フェイズ3「つよくてニューゲーム」

その184 終末に目を覚まして

――ただし、これだけは覚えておいて下さい。

――この世界はいずれ、終焉を迎えるでしょう。

――それでも、これだけは断言できるのです。

――あなたがたの努力は、命は、死は、決して無駄にはならないということを。



「――みゃ!」


 悲鳴と共に目を覚ましたのは、ある冬の日のこと……の、はずでした。


「…………誰?」


 訊ねて。

 返事はなくて。

 そのまま、十秒。


 ……幻聴かな?


 そう判断した私は、心地良い二度寝の世界へ……。


 …………。

 …………………………。

 ん。

 むううう。


 なんだこれ。なーんか違和感あって寝れませんね。

 んー?


 半身を起こして、頭をもしゃもしゃします。

 で、なにがオカシイかに気がつきました。

 暑いのです。寝苦しいのです。とっても。

 これは不可解なことでした。

 私、冬は暖房ナシで寝る畑の人間なのですよ。その方がよっぽどオフトゥンのぬくぬくを楽しめる気がするためです。

 それなのに今日は、ひどくむし暑い。

 まるで、時期をすっ飛ばして夏への扉を開いたみたいに。


「…………んー?」


 メガネなしのぼんやり視界のまま、エアコンをチェック。

 エアコンの稼働を示す光は……見えません。

 どうやらちゃんと空調はオフになっているらしく。


「…………………んんんんんん?」


 じゃあなんでこんな暑いねん。

 首を傾げつつ、私はとりあえず手探りでスマホを探します。

 ログボ取得しなきゃ……と思ったもので。

 ですが、どうにもおかしい。いつも枕元に置いてあるスマホがないのです。

 これはいけない。ログボ取り逃すとか、無課金勢の名がすたる。


「あれー? どこどこぉー?」


 私はあっちこっちスマホを手探ります。

 しかし、いくら探してもスマホはなく。

 その代わり手先に触れて驚いたのは、祖父の形見の刀でした。

 枕元に日本刀とか。

 武士かな?


 不思議なのはそれだけじゃありません。

 家具の配置がじゃっかん変わっている気までするではありませんか。


 まず頭によぎったのは、純度100%の恐怖。


 寝ている間に、誰か知らない人が私の部屋をリフォームしたのではないか、という。

 いやまあ、そんな真似する人いるわけないですし。そうするメリットもよくわかりませんけど。

 そんなこと、……お隣の……田中さんであってもやらないでしょう。


 とりあえず私は、シュババババっとメガネを探って素早く装着。

 事態の把握に注力します。


 部屋の異常は……細かくあれこれ。


 みっともなく脱ぎ捨てられたジャージとか。

 どこかから持ち込まれたガンプラの山とか。

 段ボールで雑に補強されたベランダの窓とか。

 あと、小型の自家発電機? めいたものも見つけたり。


「ふーむ……?」


 どうなってんねん。

 しきりに首を傾げつつ。

 時刻を確認すると、午後二時過ぎ。


「んんんんんん?」


 これもまた、不可解なことでした。

 どうにも私の記憶と食い違いがある、というか……。


 とりあえずテレビをオン、……に、しますが、うんともすんとも言わず。

 ではでは、と、ネットのみんなに助けを請おうとノートPCを起動しますが、どうにもネットの接続が切れてしまっているようです。

 異常はそれだけではありません。そもそもこの部屋、電気が通じていないではありませんか。


「なにこれ? なにこれ? なにこれ? なにこれ? ………」


 念仏のように唱えながら、部屋を歩き回ります。

 何かはわかりません。

 ただただ、恐るべき事態に巻き込まれているという実感がありました。

 まるで自分のよく知る日常世界から、ポンと別の世界に放り出されてしまったかのような。

 焦燥に駆られながらあちこち漁って、やっとの思いでスマホを見つけ出しましたが、どうもこちらも音信不通のご様子。


 で、ようやく発見した使えそうなツールは、買った覚えのない、災害用のラジオです。本体にハンドルがくっついていて、そいつをグルグルしたら動くやつ。


 私はさっそくそれをグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルします。


 すると、あらかじめ設定されていたらしい周波数から、声が聞こえてきました。


『こちら、秋葉原のコミュニティっす。……この音声は録音されたもので、都内にいる生存者のみなさんに呼びかけるものです。……いま、秋葉原は安全地帯になっているっす。…………繰り返します。秋葉原は安全地帯。…………水や食糧も十分にあります。…………もしこの放送を聞いている方で、救助が必要な場合は、……………』


 しばらく、その音声に耳を傾けます。

 んで、一応、他の局はどこも電波を飛ばしてないっぽいことを確認して。


 うん。

 よくわかんないや、と、結論。


 そして私は、遮光カーテンで遮られたベランダを開きます。


「ありゃまあ」


 そこで私はようやく、得心しました。

 どうも、――私が気持ちよく午睡ひるねに耽っていた間。


 世界が終わっていたようなのです。

 

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