S社員と作業屋編⑪

お店の集客、宣伝広告を任されたSだが、思うようにいかなかった。


まずSが発案する事といえば、折り込みチラシの部数や区域を増やす。とか

お店の専用アプリを作る。とか

店外に宣伝用のLEDを設置する。とか、

アイデアというより、お金に糸目を付けずに打ち出すものばかり。

ほとんどの案が時間をかけて事務所でデスクワークをしながら生まれたもの。

当然、金額も途方もないものになる案なので、本社で稟議が降りずに却下をくらう。

その度にマネージャーに怒りをぶつける。


「なんなんですか?この会社?客集めろ増やせとかいうくせに、案出したらすぐ却下くらって!なんも考える気も失せますわ!」


と、事務所のデスクワークで行き詰まると、休憩室でふて寝する。僕がホールから上がり、休憩室に入ると、天井に向かって口を開けて寝ている。


Sにより声を掛けられた、広告業者達が店を訪ねてくる事が増えたのだが、会社で稟議が、通らないとわかると、Sは業者にも会おうとしない。居留守を使う。

あらゆる集客のツールを探し当てて、それを行おうとするのだが、すべては机上の空論にすぎない。

広告宣伝に使える予算も決まっているし、そこに予算を使えば、その損失はお客さんを負けさせて捻出するしかないのだ。

そう、手足を縛られた状態で、泳げ!

と言われた、スロット担当をしていたころの僕に似ている。


決定的に違うのは、Sは自己犠牲をしないということ。

自分がしなければならないホール業務の時間内にデスクワーク。

いつ休憩してもいいし、どのような事案もふんだんに時間をかけることができる。

時間をかければ、さらに自分はホールに下りなくてよい。

この事案がダメなら、次の事案。この業者がダメなら次の業者。

それは新しい玩具を見つけて、飽きたら次の玩具に手を出す幼児の様だった。


結局こいつのしている事は、時間を無駄に費やしている。

お金や時間をかけずに集客していく、その難しさ。やはりそんなアイデアはSにもないのだ。

じゃあどうしたらいいのか?

という代案は僕にもなかったが、

あれをしたい、これをしたいと、言うくらい、子供でもできる。

それが通らなくなったら、休憩室で口を開けてふて寝。


その間、やはり人数の少ないホールを、僕は回し続けていた。


何が接客を良くしていこう。だ。

言い出しっぺは今、寝ているじゃないか。


でも明らかに、僕にもわかってきた。

Sはもう、行き詰まる。

不満が爆発しそうなのは、僕だけではなかったからだ・・・

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