あとがき おまけ

 せっかく大ネタをぶちかましたので、おまけでようちゃんをとことんいじり倒すことにしましょう。


 めぇ。


◇ ◇ ◇


 本話。言うことを聞かない暴れ羊に手を焼いて、書き上げるのにものすごーく苦労しました。ようちゃんのキャラを設定したのはわたしですので、そういう色付けをしたっていうことなんですけどね。暴れ羊と言っても、ようちゃんがあばずれのヤンキーってことではありません。制御に必要なキャラクターがもわっとしてる上に不安定ってことなんです。主人公のキャラクターをきちんと固めてから書いてきたこれまでとは、そこがくっきり違います。


 外観は整っているんですよ。理論肌のリケジョ。温和かつ不戦派で、群れに埋没する人。でも、わたしの書いた文章から本人がそう主張するニュアンスが伝わってきたでしょうか? むしろ逆だと思います。理系思考にしては論の組み立てが浅くて、一つの事実が判明するたびに右往左往してる。温和で不戦派のはずが、むしろ攻撃的で安易に引かない。

 ようちゃんをそうさせているのは、中途半端な自分の性格へのコンプレクスと過酷なアカハラを受けたことによるトラウマ。そして自分が抱え込んでしまった精神的負債に対する、強烈な嫌悪感と反発です。自分を駆動する原動力がネガティブな感情なのでパワーが持続せず、どうしても思考や行動が短距離型ショートになるんです。それでも、ようちゃんが戦いで振りかざす剣は感情ではなく、あくまでも理論ロジックです。濃くて強い感情をぶつけ合うことを本能的に恐れる彼女は、そういう武器じゃないと逆境を切り抜けられません。


 感情と理性が不規則に混じり合って分離出来ないカオス状態。それが、本話全体を通してのようちゃんのトーンになっています。そして、このお話の最後にそれらをきれいに分離させたつもりはありません。人の性格キャラクターというのは、単純な言葉の枠に収めることなんか出来ないぐにゃぐにゃした不定形のもの。しかも、自他の評価が状況によってころころ変わってしまう。その不安定さに最後まで翻弄されるっていうのが、わたしがようちゃんに当てはめた運命フェイトです。

 さらにこの話では、主人公をきちんと制御するガイド役に当たる人物を一人も登場させませんでした。そういう人物を絡ませた途端に、ようちゃんがその人に飲み込まれて馴化してしまうからです。そこで話が終わってしまうようじゃ論外なので。


 わたしが描きたかったのは、自我形成が淡いようちゃんの不安定さ、不確かさ、弱さ。そして、不利な戦いを必死に戦い抜いても、ようちゃんを最後まで強くし切らないように話を組み立てました。プロローグに書いた羊の独白。あれは、単なる理想と願望に過ぎないってことですね。


 読後に、今一つすっきりしない、爽快感がないと思われたあなた。正解です。そういう話にしたつもりですから。


◇ ◇ ◇


 んで。実は、ようちゃんのモデルにした人物が居るんです。それは実在の人物ではなく、『まい_すぺーす』の主人公だったでんでんこと穂村理乃です。ようちゃんは、その裏バージョンなんですわ。でんでんが光ならば、ようちゃんは影になるんです。


 まい_すぺーすは、緻密なロジックを組み立てず、勢いで書き切ったライブな青春ストーリー。疾走感を出すために、主人公のでんでんをがっつり直球系にしました。でんでんは、感情表現がダイレクトで、めっちゃ行動的で、妥協知らず。ぐだぐだ考え込むのが大嫌いだからこそ、そうならざるを得ないシチュエーションに強いストレスを感じているという設定になっています。でも、出口は絶対に自力で探す。人に左右されたくない。その鉄のような意思は、最初から最後まで一貫して変わっていません。そして、精神的にも肉体的にもとんでもなくタフなんです。


 ようちゃんはその正反対。自分のポジションを、いつも人より少し下げて設定します。自我が露出することで、他人から強い感情をぶつけられるのをとにかく嫌うんです。恋愛に関しても受け身。どうしても自分を削って相手に合わせようとしてしまいますから、仲が壊れた時の喪失感が半端じゃありません。自分をもの扱いしたカレシに呆れて、やってられっかと放り出したでんでんとはまるっきり違います。

 自分をストレートに出せないストレスが溜まりやすいので、すぐにコンプレクスや自虐感を抱え込んでしまう。それによる自己崩壊を防ぐために、客観視や理論ロジックに頼る。ようちゃんは、ものすごーく屈折してるんです。


 でもね、でんでんとようちゃんの外からの評価。それは、あまり変わらないんですよ。友人たちとは普通に冗談や軽口を交わしますし、物事への取り組みも真面目で熱心です。勘がよく、アイデアも豊富。動き出したらばりばり進む点もよーく似ています。でも、でんでんの陽性、積極性が本性そのものなのに対し、ようちゃんのそれは努力の結果であり、ポーズであり、ディスプレイでもあり……。決してストレートな自己表現ではないんです。


 つまりこのお話は、まい_すぺーすを書き上げた時に、そのアンチテーゼとしていつか書こうとずっと温めていたネタ。ただ本話は屈折率が極端に高いので、ようちゃんのキャラ設定も含めて編み上げるのにすっごい手間取ったってことなんですわ。


◇ ◇ ◇


 わたしはようちゃんに、自我形成とは別のテーマを一つ持たせました。


 本話の中では、ようちゃんは一貫してずーっと被害者です。そして、加害者が自分に対して露骨な敵意を持っていないことに苦しみます。ダイレクトに敵視されるのならさっさと逃げればいいんですが、そういうわけではありませんから。受けたダメージの加害責任を他者に転嫁出来ないようちゃんが、自分の傷口をどうやって塞ぐか。それがもう一つのテーマなんです。


 人を信じるよりも、信じられなくなる方がずっと直感的で、早くて、強いです。誰かに付けられた傷を完全に癒す、つまり『許す』ってことは、わたしは誰にも出来ないと思っています。出来ないからこそ、その安全弁として寛容や許しを旨とする宗教ってのがあるんですよ。

 ようちゃんの周辺人物は、ようちゃんの心の中では一度、一人残らず『敵』に位置付けられました。だからこそ孤立のダメージが大きくて、自死を考えてしまうほど追い詰められたんです。もちろん、自分の対極に置くと言ってもその位置は様々です。お姉さんやかつての学友は、立場が違うから自分と同一視出来ないっていうだけ。もともと距離が近いし、その位置付けは最初から変わってません。ようちゃんが徹底的に嫌っている尾上教授や母親は、ずーっと魔界の化物のままで、これまた位置付けは変わってません。でも、最初距離が近かった白田さんや社長から受けた裏切りのダメージは、暴君の尾上教授から受けた傷よりずーっと深かったんです。激しい自爆を回避出来ないほどね。


 そしてこの話の中では、ようちゃんに一度も『許す』と言わせていないことにお気付きでしょうか? ようちゃんは、どうしても『許せない』んですよ。でも、最後は白田さんや社長とうまく付き合えてる。わたしはこのお話で、『許す』以外の選択肢を提示したかったんです。それは『停戦』であり、『休戦』です。

 いいんですよ。全部の悪感情を消せなくても。それはそれで。それよか、マイナス感情に自分の行動を支配させないために、どっかに線を引いて、その向こうに放り出しておく。どこに線を引いて、どのように放るか。その方法はいろいろあっていいと思います。

 許せないこと自体にこだわり過ぎると、その対極にある自分と距離の近い誰か(何か)への安易な依存や隷属に繋がりかねません。自分をいろんなしがらみから切り離して、フリーハンドにしておく。自分をどこにくっつけ、どこから離すか、その作戦を冷静に立てるための時間と居場所を確保する。わたしは、それが停戦、休戦だと思ってます。


 話のラスト。関係者全員がアットホームな雰囲気で仕事している光景を描き出しました。ですが、この情景はあくまでも停戦下のもの。ようちゃんと社長との関係も含め、百パーセント互いを信頼出来るってことは二度とありません。でも、それでいいんですよ。だからこそ、互いの距離をきちんと意識するんですから。

 安易な敵視や同一視を排除して互いの距離を冷静に調整出来るなら、無条件の仲良しこよしよりもずっとトラブルをさばきやすくなる。わたしは、そう思っています。


◇ ◇ ◇


 最後に。この番外編の冒頭、そしてあとがきでも書きましたが、ようちゃんのキャラは自他の評価が大きくずれています。


 BBACA が自己評価。

 CABBB が他者評価。


 これは、エゴグラムのスコア。それぞれ、CP、NP、A、FC、ACのスコアです。当然ですが、その人の置かれた状況や人間関係、運勢、そして自己努力によって、このスコアは自他ともに変化して行きます。


 みなさんも、お暇な時に一度やってみてください。めぇ。



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めぇめぇ戦記 水円 岳 @mizomer

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