その83 神の玩具

――おめでとうございます! ”残酷な精霊使い”を殺しました! 彼の保有するスキルを三つまで“強奪”できます!


――おめでとうございます! 実績”神域へ到る一歩”を獲得しました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!



 目を覚ましたのは、見たこともない部屋のベッドの上でした。


 ぼんやり腕を見ると、点滴を打たれているのがわかります。


 ……。

 …………。


 あの後、どうなったのでしょうか?


 時計を見ると、午後十時過ぎでした。

 あれから二時間ほどしか経過していません。


 服は、あのままでした。

 あのままというのはつまり、手榴弾の爆風を受けて、ボロボロになった状態の服を着ている、ということです。

 思いっきり上半身がはだけちゃってますけど。

 男の身体だと、あんまり恥ずかしくない気がしますね。


 そこで、ちょっとした違和感に気づいて、顔に手を当てます。

 いつの間にか”臆病者のメガネ”を失くしていることに気づきました。

 多分、”精霊使い”との戦いの最中に、どっかいっちゃったんでしょう。今の今まで気づきませんでしたけど。


「……うーん」


 しばしの黙考。


 とりあえず、ここでこうしている訳にはいかないと判断します。


 乱暴に点滴を引き抜き、ふらふらと立ち上がって。

 やっぱり、身体はまだ重いですね。車で言うガス欠を起こしているのがわかります。


 食べ物。

 なんでも良いので、何か食べ物を。


 室内を歩きまわり、栄養のありそうなものを探します。

 しかし、何も見当たりませんでした。


 むう。

 やむなく、私は枕元に飾られていた花瓶から花を引っこ抜いて、それを口に入れます。

 美味しくはありませんが、無視してそれを咀嚼しました。


 そこで、


「何してんだお前」


 呆れ顔と眼が合います。


 見知った顔が、二つ。

 一人は織田さん。

 そしてもう一人は、”奴隷使い”の元に居たメイド服の少女、綴里さんです。


 茎の部分だけになったお花を花瓶に戻して、


「……なにが、どういう……?」


 混乱する私を見て、織田さんは苦笑しました。


「少なくとも、お前が全知全能の神じゃないってことはわかったよ」


 いや、そういう皮肉はいいので。


「彩葉ちゃんは?」

「無事です。点滴による栄養補給を受けているので、すぐに魔力も回復するでしょう」


 綴里さんが、淡々とした口調で説明してくれます。


「あなたは何故ここに?」

「ご主人様の命です。事態が動き出したことには気づいていましたので、何かの手助けができれば、と。もう少し早く駆けつけていれば、”精霊使い”との戦いに間に合っていたのですが……」


 そこで私は、深く嘆息しつつ、織田さんの顔を見ました。


「正直に応えて下さい」

「なんだ?」

「何人、死にましたか」

「八人だ」

「怪我人は?」

「いない。即死したか、奇跡的に無傷だったかのどちらかだ。苦しんだ奴がいないのは幸いだった」


 彼は、ひょうひょうとした口調で応えます。


「そうですか……」

「なんだ? 責任感じてんのか?」

「少し」

「だったら、俺と明智さんにかけた呪いも解いてくれ」

「それは無理」

「くそっ」


 吐き捨てながら、織田さんはそっぽを向きます。


「言っとくが、お前を助けたのは、明智さんが言ったからなんだぞ。俺は反対だった」

「それは、私に害をなすような真似をした場合、自殺させると脅したからでは?」

「そりゃまー、そうだけどよー……」

「あなたたちは信用できません」

「ふん」


 織田さんの方も、慣れあうつもりはないようで。

 ま、ここの人たちとは、それくらいの関係の方がちょうどいいかもしれません。


「ま、いいや。明智さんも、お前のことは気にするなと言ってた」

「どういう意味です?」

「正直、さっきまではぶち殺してやりたい気分だったが。少し気が変わったのさ」

「ほう」

「ずっと、……この世界のどっかに”神”みたいなやつがいて、そいつが”ゾンビ”やら”怪獣”やらをばら撒いて、げらげら笑っていやがるんだと思ってた。俺たちは、その得体のしれない野郎の玩具なんだと」


 ”神”ですか。

 いつだったか、日比谷紀夫さんも似たようなことを言っていましたね。

 やはり、世界がこういう状況になってしまっては、その存在を疑わずにはいられないのかもしれません。


「俺はてっきり、お前をそういう奴らの一味だとばかり……。でも、少し違うらしいな」

「つまり?」

「”神”の玩具は、俺たちじゃない。だよ」


 ふむ。

 そういう考え方もありますね。


 織田さんは、言いたいことはそれだけだ、とばかりに背を向けて、


「……あ、言い忘れてたけど、ここ、幹部用の部屋だから。んで、表向き、お前は”超有望な新人”で、”スーパーマン”で、”人類の守護者”ってことになってる。だから、好きに使っていいぞ」


 シニカルな表情でそう言いながら、部屋から去って行きました。

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