恐怖の五期生編⑫

「サービスとはなんだ?」


それは、本部長が本社の研修室で、僕ら五期生7人に死ぬほど浴びせた質問。

それを一般公募の男が、本部長に投げかけた。


本部長は振り返る。一般公募の男をチラリと見る。

そして、呟く。


「サービスとはね、君のようにトイレを綺麗にしたり、お客様のために、どんな小さな事も見落とさず行う事じゃないかな?」


そして、本部長は一般公募の男の肩を叩き、こう言った。

「これからも、トイレ掃除頑張って下さいね。」

そう言って、本部長はくるりと背中を向け、そのまま車に乗り込んで行った。


「うわぁーぁあーー!!」


一般公募の男が、この世のものとは思えない声で号泣した。

僕も涙が止まらなかった。


「どんな小さな事も見落とさず」

だって?


俺たち二人を見落としてるじゃないか!!

はたから見たら、トイレ掃除の男にも声をかけてる、心優しい本部長に見えただろう。

理解ある上司や、経営者の姿に見えただろう。


だけど、違う!

悪魔だ!ひとでなしだ!


サービスとは?なんて、俺たちに30周も聞いてきたくせに、

あんたなんかに、サービスの一言も語る資格はない。

語ってほしくない!


そんなもの、現場で汗にまみれ、便器に肩まで手を突っ込んだ者達なら、


どんな小さな事だって、見落とすものか!

こんな大きな見落としをしてる、あんたらなんかに、サービスを30周、いや!


100周以上聞いたって、わかるものか!!


僕ら二人は、忘れさられ、一般公募の男にいたっては、ただのトイレ掃除の人間と思われた。


A店で生き残った二人は、こうして本部長自らによって、息の根を止められた。


次の日から、A店で働く気力すら、失ってしまったのである・・・

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