四角い悪魔編⑦

スロットのお客さんが増えず、自店のマネージャーが怒りまくる。

「どないかして客を増やせ!なんとかして客を打たす努力をしろ!」

と、吠えたおした。


イベントの時に高設定の台に「オススメ」の札を差していたのだが、

「おっ!それええやんけ!毎日毎晩つけていけ!」

と、言われた。

晩になってお客さんが増えてくる頃になって、「オススメ」の札を付けていくとお客さんもその台を狙って座り、店内も賑わったように見えた。


「な、こうやって客を座らせるんや。毎晩客の動き見て、絶妙のタイミングで札を差していけ!」


「・・・・はい。」


すなわち、毎日毎晩、僕は帰れなくなったのだ。それでも札を差して頑張った。


「毎日バカ正直に高設定のとこに差してもあかんぞ!嘘をついてもかまわん!とにかく客を座らせろ!」


「・・・はい。」


数日後、スロット担当のマネージャーに呼ばれる。


「毎日毎晩、オススメの札差してるそうやないか?なんでや?」


「なんとかお客さんを座らせようと思いまして。」


「アホか!」


「・・・・??」


「高設定の台に札を差して打たせたら、店の利益を圧迫するに決まってるやろ!」


「でも、たまに低設定のとこにも札差してますよ?」


「低設定のとこに札差して打たせたら、次は店の信用がなくなるねん!そのうち札差しても打ってくれなくなるねん!」


「・・・はあ。」


「ええか。スロットの高設定にオススメの札を差すのは、諸刃の剣やねん。本当に高設定に差したら、利益がなくなる。低設定のとこに差したら、次は信用がなくなる。最終的に客は札を信じなくなる。札を差さなきゃ打たなくなる。差しても打たなくなる。最悪の事態を招くねん!考えたらわかるやろ!」


「・・・・はぁ。」


言うことはすごくわかる。

すごくわかるのだけれど、


じゃあどうやって、打たすんだ?

座らせるんだ?

両手両足を縛られて、それでも水の中で泳げ!と言われているようなもんじゃないか!


少しでも打たせようと、毎日毎晩店に残っていた、俺の労力は、何だったんだ?

妻が妊娠していて、もう少しで子供が産まれる状況だった。

ほんの少しでも家にいてやりたかった。


俺は、何をしているんだ。

何をすればいいんだ?


・・・四角い悪魔よ!

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