が聞こえています。
「おやおや? 何か、大きな動物の寝息のような……わあああっ! みんな、見て! ドラゴンが寝ているよ! ……しーっ、あまり大きな音を立てないように……」
よく見るとそこには、瞼を閉じた作り物の竜が。
光沢のある緑色の鱗を持つそれは、実際に見かけた本物の竜よりも一回り小さめに見えます。
ぶっちゃけ、それが本物だったとしても叩き切れる自信があった私は、忠告を無視して話を続けました。
「ねえ、綴里さん。《激励》を返しますので、今からでも戻りますか?」
「いいえ。まだ”不死隊”が残っています。私はそいつらの対処をしなくては」
その、次の瞬間。
ほとんど予定調和的に人形の目がかっと見開かれ、『ずごおおおおおおおんぎゃおおおおおん』と、暗闇の中で光ります。それは見世物としてはちょっとした迫力で、遊びでここに来たのなら悲鳴の一つも上げていたかもしれません。
ですが私の目線は、それとは別のものを捉えていました。
「ナナミさん、離れてッ」
注意を促し、ばらりと抜刀。鞘を捨てます。
ドラゴンの演出と同時に、そのそばから人影が飛び出したところが見えたためでした。
「いざ、いざいざいざ! 覚悟ぉ!」
現れた彼女は、――初顔合わせの人です。
レベル40の”守護騎士”。
スキルは隠蔽されていて、武器はバトン型のスタン・ガン二刀流のようでした。
少なくとも、これまで倒してきた”プレイヤー”に比べて、そこそこ腕が立つように見えます。
「――ちっ」
私は、素早く中段になって、相手をけん制。
しかし彼女は刃を恐れた素振りもなく、攻撃範囲の中へと飛び込んできました。
「――ッ」
即座に、素早く刀を立てて彼女の胴を斬りにかかります。通常であればそれだけで出血は必至。しかし私は、彼女の《防御力》を読み間違えていたみたい。腰と気迫の入っていない私の一撃は、その服を傷つけることすらできません。
「甘い!」
と、私の頭部を、スタン・バトンが襲って、――
――喰らうとまずい。脳みそがフットーする!
本能的にそう察した私は、その場で正座するようにして身を沈め、攻撃を回避。
バチッ、と一瞬、辺りが昼間に見えるほどの強烈な光が弾けます。
私は素早く、少女の水月(鳩尾)に柄頭を当てました。
不完全な体勢で行った柄当でしたが、これは当たり所がよかった。人体の急所に突き刺さったため、一時的に彼女の肺呼吸を止めます。
「……ご……ッ」
これにはさすがの彼女も堪えたらしく、数歩ほどよろけました。
そんな彼女の肩を、ターン、ターン、と弾丸が撃ち抜きます。
綴里さんの、拳銃による援護でした。
私はそれに、ぴしゃりと一言、
「手を出さないで!」
というのも、”守護騎士”は飛び道具を無効化するスキルがあることを知っていたためです。
私の予想は正しかったらしく、相対する彼女は傷一つ負っている様子がありません。
体勢を立て直した私は、さっと上段に構えます。
そして、――そのまま紫電一閃、彼女の額に刀を振り下ろしました。
「…………!」
しかし、それは、両手に構えたスタン・バトンにてギリギリで受け止められます。
そのまま、私たちは数度、お互いの得物を合わせました。
がん、がん、がん、と、鋼鉄が合わさる暴力的な音が地下に響き渡ります。
一刀一刀が必死の間合いにて、
「……くっ」
瞬間、彼女と視線が交差しました。
歳は私と同じくらいでしょうか。
どのような経緯でこの場にいるかはわかりませんが……ただ、「負けられない」という強い想いだけは伝わってきます。
しかし残念ながら、状況はすでに私の有利に傾きつつありました。
《メンテナンス》系を持たない彼女の得物はもはや、ひん曲がって使い物にならなくなってしまったためです。
「うう…………っ」
一瞬、彼女の目が涙で潤みました。
自分の負けを悟ったためでしょう。
七度目の打ち合いの後、私はほぼ戦意喪失しつつあった彼女の武器を、単純な筋肉の力で払い落とします。
「お前は……、ふさわしくないっ!」
それが、彼女の最後の言葉になりました。
私は、《必殺剣Ⅵ》で彼女の額を打った後、さっと納刀します。
そして、そのまま仲間に背を向けて、
「隠れてる人、――」
と、大きく息を吸い、
「側頭部に、当て身を!」
と、里留さんとの戦いで新たに産み出したスキル、《音撃拳》を使用。
すると、ドラゴンの人形がある辺りから、ずどん、ごと、という物音が。
そして、気を失った少女が現れました。
「やっぱり」
”守護騎士”さんのスキルが隠蔽されていたから、どこかに”盗賊”が潜んでいると思っていたのです。
しかも《スキル鑑定》してみたらこの人、レベル51とか。
まともにやり合ったら面倒なことになってましたね。ラッキー。
しかも、新たに作ったスキルの有用性も確認できました。
この技、――隠れている相手にもちゃんと作用する、と。
これまでずっと愛用していた、《雄叫び》を材料に使った甲斐があったかな。
「”名無し”さん……」
振り向くと、綴里さんが複雑な表情で私を見ています。
今の戦いで、役に立てなかった自分を悔いているようでした。
とはいえ、彼の能力は自分自身を強化する類のものではありません。それもやむなし、というか。
私は小さく嘆息して、
「お気になさらず。――さあ、次の部屋へ」
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※以下は報告になります。
いつも読んで頂いて、本当にありがとうございます!
感想を頂いている方はもちろん、拙作を選んでいただいている皆様のクリック一つ一つに元気を頂いております。
さて、そんな『JK無双』ですが、年末年始に根性入れて頑張ったお陰で、……なんと一ヶ月ほど予定が縮まって、4月、石川カノト氏の漫画版の単行本一巻と同時期の発売となりました。
YATTANE!
……と、言うわけで、申し訳ありません!
発売に向けた作業のため、3月10日まで休載予定です。
ちょいとばかりお時間をいただけるとこれ幸い。
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