その95 救助な日々

 ゆかいな救助活動(兼レベル上げ)、二日目。


「誰かいますかー!」

「誰かー!」

「安全地帯まで案内しまーす!」


 積極的に声かけを行う声に、


『うぉおおおおおおお……』


 応えるように”ゾンビ”が。


「お前じゃねー!」


 同時に、林太郎くんのナイフが”ゾンビ”の頭部に突き刺さります。


「お、おぉい! ここにいる! 助けてくれ!」


 と、ここでまた、新たな収穫。

 商店街周辺には、まだ結構生き残ってる人、いるみたいですねー。


 特に目新しいドラマもなく、その日は十三人の人たちの救助に成功しました。

 レベルは、私が3、彩葉ちゃんは2つアップ。



 救助活動、三日目。

 今日は、商店街より奥の、住宅街へ。


「君野明日香……? うそ……」


 そこで初めて、私達と同じ学校に通う生徒と顔を合わせました。


「あらら。河東さん、おひさー」


 明日香さんが、三体ほど”ゾンビ”の首を跳ねつつ、いつもの調子で挨拶します。


「あんた、ほんとに君野なの……?」

「そですよー」


 三分後には、その邸宅を囲んでいた”ゾンビ”の一掃に成功します。


「ここ、危ないんで、学校に避難しません~?」

「え、あの……ほんとに、安全なの?」

「夜はシャワーも浴びれますしオススメ~」


 商店街にあったお寺に、井戸があったそうで。

 現在、そこと学校は、バリケードで防御された安全な道で繋がっています。

 そのため、一時期は深刻だった水の問題は、現在ではほとんど解決しているのでした。


「う……うん。いくわ。家族も説得する」

「そんじゃ、三十分以内に手荷物を用意してかもん。……あ、お財布は必要ないですよぉ。持って行っても、紙幣を焚付に使うくらい?」


 嘘ではありません。

 1万円札を燃やして「どうだ明るくなったろう?」とする”成金ごっこ”は、密かなブームが到来していました。


「わ、わかった……言うとおりにするから……置いてかないで……」


 帰り道、明日香さんが教えてくれた話では、


「じつはですね。……私、あの娘にチョイとばかりイジメられてたんです」


 とのこと。


「一応言っときますけど、復讐とかそういうのは……」


 すると明日香さんは、心の底から朗らかな笑みを浮かべました。


「復讐? ……あははっ。考えもしませんでした。センパイだってそうでしょう? 当時起こったことは……なんていうかな。遠い、夢のなかの出来事のような。そんな感じですから」


 その日は、別働隊の彩葉ちゃん、日比谷紀夫さん、康介くんのチームが、駅の地下に隠れていたという三十名ほどのコミュニティを発見。

 なんか、口減らしのため赤ん坊と老人を殺す殺さないってところまで追いつめられてたらしく、喜んで私達の申し出を受け入れてくれました。


 お陰で、私達のレベルも一度に五つ上昇。

 やったね。



 救助、四日目。


 その日も大したことは起こらず。

 そろそろ、この辺にいる生き残りも少なくなってきたかな、といったところ。

 避難の声かけは午前中で切り上げ、午後はあちこちに散らばった物資を運びこむ作業に集中しました。


 それまでも薄々気づいてましたけど、都心ってホントに物に溢れてますねー。

 先生方が計算したところによると、「完全に物流が停止したとしても、東京に残された物資だけで十年は余裕で生きていける」そうです。

 もちろん、どれくらいの人が生き残っているかにもよるので、おおよそで導き出した計算だそうですけど。


 なんか、最近では「世界がこうなる前より豊かな生活送ってます」って人もちらほら。

 といいつつも、昔の生活を取り戻すまで、先は長いです。

 供給される電気は不十分ですし。新鮮な野菜にも飢えてますし。シャワーも冷たいですし。


 あ、そうそう。

 避難民の中に、そういう仕事に慣れている方が多くいらっしゃったお陰で、バリケードを強化・延長してくれるそうです。

 当面の目標としては、駅と学校までを安全な道で繋いで、駅地下の空間を万一の避難場に使う、とのことで。

 もちろんこれは、とても良い傾向でした。

 状況は安定していますが、いつそれが滅茶苦茶になるかわかりませんからねー。


 レベルに関しては、私と彩葉ちゃん、それぞれ一つずつうp。


 ▼


 きゅうじょ、五日目。


 避難民同士の衝突が発生しました。


 聞けば聞くほどバカバカしくなる内容で、――要するに、酔っぱらいの喧嘩です。

 この世の終わりだ、とか。

 何もやる気になれない、とか。

 だから、誰かれ構わず暴力を振るってやる、的な。


 まー、気持ちはわかりますけどね。


 ただ、ビール瓶による殴り合いに発展したのは良くありません。


 ちなみに、喧嘩は日比谷康介くんが間に入ったことで、強制的に仲裁されました。

 彼のお腹に、割れたビール瓶が突き刺さったためです。


 もちろん、すぐさま《治癒魔法Ⅳ》で回復しましたが……。


「俺だって、センパイの魔法を頼りにしてなきゃ、こんな無茶しませんでしたよ。いてててて! いたいっすいたいっす! もっとやさしく! いたいっ!」


 とは、本人の弁。


 喧嘩したお二人は、麻田剛三さんによると「厳罰によって対処」した、とのこと。

 「あんな子供たちが、必死に頑張っているのに」という、涙ながらの説教が行われたというもっぱらの評判ですが。

 それきり、喧嘩の当事者だった二人がお酒を飲んでいるのをみたことはありません。


 あ、ちなみに、その日は三人ほど救助に成功しましたが、レベルは上がりませんでした。




 きゅーじょ、むいかめ。


 あちこち見まわったんですけど、遂に周囲十数キロ圏内では、救助を求める人がほとんど現れなくなってしまいました。

 それでも一応、助けを求める人のため、あちこちで張り紙を実施することに。


 この頃は、普通の人でもある程度ならバリケードの外を歩き回れるレベルに治安が回復しつつありました。

 バリケード製作班の皆さんによると、今のうちに壁を拡張するそうです。

 『進撃の巨人』みたいに、一つのバリケードが破られても別の区域に避難できるよう、工夫するそうでした。


 あとは……えーっと、何があったかな。

 あ、そうそう。

 玩具屋さんから、大量のガンプラを奪取しました。

 そのせいか、みんなの間でやたらとプラモデル製作が流行り始めてます。

 その結果、異様にプラモデルについて詳しい元無職のおじさん、通称”ザ・プラモ”が人気者に。

 校舎のあちこちがシンナー臭くなり始めたので、「プラモは屋上で作ること」という決まりが早々に制定されました。



 んで、今日。

 きゅーじょなのかめです。


 本日は、思い切って少し遠出をすることに決まりました。

 移動は軽トラックを二台に分けて使います。

 先行する車は、紀夫さんが運転し、助手席には康介くん、荷台には私と彩葉ちゃん。

 後続の車は、麻田剛三さんが運転し、助手席に林太郎くん、荷台には理津子さんと明日香さんという布陣。


 道中の、邪魔だった車は、ガソリンを抜いた後、彩葉ちゃんがワンパンでぶっ飛ばしてくれました。

 《怪力》スキルをカンストするまで取ったそうで。

 もう、”ゾンビ”なんかより、彩葉ちゃんの方がよっぽど怪物ですよね。


「今日こそ誰かいたらいいけどなー」


 軽トラの荷台に揺られつつ、彩葉ちゃんが呟きます。


「ですね。百花さんの話だと、《治癒魔法》と《必殺剣》は限界まで覚えといてほしいって話でしたし」


 さらに言うなら、《攻撃力》関係のジョブスキルもしっかりとっておきたいところ。

 《防御力》《魔法抵抗》もそうですけど、この辺は特に意識してなくても効果の高いスキルですからね。


 ……などと考えつつ、のんびりしていると。


「ん、なんだ?」


 運転手の紀夫さんが呟きます。


「……ちっ! まずい!」


 事件が起こったのは、その直後でした。

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