その94 救助活動という名のレベル上げの始まり

 一晩明けて。


 二年生の教室で、集まってきたみんなに、


「ええと、……気持ちは変わりませんか?」


 と、最終確認をします。


「はい、お願いします」と、日比谷康介くん。

「おっす! わくわくするぜ~」と、今野林太郎くん。

「センパイの頼みなら、よろこんで」と、多田理津子さん。

「だいじょうぶだよぉ~」と、君野明日香さん。

「……問題ない」これは、日比谷紀夫さん。


 みんな良い返事ですね。

 ってわけで早速、順番に《隷属》を使っていきます。


 まずは、日比谷康介くんから。


「……ん。なんだか、身体が軽く……」


 ここで言葉を切って、


「……よっ!」


 軽くバック宙。


「うお、な、なんだこれ!」


 自分でやった行為に驚きながら、康介くんは危なげなく連続バック宙を決めていきます。


「か、身体、軽!」


 ……と、まあ。

 わりとクールな彼でさえそんな感じですから、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! なんだこりゃあああああああああああああああああああああああああああ!」


 林太郎くんのはしゃぎっぷりといったら、ものすごいものがありました。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおはんぱねえええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 叫びながら、止める間もなく窓から飛び降ります。


「ちょ、林太郎くん!?」


 ここ、二階なんですけど。

 驚いて外から顔を出すと、けらけら笑いながら運動場を駆けまわる彼の姿が。

 ……平気ならいいんですけどね。


 続けて、残りのみんなにも《隷属》スキルを使っていきます。


「……うん、悪くない」と、理津子さん。

「ほへぇー。確かに、力が湧いてくる感じですねー」と、明日香さん。

「超常の存在がもたらした力だと考えると忌々しいが……」これは、紀夫さんの弁。


「って訳で。みなさんにはこれからバリバリ人助けに精を出していただきたい」

「わかってる。そうすることで、君の……レベル? とかいう、何かが上がる、と」

「はい」

「ふん。あの、百花とかいう娘が人助けを渋ったのは、そういう理由だったのか」

「……? そうだったんですか?」

「バリケードの製作にはずいぶん力を貸してもらったから、文句は言えんが」


 ちなみに、話題の百花さんは、しばらく“雅ヶ丘高校”を離れるそうです。

 今朝方、”ドラゴン”を引き連れ、都内の方向へ飛び立っていくのが見えました。

 私がレベル上げをしている間、仲間になってくれそうな”プレイヤー”を探してくれる、とのこと。


「ちなみに、紀夫さんから見て、どうです? あの百花って娘は」


 ふと、年長者の意見を聞きたくなって、訊ねてみます。


「”転生者”だとか言ってたな」

「はあ」

「気に入らん」


 相変わらず、忌憚のない意見を言われる方で。


「気づいているかもしれんが、あれには隠し事があるよ。間違いなく」

「ほう?」

「彼女の言葉を鵜呑みにするならば、この”終末”を経験したのは二度目ということになるらしいが。……それがそもそも、妙な話だ。それなら、事態がここまで発展する前に止めることはできなかったのか?」

「確かに」

「彼女が本当に”二度目の人生”を歩んでいるならば、自分の都合がいいように運命を捻じ曲げる可能性も否定出来ない。気に入らない者には危機を知らせず、気に入った者だけを救う。そういう手段も可能だということだ」


 ま、慎重を期すに越したことはないってことですかね。


「ま、とりあえず人助けはするに越したことはないですし。善行を積むとしましょうか」

「うむ」


 これには、紀夫さんも異存はない様子。

 と、まあ。

 そんなこんなで、我々は正門に向かいます。



 捜索は、私が住んでいたマンションから始めることになりました。


「まだ、ここに残ってる人がいるはずです。ベランダから顔を出している人影を見たって話を聞きました。……”ゾンビ”の見間違いじゃなきゃいいんですが」


 康介くんが、緊張の面持ちで得物を構えつつ、前を進んでいきます。

 彼は、いつだったか私がプレゼントした、鋼鉄の篭手を装備していました。


「最近の”ゾンビ”は、息を殺して待ち受けている場合もあります。注意してください」


 なるほど。

 所沢までの道中は、襲ってきたやつだけを始末してきたので、そういうのあんまり気にしてなかったんですよねー。

 すると、


『うぉおおお……』


 確かに、こちらの様子を伺っていたらしい“ゾンビ”が、曲がり角の死角から飛び出してきました。


「……ッ!」


 康介くんは、素早く篭手を押し付け、壁に”ゾンビ”を叩きつけます。

 ぐしゃり、と、”ゾンビ”は頭部を潰されて、それきり動かなくなりました。


「……あれ、うわ!」


 妙な声を出したのは、康介くん自身です。


「うそだろ、こんなあっさり……」


 どうやら、新たな力(たぶん《格闘技術(上級)》の効果でしょう)に驚いているようで。


「自分の身体じゃないみたいだ……」

「まあ、少しずつ慣れていけばいいですよ」


 私も《剣技(初級)》を覚えた時は、結構驚きましたからねー。

 戸惑うのも無理はない話で。


「おーい! こっちだー!」


 対して、あっさり新しい力に順応して見せた林太郎くんは、”ゾンビ”が集まってくるのも気にせず(というか、積極的に呼び寄せながら)、こっちに声をかけてきます。

 林太郎くんが指差した部屋にいたのは、小学生くらいの男の子たちの兄弟。

 二人とも、ずいぶん衰弱しているようで。

 彼らに食事を与え、安全地帯まで案内しつつ、先を急ぎます。


 餓死者を発見するのは、さすがにやるせないですからね。


 結局、その日のうちに救助できたの四人。

 近場を重点的に探したのが良くなかったのかも知れません。

 成果としては、まずまずの結果に終わりました。


 上がったレベルは、私と彩葉ちゃんが、それぞれ一つずつ。


 地道ですけど、この調子で頑張るしかないですねー。



 あ、ちなみに。

 百花さんの情報で、


「《治癒魔法》マジ便利。経験値稼ぎにもなる。オススメ」


 とのことで、6つまで選べたスキルは、《治癒魔法Ⅰ~Ⅴ》と、《必殺剣Ⅰ》を取得することにしました。

 

 しばらくは、カンストするまでこの二つのスキルを取得する日々が続きそう。


 《必殺剣》関係の効果はまあ、そのうち。おいおい。

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