赤の大捜査線編⑧

大人しく事務所にあがったそのおっちゃん。

店長と他の社員たちで問い詰める。


「わし、なんも知らんねん。」


防犯カメラの録画を見てみると、まず違う男が店内に入り、巾着袋の紐をひいて、偽のドル箱を作り退店する。

そして、このおっちゃんがやってきて、その台の呼び出しランプを押したわけだ。


「なんも知らんわけないやろ!」


話を聞いてみると、このおっちゃんはとあるスナックで話しを持ちかけられたのだ。


○時○分に、●●というパチンコ屋で●番台の呼び出しランプを押せ。

それだけで、金になる仕事だと。

玉の持ち込みなど、これっぽっちも知らなかったのだという。


おそらく、このグループは持ち込み玉の手配と、巾着袋による持ち込みは行うが、実際の交換、すなわち、一番捕まりやすい役割を、このような金に困ったおっちゃんに押し付けていたのだ。


「わし、そいつらの名前も連絡先も知らんねん。わし、携帯も身分証もないし。」


「ふざけるな!」


怒りが爆発しそうになったが、このおっちゃんを詰めてもこれ以上何もなかった。


完全なトカゲのしっぽだ。

トカゲのしっぽを捕まえたにすぎない。


「そんな悪いこととは、知らなんだ。」


このおっちゃんの悪意のなさが、逆に僕らの怒りのやり場を失う。


あんたらみたいな人達のおかげで、俺らがどんなけ黒い玉を選別したと思ってるんだ!


「そこのスナック、行って、そのグループぶっ潰してやる!」


若い社員たちと僕は怒り心頭したが、それも意味のない行動だ。

そこのスナックもただの溜まり場。

そしてそのような事をする連中のさらにその先には、おそらく、


暴力団がいるんだろう・・・・


結局、本丸は落とせないのだ。


「ごめんな。お兄ちゃん!」


おっちゃん!

もう二度とすんなや!

これが、どんなけ悪いことか!

どんなけたくさんの人を苦しめることか!


それを説明しても、絶対伝わらない。


あの苦しみ、労力、やった人間にしかわからないだろう。


・・・・トカゲのしっぽ。


警察に突き出しても、軽く注意を受けて帰らされるだろう。


途方もない、脱力感で打ちのめされそうだった・・・

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