後編

 男女のゾンビは語り合う。愛を囁き、愛を微笑み、愛をはぐくむ。

 男女のゾンビは手を繋ぐ。ずるり、ぐちゃり、べちゃり。皮膚はれ落ち、血肉と脂が溢れ出す。けれども、それでも、手は離さない。


「ゾンビだった貴方に殺されて」

「人間だった貴女に恋をして」

「私もゾンビになりました」

「貴女も同じにしたかった」

「恨んでいるのでしょう。人間だった私を」

「恨んでいるのだろう。ゾンビに変えた私を」

「いいえ」

「全く」

「恨んで」

「ないよ」


 ぐちょり、ぶちょり、べちょり。

 肉体が、崩れる事すらいとわずに、男女のゾンビは求め合う。

 愛を求める。求め合う。


 そこに決して欲は無い。色欲も、食欲も、承認欲求すらも、無い。

 無欲なゾンビは求め合う。

 ただただ純粋に、ひたすらに、ひたむきに、求め合う。


「祝おうか」

「祝いましょうか」

「貴女の誕生を」

「新たな愛を」

「さあ、おいで。チーズケーキを食べようか」

「ええ、行きましょう。美味しい紅茶を淹れるから」


 埃まみれのテーブルで、男女のゾンビは向かい合う。

 カビたケーキ、割れたティーカップ、腐った二人。


 ぐちゅり、びちゃり、ごくり。

 月光照らす闇の中。二人のゾンビが、互いを祝い、愛し合う。

 食べたケーキははらわたへ。

 飲んだ紅茶もはらわたへ。

 されども、びちゃりと床へと落ちる。

 腐りに腐ったはらわたは、風穴だらけの粗悪品。

 けれども、それが、どうした事か。

 二人のゾンビは、ただただ純粋に、ひたすらに、幸せなのだ。


 カチャリ、カチャカチャ、カチャカチャリ。

 闇の中、鈍色にびいろフォークが、踊り出す。

 割れたカップは歌いだし、腐ったはらわたビートを刻む。


「幸せだ」

「幸せね」


 月に照らさる二人のゾンビ。

 星々すらも祝いだす。

 爛々と儚く煌めき二人を照らす。


「幸せか」

「幸せよ」


 そこには決して嘘は無い。欺瞞も、詐称も、何も無い。

 無垢なるゾンビは語り合う。

 ただただ純粋に、ひたすらに、ひたむきに、語り合う。



 ごぽり、べちゃ、ごろり。

 腐った眼球、抜け落ちた。

 闇に包まれ、月すら見えぬ。されども、それが、どうした事か。


「いるね」

「いるわ」


 血肉滴るしたたその腕伸ばせば、そこには常に君がいる。



 ずるり、べちゃ、ぐちゃり。

 腐った舌も、床へと落ちた。

 言葉を失い、愛すら言えぬ。されども、それが、どうした事か。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……」


 腐りに腐ったその腕伸ばせば、そこには常に愛がある。



 愛とは何だ。

 愛とは君だ。

 愛に視覚は不必要。

 愛に言葉は不必要。



 ゾンビとは、死に続けてゆく存在で。

 ゾンビとは、決して消えない存在で。

 ゾンビとは、永久に愛し合う存在だ。



 ゾンビは永劫、愛を育む。


 永久とわに続くはゾンビの愛なり。

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永久に続くはゾンビの愛 エルバッキー @Bucky

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