第7話 救済者(5/7)

 目を開いた時、俺はマルチ制作研究部のソファーに座っていた。目の前には、中村が無理矢理渡してきたノートパソコンが置いてある。

「何、ぼーっとしてるのよ!」

 中村が後ろから、髪を垂らしながら俺の前に置いてあるパソコンをのぞき込む。

「何よ! 全然読み進んでないじゃない!」

 と、彼女は横で騒ぐ。

「……赤い空」

「はあ?」

 俺は、ボソッと中村がこの単語について覚えていないかを確かめてみた。彼女の高圧的な対応と、見下した視線を飛ばしてくるのを見て、何も覚えていないことを確認する。

 パソコンの時間を見てみると、そんなに時間は経っていかったらしく五時ちょっと前を示していた。

「ちょ、ちょっと!」

 中村の呼び声を無視して俺は立ち上がり、小倉の元へと向かう。小倉はヘッドフォンを装着し、所定の位置に座りエロゲーをやっていた。

「……小倉」

 肩をちょんと指で突っつくと「にょわあああ!?」と椅子から飛び上がる。

「うぃひぃぃぃ!? ちゃちゃちゃ、ちゃんとス、スクリプト組んでたっすよ! エ、エロゲーで遊んでた訳じゃなないっすからね!」

 と、ビクビクと震えながら動揺する。

 しかし、呼んだのが俺だと分かると、小倉ほっとした顔をする。

「なあ、小倉」

「な、なんすか?」

 俺は、さっきの出来事を少しずつ思い出しながら、

「ループものの主人公ってどう思う?」

 と、聞いてみる。

 小倉は「ル、ループものの主人公っすか?」と聞き返しながらも顎に手を当て考える素振りを見せた。

「えーっと、べ、別に何とも思わないっすよ。ささ、最近多いっすよね、出てきても、ふーん、みたいな……」

「……そっか」

 やはり、小倉も世界の終わりのことは覚えていないらしい。

「な、なんなんすか?」

「いや、何でも……」

 俺は考え込む。やはり中村が言った通り、時間は経過している。パラレルワールドかどうかまでは、はっきりとしないが、とりあえず今回で分かったことは、梅沢が重要な人物であること、俺を助けようとしていたので、たぶん敵ではないということである。

 ……これからは、もっと積極的に彼女へ接近してみる必要があるかもしれない。

「……アンタ」

 俺の背後に立った中村に呼ばれる。俺の不可解な行動に怒りを覚えたのかと、ある程度覚悟をして振り向く。

「ねぇ……何かあったの?」

 しかし、中村は怒ってはいなかった。寧ろ俺を心配した母親のような表情を見せる。

「え?い、いや、別に何も……あははは」

 その不意に見せた思わぬ優しさに、俺はさっきまでの冷静さが欠けてしまう。

 さっきまで世界の終わりを目の当たりにしてきたなんてことを言ったって、この人達は信じてくれないだろう。

「……」

 中村は俺を睨み、黙り込んでしまった。変なことを言ってファビョられるのも面倒なので、俺は目線を反らし、何も話さないことにした。

 何気なく見た窓の外は優しげな橙色に染まり、今日の終わりを示してくれる。さっきまでの、あの地獄が嘘みたいだった。

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