その74 《スキル鑑定》

――はいはいのはーい! 毎度おなじみ、早苗おねーさんだよ!

――その後”メシア”から聞いた、おまけ情報を伝えておくね!

――その情報っていうのは……えーっとぉ(メモを読んでいるらしい)、”カルマ”の増減について、だって!

――“カルマ”っていうのは、そのプレイヤーの善悪を判断する大まかな区分け……らしいんだけど、これ、けっこー判定がガバガバらしいよ!

――例えば『コンビニから物資を取ってくる』っていう行為も、”カルマ”に悪い影響を与えるんですって! そこの経営者さん、とっくの昔にこの世からオサラバしてるだろーにねぇ!

――それと、殺人よね。

――人殺しは、どういう条件下における行為でも、”悪”として判定されるみたい。しかも、そのマイナス点といったらものすごくて、一人でもその手で殺しちゃったら、結構な善行を詰んでもカルマは”悪”のままみたいね。

――っていうかまあ、ぶっちゃけると、“メシア”がそのクチなんですって。

――いつ人を殺しちゃったかは話してくれなかったけど……「正当防衛」だって本人は言ってたよ。

――まあ、こんな世の中だし、そういうこともあるわよね……。

――とりあえず、今回伝えたいことはそんな感じ。

――じゃ、引き続き、センニューニンム、がんばってね!



「……ふう」


 便座に腰掛けながら、私は頭を抱えます。

 テレパシー通話用に《隷属》した、早苗という女性のキャラが妙に濃いせい……ではありません。

 作戦の練り直しが必要だったためです。


 スキルを扱う者。――幻聴さんの言葉を借りるなら、”プレイヤー”。


 ”どれいつかいのムチ”は、“プレイヤー”には使えません。さらに言うと、“プレイヤー”に《隷属》スキルが通用するかどうかも、アマミヤくん曰く、「わからない」のだそうで。

 まあ、無理もありませんでした。

 これまで私たちは、それぞれ自分が世界で一人だけの“プレイヤー”だと思っていた訳ですから。


 ってわけで、さっき彩葉ちゃんで実験してみました。


 結果は……残念ながら、不可。

 最も、予想はしていました。

 幻聴さんは、基本的に私たちのことを”プレイヤー”、それ以外を”人間”と、明確に区別して呼称します。

 そんな幻聴さんが、「人間を“奴隷化”する」と表現した訳ですからね。


 んで、本題。


 とりあえず、このコミュニティのどこかにいるはずの“プレイヤー”を見つけ出す必要があると思いました。

 まず考えたのが、このコミュニティの”ボス”と呼ばれている男が”プレイヤー”である可能性です。

 しかし、それには確証がありませんでした。確証なしに決めつけで行動するのは危険です。


 ……と、言う訳で。


 私は、こういう時のために取っておいたレベル上げを行うことにしました。

 確か、……上がったレベルは、四つでしたっけか。


 幻聴さ~ん、聞いてるぅ~?


――では、取得するスキルを選んで下さい。

――1、《必殺剣Ⅰ》

――2、《格闘技術(初級)》

――3、《魔法スキル選択へ》

――4、《ジョブスキル選択へ》

――5、《スキル鑑定》


 まあ、選択肢はこれしかないでしょうね。


――《スキル鑑定》は、取得することで自分以外のプレイヤーのスキルを参照することができます。


 これさえ手に入れとけば、探偵の真似事をするまでもなく、プレイヤーが誰かまるわかり。

 ってわけでゲット。

 次。


――では、取得するスキルを選んで下さい。

――1、《必殺剣Ⅰ》

――2、《格闘技術(初級)》

――3、《魔法スキル選択へ》

――4、《ジョブスキル選択へ》

――5、《カルマ鑑定》


 おっと。

 鑑定系スキルにも上位互換がありましたかー。


 まあ、新しいスキルはとりあえず性能を確認したくなりますよね。


――《カルマ鑑定》は、取得することで自分以外のプレイヤーのカルマと、善・不善行為の経歴を一部参照することができます。


 ふむ。

 ふむむ。

 それ、知ってどうするんだ感ありますよね。


 ただ、鑑定系のスキルはこの後も伸びしろがありそうですし、余裕があったらいずれ取る機会があるかもしれません。

 ま、余裕があった試しなんて、これまで一度もなかったですけど。


 残念ながら、次に取るスキルは決めていたのですよ。


――では、取得するジョブスキルを選んで下さい。

――1、《攻撃力Ⅰ》

――2、《防御力Ⅴ》

――3、《刃の服》

――4、《魔法抵抗Ⅱ》

――5、《口封じ》


 ……と、ここでまた、新たな選択肢。

 次のスキルは決めていましたが、一応確認。


――《刃の服》を使用すると、一分間、身にまとっている服に、”物理ダメージを一部反射する”属性が付加されます。


 ほほぉー。

 ドラクエでもありましたね、そういう効果の防具。

 まあ、いいや。とりあえず保留で。


 次のスキルは、効果がわかりやすいやつから順番に取ると決めていました。

 ここまできたらもう、防御系、上げるとこまで上げちゃいましょう。

 と、いうことで。


「《防御力Ⅴ》を」


 んで、次は何を取ろうかなと思っていると、


――では、取得するジョブスキルを選んで下さい。

――1、《攻撃力Ⅰ》

――2、《刃の服》

――3、《イージスの盾》

――4、《魔法抵抗Ⅱ》

――5、《口封じ》


 《防御力》系のスキルが消え、新たな選択肢が。

 どうやら《防御力》はⅤでカンストだったみたいですね。

 そして、その代わりとばかりに出現したスキル、《イージスの盾》。

 これ、ちょっと期待してもいいんじゃないですか?


――《イージスの盾》は、使用することで高い防御力を誇る魔法の盾を創り出します。


 ……ほほう。

 魔法の盾、とな?


 なんか、久しぶりに私の物欲センサーに引っかかりましたよ、このスキル。


 炎の剣と魔法の盾。


 ……ちょっとそれ、最高にかっこ良くないですか?

 なんか、どきどきしてきました。


「《イージスの盾》で」


 次は……。

 まあ、なんでもいいかな?


 とりあえず、”精霊使い”戦に備えるため、《魔法抵抗Ⅱ》を。

 これにて、レベル上げ終了。


――では、スキル効果を反映します。


「ではさっそく、――《イージスの盾》」


 ブゥン!


 同時に、青くて半透明の盾が、左手に顕現しました。


「ほほう……」


 便座に座りながら使っているのがもったいないくらいのカッコ良さ。

 試しに盾に触れてみると、少し温かい感触がします。

 ただ、不思議なことに、どうやってもそれに直接触れることができませんでした。

 どうやらこれ、私自身の身体はすり抜けるようにできてるみたいですね。

 これなら、相手の攻撃を盾で防ぎつつ、その裏側から刺突を食らわせるとか、そういう戦い方もできそう。実践するかどうかはわかりませんが。


「ふう……」


 一仕事終えた気持ちでトイレから出ると、


「お! ”グリグリメガネ”じゃん。どうした、いい顔しやがって! でっかいガキでもこさえたか?」


 ひどい冗談と共に、佐嘉田さんが登場。


「ま、そんなとこです」


 雑な返答をしつつ。

 男同士の会話って、基本こんな感じなんですかね?


 時計を見ると、すでに日が傾き始めていました。


 改めて、捜査再開です。

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