その235 大量生産

 とりま、状況を整理しましょう。


 まず、私と綴里さんがいるのは、もんじゃストリートのちょうど真ん中らへん。

 ”異界の扉”があるそのあたりは、今も”ゾンビ”がわらわら湧いて出ていて、足の踏み場もないくらい。

 異世界出身だという彼らは、見たとこ多くが黄色人種で、服装も私たちが着ているものと違いはないっぽいです。


 ”異界の扉”から視線を背け、南西の方角を見ると、”守護”の四人が怒濤の勢いで進軍を続けているのが見えました。

 んで、そこから反対向きに目を向けると、夜久さんと凛音さんがその他の”守護”と協力し、通りから少しでも”ゾンビ”の数を減らすように動いてくれています。


「さて」


 この状況で、――私は、……。


「どうしましょーね。脳死で《火系魔法》連発するっていうのも、あんまり芸がないですし」

「とはいえ、対”ゾンビ”に効果的なのは《火系》だと決まっています」

「そうなの?」

「ええ。《水系》《雷系》は、ことゾンビ狩りにはあんまり役に立たないというか……」


 マジか。


「……ところでずっと思ってたんですが……”戦士”さんなら、《必殺剣》を使った方がいいのでは?」

「《必殺剣》……」


 私は視線を逸らします。

 実を言うと私、刀を抜けない件、まだ誰にも相談していないのでした。


「刀は美言ちゃんに預けてきちゃいました」

「……取ってきましょうか?」

「いえ、やめときましょう。そもそも《必殺剣》はコスパが悪いらしいので」

「なるほど」


 綴里さんはあっさり納得してくれて、”ゾンビ”の群れを見下ろします。


「しかし、コストパフォーマンスの面で見ても、《火系魔法Ⅴ》は優れているとは言いがたいですね」

「ふむ」

「そこで、……もし”戦士”さんにお許しいただけるのであれば、新しいスキルを取得したいと思うのですが、どうでしょう」

「新スキル?」

「ええ。コストパフォーマンスがかなり優れている、と……頭の中の声が言っているスキルがあるのです」

「なにそれ」

「以前、ちらっとお話しましたよね。――今の私のジョブ、”解放者”には、『武器を作成する』力がある、と」

「ほうほう」


 言ってましたね。

 たしか、夜久さんと勝負する日だったかな。


「ちなみに、今の私のレベルは56。取得可能なスキルはたっぷり10ほど余らせています」


 どうやら彼女、スキルをとるのを遠慮してたみたい。


「いいですね。試してみましょう」

「ちなみに《武器作成》の他に、《大量生産》というスキルを取るのが有効なようです。こちらも取得して……?」

「おk」


 そして、綴里さんが目をつぶります。

 数十秒ほどの、間。たぶん頭の中の声を聞いているっぽい。


「……はい。《武器作成》、は……”上級”の上に”超級”、”神業級”まであるようですね。とりあえずそれを上限まで取得します」

「うい」

「……よし。オーケーです」


 これにて、現在の彼女が保有しているスキルは、


ジョブ:”解放者”

レベル:56

○基本スキル

《格闘技術(上級)》

《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》

《飢餓耐性(強)》《スキル鑑定》《カルマ鑑定》

○魔法スキル

《火系魔法Ⅰ~Ⅴ》《水系魔法Ⅰ~Ⅴ》《雷系魔法Ⅰ~Ⅴ》

《治癒魔法Ⅰ~Ⅴ》

○ジョブスキル

《性技(初級)》《美声Ⅰ》《激励》

《強兵化Ⅴ》《解放》

《武器作成(神業級)》

《大量生産》


 こんな感じに。


「では、早速試してみますね」


 言うが早いか、綴里さんが両手を中空にかざします。

 彼女の手の間をじっと眺めていると、――変化は突然でした。

 ひとつ、何かの部品のようなものが出現したかと思うと、カチャカチャカチャカチャと音を立て、部品同士が組み合わさっていき、やがて一つの拳銃を形作ります。


「これは……」

「FPー45。通称”解放者リベレーター”です」

「りべれーたー?」

「ええ。とりあえずお試しに、一番消費が少ない銃を作ってみました。装弾数は一発きり、有効射程は3メートル。いま、私が作れる最弱の銃です」

「へえ」


 たしかにその銃は、ピストルに詳しくない私の目で見ても玩具みたいで、あんまり役には立たなそう。

 ただしかなり小型で、持ち歩きには便利そうですね。

 綴里さんは、


「せっかくの処女作ですし、大切にしまっとこうっと」


 と、ちょっぴりウキウキでそれをポケットにしまいます。


「いいですね。生存フラグっぽい。クライマックスで綴里さんがその銃を取りだして発砲! 実はあのシーンが伏線だった! ってやつ」

「あるあるですね~」


 と、二人でくすくす笑ったり。

 まあ、百合漫画っぽい絵面の下では、今も”ゾンビ”で満員なんですけども。


「遊んでないでそろそろおっぱじめましょう」

「では。……今から私、爆弾を大量生産しますので、できあがり次第、ぽいぽいぽいぽいっと”ゾンビ”の群れに投げ入れちゃってください」

「りょ」


 頷くと、綴里さんはさっそく《武器作成》を始めました。

 次に彼女が生み出したのは、――茶目っ気たっぷりの、黒い球状に導火線がくっついた、『ボンバーマン』スタイルの爆弾。


「生成から七秒ほどで爆発します! 間違って落としたりしないように!」

「はぁい」


 私は冷静にそれを受け取って、”ゾンビ”が集まっているところにぽーい。

 瞬間、どぼん! と、音がして、もんじゃストリートに史上最悪のもんじゃ焼きが出来上がりました。


「うん。……このクォリティの爆弾なら、まだまだいくらでも作れそうです」

「具体的には?」

「ちょっとわかりませんが……少なくとも、百までは余裕?」


 マジか。そりゃたしかにコスパがいいですね。


「どんどんいきましょう」


 私がそういうまでもなく、天宮綴里さんは次々と爆弾を生み出していきます。

 流れ作業的に私はそれをぽいぽいぽいぽーい。

 どぽんどぽんどぽんどぽん! と音を立て、通りにいる”ゾンビ”たちが次々と肉片と化していきます。


「こりゃー楽でいいわ」


 じゃっかん、周囲の建物を巻き込んじゃってるところはご愛敬。


 私たちは、それから十数分もかからずに、通りにいる”ゾンビ”を一掃しました。

 ”守護”四人組と合流したのは、間もなくのことです。

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