その73 精霊使い

(あー、あー、テステス。聞こえますか?)

――はいはいのはーい! 早苗お姉さんが聞いてますよ!

(はあ、どうもです)

――改めまして、こんにちは! ”戦士”ちゃんって呼んでいーい?

(アッハイ)


 謎の焔を目撃した私は、とりあえず便所に身を隠しつつ、テレパシーによる通話を試みていました。

 お相手は”奴隷使い”のコミュニティに居た門番の一人、早苗という女性。


――で、どうかした? なにか“メシア”に聞きたいことでも?

(あります)

――じゃ、今からメモるね。……どうぞー。


 早苗さんは、軽快な口調で言います。


(質問はこうです。……「レベル15の時点で、ジョブ選択があったはずですが、“奴隷使い”以外の選択肢は何だったか教えて下さい」、と)

――ふむふむレベル15で……ジョブ……ほうほう。正直、何言ってるかわからないけど、そのまま伝えたらわかるのね?

(そうです)

――りょーかーい!


 これでよし。

 次いで私は、彩葉ちゃんの元へ。


 彩葉ちゃんは、”食堂”奥にあるキッチンにて、ものすごい勢いで野菜を刻んでいるところでした。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「すごいわ! 彩葉ちゃん。世界よ! これなら世界を穫れるわ! キャベツの千切りチャンピオンよ!」

「任せろおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 そんな彼女の隣には、「これ、いったい誰が食べるんだろう」って量のキャベツの山が。


「あのー……ちょっといいですか?」

「まあ! あなたが新人の”グリグリメガネ”くんね?」


 いつの間にか浸透している私のあだ名。


「あなた、十年に一度の逸材を連れて来てくれたわ」

「あ、そうですか?」

「彼女、若いのに凄いわ。下手な男の子よりよっぽど力持ちだし、こう見えて包丁の扱いも繊細なのよ」


 苦笑します。まあ、そんなところだろうなとは思っていました。


「少し、彼女を借りてもいいですか?」

「もちろん。……彩葉ちゃん、そろそろ休憩入っていいわよー」


 おばさんの声に応じて、彩葉ちゃんの手が止まります。


「ふう! 労働の歓び!」

「……あんまり目立たないでくださいね」

「ま、ちょっとくらいいいじゃん」

「ところが、そうも行かないんです」

「うーん?」

「彩葉ちゃん。……あなたも、レベル15でジョブの選択をしたはずですよね?」

「もちろん!」

「では、その際の、”格闘家”以外の選択肢を教えていただけます?」

「ん? なんで?」


 私は、これまで以上に周囲の目を気にしつつ、応えます。


「ここに、私達以外のスキル持ちがいます」


 一瞬、彩葉ちゃんはぽかんと口を開きました。


「ほえー? マジでー?」

「マジです」

「そりゃ……ちょっとマズいなぁ」

「そいつ、私たちの知らない、妙な術を使うようです。ジョブの名前だけでもわかれば、攻略のヒントがつかめるかも知れません」

「おっけー」


 彩葉ちゃんは、ポケットから一冊のメモ帳を取り出しました。

 ゴミ捨て場の場所や、カレーのレシピなどが書かれたメモ帳をめくって、そこにさらさらっと文字を書き込みます。


「ほい」


 彼女がメモを手渡してくれたのと、


――はいはいのはーい! 再び早苗お姉さんだよー!


 という連絡が入ったのは、ほとんど同時でした。



 と、言うわけで、レベル15時点における、カルマ別のジョブが、ここに判明。


 ひょっとすると、カルマ以外の条件でなれる隠しジョブ的なのがあるかもしれませんが……とりあえず、現状私が把握しているものだけです。


”カルマ:善”のジョブ:守護騎士、格闘家、奇跡使い、精霊使い

”カルマ:中立”のジョブ:戦士、射手、獣使い

”カルマ:悪”のジョブ:盗賊、暗殺者、魔法使い、奴隷使い


 はぁー。

 なるほど。


 やっぱありましたか、”魔法使い”。

 なりたかったな、”魔法使い”。


 ぐぬぬ。せめて攻略本があれば。


 彩葉ちゃんと”奴隷使い”はついでに、幻聴さんによる、全ジョブの大まかな説明も教えてくれました。


――“守護騎士”は、防御に特化した戦闘職です。盾を主軸にしたスキルが多く、ほとんどの魔法を盾で跳ね返すことができます。

――“格闘家”は、素手での格闘術に特化した戦闘職です。身体能力を高めるスキルが充実しており、攻撃した相手に一定確率で“会心の一撃”を与えます。

――“奇跡使い”は、《治癒魔法》に特化した専門職です。他者を強化するスキルに特化しており、周囲にいる仲間の自然治癒力を自動で強化します。

――“精霊使い”は、本来であれば目に見えぬもの、神霊・精霊の類を使役する専門職です。


――“盗賊”は、人のものを盗み取ることに特化した専門職です。身を隠すことに秀でたスキルが多く、かがむことで半透明になることが可能になります。

――“暗殺者”は、暗殺に特化した戦闘職です。刃物を主軸に扱うスキルが多く、攻撃した相手を低確率で即死させます。

――“魔法使い”は、攻撃系の魔法に特化した戦闘職です。魔法攻撃の威力にボーナスがつき、また、魔法の使用による魔力の減少を抑制するスキルが充実しています。

――“奴隷使い”は、人間を“奴隷化”し、戦闘能力を強化することができる専門職です。


「ほへー……」


 なるほどなるほど。

 わかりやすい。


 先ほど見かけた、浮遊する焔。

 てっきり、あれの正体は”魔法使い”専用のスキルか何かだとばかり思っていましたが。


 こうしてみると、一目瞭然ですね。


 このコミュニティのどこかに潜んでいる、スキルを使う者。

 その正体は、――恐らく。


「”精霊使い”、ですか」


 ……うわー。


 一番得体のしれないやつ、来ちゃいましたよ。

 困ったなあ。

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