その206 三人パーティ

――”正義の守護騎士”が、あなたの仲間になりたいようです。

――彼の従属を受け入れますか?


 という幻聴さんに、


「おけ」


 と、一言。


――おめでとうございます! ”正義の守護騎士”が仲間になりました!

――従属したプレイヤーは、あなたが関係を解消するまで敵対行動をとることはありません。

――今後、従属したプレイヤーとあなたは、クエスト・経験値の一部・スキルなどが共有されるようになります。


 さらに、ぱんぱかぱかぱかぱんぱかぱーん、と、豪華絢爛なファンファーレが鳴り響き、


――おめでとうございます! 実績”三人パーティ”を獲得しました!


 実績て。

 ますますゲームめいてきたなぁ……って多分、前の私も同じようなこと思ったんでしょうけど。


 霧が晴れ、どうやら闘争の雰囲気も霧散したらしいことを把握した私は、「みんな~」と手をふりふり駆けつけます。

 みたところ凛音さん綴里さんは重傷っぽい。

 夜久さんは無傷に見えますが、”従属”を申し出た感じ、きっと”魔力切れ”間近、といったところでしょうか。

 私は、怪我が痛むのか少しうつむいている凛音さんに、


「いやはや、こっち視点ではナニガナンヤラって感じですが、察するに激闘だったことでしょう。お疲れ様でした、二人とも。すぐに怪我を……」

「怪我は、後回しでいいや」

「?」

「だから、はやくもどしてくれないかな?」

「えーっと。……ああ、ひょっとして、……?」


 私は、サイズがぺったんこになった凛音さんのおっぱいを見ます。


「他に何があるっ。落ち着かないから、さっさと戻しな」


 いやー、まさか《激励》でおっぱいのサイズを弄くった経験がこんなところで活きてくるとは。

 何ごともいろいろ試してみるものです。


「でも、スレンダーな凛音さんも魅力的ですよ。モデルっぽい」

「いいからっ。あたしは、あたしの身体の全部が気に入ってるんだ。どこも変わって欲しくないんだよ」


 そこで、夜久さんがぽんと手を打って、


「ああーッ! なんか違和感あると思ったら、そういうことか。おかしいと思ったんだよ。メイド服の嬢ちゃんとそっちの嬢ちゃんじゃあ、明らかに違うところが……」

「ノー、夜久さん。それ以上はセクハラですよ」

「おおっと、すまねえ」


 とはいえ《激励》の効果は一時的なもので、放っておけば元に戻るみたいなんですけどね。

 その証拠に今、凛音さんの胸部は風船が膨らむみたいになってます。


「お、お、お、おおおお……」


 綴里さんのぺったんこな胸に合わせたメイド服がどんどん、ぱっつぱつに……。

 あらあらあら。どんどんどんどん服が張って。前のボタンが。いまにも千切れんばかり。うわうわ。「ちょっとおばちゃん、お茶碗に対してご飯盛りすぎですよぉ」「いいじゃないの若いんだから、学生は食べるものよ(モリモリ」「ちょっとこぼれちゃう! こぼれちゃいますって! あーあー」(イメージ映像)

 すかさず夜久さんがその肩にばさっとコートをかけ、紳士っぷりをアピールします。


「子供も見てるんだ。あんまり刺激的なのは教育に悪いぜ」


 さすが正義の味方さん。

 この瞬間、観戦中の野郎ども全員を敵に回した可能性がありますけど。


「ありがと」


 凛音さんは、さっとコートで前を隠します。


「じゃ、これから夜久さんは正式にお仲間……ということで?」

「ああ。やっさん、もしくはぎんさんと呼んでくれ」

「考えときます」


 あんまり年上の人をあだ名っぽく呼ぶのもなぁ。

 私は、差し出された夜久さんの手をぎゅっと握り返し、手袋越しに、彼の力強い指を感じます。


「じゃあこの場は……一件落着、って感じです?」

「そういうことになる」


 良かった。

 本当に良かった。

 人前でなければへなへなと座り込んでしまいそう。


「私ってば、きっと一ヶ月間はだらだらする権利、ありますよね」


 そう思ってホッと一息ついていると、


「そういうわけにはいかんだろ」

「えっ?」

「次は、嬢ちゃんの記憶を取り戻さんと」


 私は一瞬、目を丸くしました。

 あー。

 なるほど。

 そういやその問題があったか……。


「でもそれ、もうどうでもよくないですか?」

「そういうわけにはいかんだろ……」


 夜久さん、マスク越しにわかるくらい苦笑して、


「佐々木先生にもよくよく言われたぞ。もし君たちが”決闘”に勝ったら、嬢ちゃんの”クエスト”を手伝ってやってほしいってさ」


 なんでしょうあの人、私の保護者のつもりでしょうかね。


「だいたい君が”クエスト”に失敗したら、嬢ちゃんに”従属”した俺たちだってどうなるかわからないんだ。悪いが意地でも動いてもらう」

「えーっ」

「まあまあ、気を張るなって。面倒ごとは俺や仲間が対応する。王将は駒の後ろでどっかり構えていればいいさ」


 私、わりと将棋は入玉狙うタイプの戦法とるんですけど。


「それにさ」

「――?」

「君は案外、やるときはやる女だ。今回のことでそれがよくわかったよ」


 あーっ。

 なんかまた、お腹痛くなってきた。

 ひょっとすると記憶を失う前の私も、こーいう感じでだんだん追い詰められて、最終的に引っ込みがつかなくなったとか、そういうアレなんじゃあ……。


 ありえる。

 ありえるぞおおおおおおおおおおお。

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